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勇者召喚から帰還したら、世界中にダンジョンが生えていた。……なんで?  作者: なづきち
第二章

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07 トラップ

「誰か、トクガワダンジョンダンジョン第一層の出現モンスター言える?」


 赤月さんの問いに、シュバッと手を挙げたのは伊藤くん。「ビッグラットとジェリースライムです!」と自信満々に答えた。


「正解。じゃあこの先に何がいるかわかる?」

「……わ、わかりません」


 と追加の質問には残念ながら答えられなかったようだが。仕方のないことだけどね。

 数秒の沈黙が続き、誰も答えられないことを察した朝比奈くんが代わりに引き継ぐ。なお、わたしはあえて黙っている。


「わずかに水音が聴こえるのでジェリースライムです」

「正解。みんなも視覚だけでなく五感全てを使って察知できるようにね。早く気付けば気付くほど安全に戦うことができるし、場合によっては逃げる選択も取れるから」


 ちなみに、慣れるといわゆる気配だとか、魔力の揺らぎだとかでわかるようになる。それでも場所によっては気配も魔力の揺らぎも全くないモンスターが出たりするので油断は禁物だ。


「じゃあ朝比奈くん、ついでに倒してみる?」

「わかりました」


 さすがダンジョン経験者、シノと伊藤くんがモンスターとの初遭遇で緊張に身を震わせる中、気負いなく前へと出て剣を構えた。

 ピチャピチャと小さな音が鳴り、曲がり角からジェリースライムが顔(丸っこいジェル状のこの体にあるのか?)を覗かせる。すぐさま朝比奈くんは剣を振り上げ、ジェリースライムの体の中心――核へと振り下ろした。ビシャンと音を立て、ジェリースライムは呆気なく塵となるのだった。

 朝比奈くんの初心者にしては鮮やかな手並みに、赤月さんが拍手を送る。


「君、剣道とかやってたの?」

「いえ、とある探索者《ダイバー》の配信の見様見真似です」

「へぇ……それでそこまでできるなら大したものだよ。筋がいいね」


 師匠に教わったりせず、自己流でそれならすごいものだ。わたしの剣の師匠ともいえるリオも、自己流で強くなったって言ってたっけ。……師匠といっても、とにかく実戦形式で打ち合うばかりで型を教えてもらったとかないんだけども。むしろあの人は師匠の自覚すらなさそうだ。

 先へと進み、都合よくモンスターが一体ずつ現れたので、わたしたちもそれぞれ一対一で戦うことになった。


「伊藤くんは剣を振るう時に目を閉じないこと。当たるものも当たらないし、敵の攻撃に対応できなくなるよ」

「は、はいいぃ……!」


 男子らしく剣の勢いはあるけれど、狙いが悪くて避けられてしまっている。それでも最終的に当たってなんとかジェリースライムを倒すことに成功した。


「んー、槍について詳しくは言えないけれど、腕が縮こまっているよ。あと、しっかり踏み込んで、体全体のばねを使って」

「はい……っ」


 シノがちょろちょろと動き回るビッグラット相手に右往左往しながら槍を突き出していたけれど、赤月さんのアドバイスを元に鋭い一閃を放つことに成功し、ビックラットを倒した。


「シノ、お疲れ」

「ありがとー。いやぁ、アタシに戦いなんてできるのか不安だったけど、やればできるもんだねぇ」


 それは確かにすごい。わたしは初め、モンスターを倒すことを躊躇してしまっていた。それまでの人生で命を奪うような戦いをしたことがなかったからだ。シノ……に限らず、訓練を始めたばかりの高校生が戦えるもの、きっと配信で戦いを観ることに慣れたからだろう。観るのと実戦で大きな違いはあっても、『そういう世界』が身近にあるのだと知れば心構えも変わってくる。

