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勇者召喚から帰還したら、世界中にダンジョンが生えていた。……なんで?  作者: なづきち
第二章

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09 駆け抜ける

 カタカタカタカタカタッ!


 わたしの前に立ち塞がったのは、粗末な甲冑と槍を装備したスケルトンたちだった。アーマードスケルトンは異世界アルスリオにも結構いたけれど……足軽スケルトンとでも名付けたくなるような見た目だ。このエリアも和風テイストであるし、ダンジョン化する際に飲み込んだ美術館が何か影響していたりするのだろうか。


「はあっ!」


 バゴンッ!!


 スケルトン系は打撃に弱い。纏っている甲冑も面積が小さく防具の体を成していると言えないようなレベルであるし、拳縛りしている今のわたしには絶好の相手とも言えた。

 右の拳で一体目の頭蓋骨を砕き、左の拳で二体目の骨盤を砕き、前蹴りで三体目の肋骨を砕きつつ後ろのやつらも巻き込ませる。

 しかしスケルトンたちはどんどん湧いてくる。この先の廊下をみっちりと埋め尽くすレベルだ。……それでモンスターたちも満足に動けるのだろうかという疑問が湧きつつも、人間を通さない壁と考えれば効果はある。

 まぁ、わたしには関係ないのだけれども。

 さすがにちまちまと倒しているのは効率が悪い。わたしはクラウチングスタートのような体勢を取り。


「加速《アクセル》、雷光《ライトニング》」


 体に雷を纏い――勢いよく踏み出す!


 ドオオオオオンッ!!


 一条の雷となり、廊下を駆け抜けた。

 言うなればただの体当たりだけれども、下手な岩より硬いこの身と雷速の効果により、立ち塞がっていたスケルトンたちは甲冑ごと砕かれた。

 ……これも一つ難点があって、曲がれないし急に止まれないので、近い位置に壁があると当然ながらぶつかることになる。今も止まり損ねて壁にすり鉢状の大穴が空いてしまった。ダンジョンによっては破壊不能オブジェクトになっていたりするので、気を付けないと自爆してしまう。


「……おっと、二人と離れすぎちゃった」


 廊下のモンスターは全て粉砕したけれど、また新たに湧かないとも限らない。防御《プロテクション》の腕輪を渡しているし、この程度なら少量であれば赤月さんでも対処できるだろうけれど、不安要素は作らないに越したことはない。

 急いで廊下を戻ってみれば……二人ともポカンと目を丸くしていた。


「……えっと……わたしのせいだとは思うんですが、ダンジョンで気を抜かない方がいいと思いますよ……?」

「はっ……そ、そうね。迂闊だったわ」

「い、いやいやいやいや……なにこれぇ……」


 赤月さんは戻ってきてくれたけれど、シノは愕然としたままだった。


「……シノ、レッドの動画は観たんだよね?」

「観たけど! 観たけどさぁ……実物を目の前にすると迫力が違いすぎるって!!」


 それはそう、かも。

 苦笑するわたしであるが、内心で冷や汗をかくようなことをシノが呟く。


「メイエキタワーダンジョンの時の謎の人といい、人間がこんなすごいことができるなんて、ビックリもするよぉ……」


 ……それもわたしなんだよねぇ……。あんまりやりすぎると結びつけられてしまうだろうか。ヒナタいわく、纏う雰囲気が違いすぎるそうだけど……。精霊王の力を借りた状態だから、本気モードのエルフェリアよりも精霊の気配が強いんだよね、あれ。

 まぁ非常事態でそんな保身を考えてはいられない。今はこの二人を無事に外に帰すことを優先しなきゃ。


「真面目に探索者《ダイバー》を続けていればシノも強くなれるよ。ダンジョンってそういう場所だから」

「……で、でも、セツナのはなんか違くない?」

「違わないよ。……まぁ、その、わたしの場合は色々あったけれど、結局は訓練と実戦を重ねただけだからね」


 ただわたしの場合はエルフェリアが懇切丁寧に助けてくれたからなので、まだ魔法が広がっていないこの世界の人たちが強くなるには時間が掛かることだろう。それでも、不可能ではない。