 さて、最後にわたしだ。ジリジリと近付き、ビッグラットが跳びはねようと身を沈めたタイミングで剣を叩き込む。もちろんめちゃくちゃ手加減したので大丈夫、だと思いたい。


「わ、セツナもやるじゃん!」

「あはは、当たって良かったよ」

「お見事。うん、特に注意点はないかな」


 赤月さんも拍手してくれた……のだけど、何故か、朝比奈くんにやたら強い視線で見られている。しかし特に言及もされず、フッと視線を逸らされた。……どこか不自然なとこあったかなぁ。


「相良さんは何かやってたの?」

「いえ、わたしも同じく見様見真似ですよ」

「そっかー。今の子は吸収が早いんだねぇ」


 ……リオだけじゃなく、召喚当初の担当教官も懇切丁寧に教えてくれることなかったし、とはもちろん言わない。あれはおそらく、諦めもあって投げやりになってたんだろうなぁ、などと今になって思う。

 内心を煤けさせながらも、ダンジョン実習は進む。さすが初心者向けに勧められているだけあって、トクガワダンジョン第一層は低難易度だった。トラップはなく、モンスターの出現率は低く、出現したとしても大体一体、多くても三体。弱いモンスターしか出ないので落ち着いて対処ができる。迷路のような作りであっても、精々行き止まりがあるくらいで本格的に迷わせるようなタイプではなかった。少しずつダンジョンの空気と戦いに慣れてステップアップするには良い塩梅だ。シノも伊藤くんもだんだん硬さが取れてきた。

 ダンジョンというのはモンスターを生みはしても、人類に敵対する施設ではない。むしろ恩恵を与えてくれるともいう。ダンジョンによって大きく難易度は変わるものの、モンスター討伐によって人類が強化され、各種資源も得ることができるのだから。……平和に生きてきたこの世界にとっては異物であるというのはそれはそうだし、サボりすぎると噴出《アウトブレイク》が起こってしまうのも難点ではある。


 ……そう、ダンジョンは色々と有益な面はあっても、決して無害ではない。


「……ん?」

「どうしたの、セツナ」

「いや、なんか……変な感じがして」


 シノに声を掛けられながらも、わたしはあちこちに視線を飛ばす。特に不審な物があるようには見えない。しかし……どこか、違和感がある。


「赤月さん、第一層ってトラップはないんですよね?」

「え? えぇ、第一層どころか第七層までないわ」

「『ない』と、どうやって確認したんですか?」

「……えぇと……罠探知《ディテクトトラップ》の魔法が使える人が調べた、だったかしら」


 なるほど、その魔法は発見されているんだね。……ちなみにこの魔法による探知をすり抜けるトラップもあるので絶対視はできない。

 そして……ダンジョンの悪意なのか、はたまた試練のつもりなのか。モンスターが湧くように、トラップが新たに湧くこともある。なので専門に調べる斥候職は結構重宝されていた。うちはエルフェリアがオールマイティだったから不要だったけども。

 さすがに第一層、それも明らかに低難易度のこのダンジョンではまず起こらない……と、思いたかった。


 ゾワリと、悪寒が走る。


 勇者時代のわたしであれば対処できただろう。

 しかし、今は力を隠そうとしていた。手を抜いていた。それがいけなかった。

 初動が遅れてしまった。


「マズっ……! シノ!」

「え? え? なに!?」


 咄嗟にすぐ横にいたシノに手を伸ばす。

 直後、ぐわんと視界が歪んだ。転移系のトラップだ。

 まるで空間が布になり、ある一点でつままれているように歪んでいく。ぐるぐると回転を続け、足元も布になったかのように頼りない感触へと変化する。立っていられず倒れそうになるシノを支えながら、流れに身を任せる。下手に抵抗をすると余計に酷い結果になることがあるからだ。転移系は、これで直接死ぬことはほぼないので、ハマってしまったら大人しくしているに限る。……逆にいうと、間接的に――転移先で死に追いやる何かがあるのは、よくあるのだが。


 やがて視界が元に戻ると……目に移ったのは、これまでの石造りとは打って変わった見た目だった。床は板張りとなり、壁はところどころに木製の柱が建っているものの、土でできた壁になっており、頭上も板が張られている。歴史の授業で見た、古い家屋の中のようだった。

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