「訓練はともかく……実戦って、どこで?」


 という問いには曖昧に笑ってごまかすしかなかった。

 コホンとわざとらしく咳払いをして「先へ進みましょう」と会話を打ち切る。



 ◇◇◇◇◇



 その光景は、レイカとシノからすれば、圧巻という他なかった。

 セツナの小さな体から繰り出される拳が、蹴りが、いとも容易くモンスターを打ち砕く。シノは色々な探索者《ダイバー》の配信を観てきたが、ここまで圧倒的な強さを持つ探索者《ダイバー》は観たことがない。配信していない探索者《ダイバー》もいるのは知っているけれど、それでもセツナの強さは段違いに見えた。

 レイカの方はもっと強く肌で感じ取っている。この未探索領域は、おそらく最下層とされている十五層よりモンスターが強い。トクガワダンジョンはメイコーダンジョンと同じく中級ダンジョンと位置付けされているのだが、これまでに感じたことのない圧をモンスターたちが放っていた。一対一ならレイカでも勝てる。しかし、大量に囲まれてはまず無理だ。だというのに、セツナは何十というモンスター相手に引かず、逆に押し潰していく。


 カタカタカタカタカタッ!


「見えてるよ!!」


 ただのオブジェクトのように見えた壁のふすまが破壊され、大量のモンスターがなだれ込んでくる。しかしセツナは慌てることなく、冷静に殴り飛ばしていく。それは出現モンスターに変化があっても変わりない。

 始めのうちは粗末な装備の足軽スケルトンしかいかなったのだが、段々と装備が豪華になり、足軽大将とか、侍大将とか言えそうなランクへと上がっていった。もちろん装備が豪華になっただけでなく、モンスターたちが纏う圧も上がっていった。特に侍大将ランクとなると、一対一でもレイカの実力では怪しい。

 それでもセツナは出た端から一蹴する。磨き上げられた甲冑は蹴りであっさり凹み、何人もの人の血を吸っていそうな妖しい刀も拳で折られる。戦車を相手にしては何もかも踏み潰されてしまうかのように、呆気なく。

 たまに道を間違えたのか行き止まりに遭遇するけれど、そのような愛嬌のある、言い換えれば人間味のある行動を取っていなければ、嵐か何かの化身ではと思ったかもしれない。

 当のセツナは二人がどう思っているかなど想像することもなく、ふと立ち止まり、首を傾げて土壁を見る。


「んー……?」

「……どうしたのかしら?」

「いや、なんか引っ掛かるな、と。……ここが他に比べて探知《ソナー》の魔力の反射がおかしいんですよね」


 そのようなことを言われても、シノの目にもレイカの目にも、同じような壁にしか映らない。

 セツナは「まぁいいか」と呟き、先へ進むのかと思いきや……拳を振り上げ。


 ドゴンッ!!!


 壁を、殴り付けた。


「あ、やっぱり隠し通路だ。この先に強いモンスターの反応がありますし、こっちの方が出口に近いと思いますよ!」

「「……」」


 ショートカットできそうなことに喜ぶセツナは、二人がなんとも言い難い表情をしていることに気付かない。

 サッと中に入ってしまったので慌てて追いかけると、そこは二十畳ほどの大きさの広間だった。そして明らかに装飾が豪華だ。壁には掛け軸があり、花瓶(花は活けられていないが)が置かれ、刀掛けに複数の刀が飾られている。

 そして中央には、煌びやかな甲冑と陣羽織を身に着けた、一際大きなスケルトン。顔には天狗面が付けられており、空いた目の部分からはチロチロと炎が零れている。その様相は、戦に望む殿様のようにすら見えた。

 明らかなボスの登場に、二人の間に緊張が走る。しかしセツナはここでも変わらず。


「加速《アクセル》、筋力強化《ストレングス・エンハンス》」


 冷静に強化魔法を唱え。

 刀を構えるボススケルトンと対峙したかと思いきや。


「はああああああっ!!」


 ドンッ!!!


 赤い閃光となって、ボススケルトンを上下に分断するような大穴を空け放った。

 シノとレイカは、その圧倒的な蹂躙から、目を離すことが出来なかった。


「……あの、レイカさん」

「何かしら」

「……アタシたち、頑張ればあそこまで強くなれるんでしょうか?」

「それは……わからないわ」


 でも、とレイカは続ける。


「あれが本当に人に届きうる到達点の一つなら……燃えるわね」


 その目には畏怖と同時に確かな炎が宿り。

 シノも「……そうですね」と頷くのだった。

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