06 ダンジョン実習開始
トクガワダンジョン出張所前の広場にて、わたしたち探索者科一年二組の生徒が担任の佐々木先生を前にして整列している。二十名全員、欠けることなく出席だ。
そして、先生だけでなく、今回のゲスト講師である探索者たち五人が横に並んでいて、生徒たちは有名人を目の当たりにしているかのように(実際に有名人ではあるのか)はしゃいでいる。……わたしは、なんというか、別の意味で緊張しているのだけど。
「あー、おまえらなら知っていると思うが、地元でも有名なメイダイバーズと金鯱旅団だ。あいさつしろー」
「「「おはようございます!!!」」」
……そう、ゲスト講師のうちの二人がまさかのメイダイバーズ――わたしが数日前に、メイコーダンジョンでレッドに変装して助けたパーティのメンバーだったのだ。仮面で顔を隠していたので見られてはいないのだけど、体格は同じだし……いやいや、わたしみたいな無名の探索者にしてただの生徒(というとヒナタに盛大に突っ込まれそうだけど)を、疑うことなんてしないだろう。
「この中には視聴者の子もいるのかしら? 一応初めまして。メイダイバーズで剣士をやっている赤月レイカよ」
「同じくメイダイバーズの剣士、倉井ツカサだ」
「俺は――」
「知ってるー」だの「実物で見るとかっけー」だの、色んな声が飛び交う。彼らはそのような反応は慣れているのか、手を振って応えていた。
……あの腕を失っていた剣士の人、元気そうでよかった。エルフェリアの治療であれば失敗することはまずないはずだけど、こうしてこの目で確認するとホッとする。帰ったらエルフェリアにも教えてあげよう。
軽くトクガワダンジョンの注意事項が述べられてからグループへと分かれる。トクガワダンジョンはメイコーダンジョンに比べると狭い。面積という意味ではなく、通路が狭いという意味でだ。なので四人ずつの五グループを作成し、各グループに一人ずつ講師がつくと事前説明され、今回はくじでグループ分けも済んでいる。
わたしのグループのメンバーは、わたしとシノ、それから朝比奈くん、伊藤くんだ。ミズキとサラのグループには藤堂くんが入っているので、女子に配慮があったのかもしれない。ちなみにであるが、初期値はともかくとして、男女に成長の差はない。なので、女子が不利ということもない。……むしろわたしの周囲はエルフェリアしかり、リオしかり、強い女性ばかりかもしれないな?
「じゃあよろしくね」
「「よろしくお願いします!」」
どうやら赤月さんがこのグループの担当らしい。シノと伊藤くんがファンなのか、目をキラキラさせて元気よく返事をしていた。朝比奈くんはそうでもないのかお辞儀をしただけで静かなままである。
軽く自己紹介をしてから順番に受付を済ませていく。ここでもわたしのことが知られているのか、受付の男性がライセンスカードをスキャンした後にわたしの顔を見たけど、特になにも言ってくることはなかった。実習でも同じくドローンがグループごとに貸し出され、先生が見るために学校のアカウントでプライベート配信の設定をしていく。
……なお、この実習で生徒が大怪我をしようと、最悪死のうと、自己責任となっている。入学時に念書を書かされたくらいだ(わたしは記憶にないけど)。さすがに故意に傷付けられれば話は変わってくるけどもね。実際にみんながどこまで覚悟を持っているのかはわからないけれど、十五歳にしてダンジョンに挑むことを選択した勇気は素晴らしいものだとわたしは思う。
「わぁ……ほんとにパッと移動するんだ。それにこれが本物のダンジョンかぁ……。配信で知ってたけど、実際に入ると空気感が違うねぇ……」
入口の転送ポータルへと入ると、目の前に現れたのは石レンガで組まれた壁と、石畳が敷かれた迷宮だった。瞬間移動を初めて体感したシノが感動したように呟く。
空気感が違うのはある種の閉鎖環境だから、というのとは違うだろう。ダンジョンは魔力で生成された建造物であり、その内部は外に比べて遥かに魔力が濃い。それを肌で感じ取っているのだと思われる。習わずともうっすら魔法を使っていたことといい、魔力に対する感受性が高いのだろうか?
「この中で、もうダンジョンに入ったことのある子はいる?」
赤月さんの質問に朝比奈くんが手を挙げ、誤魔化して後でバレた時が怖いのでわたしも素直に手を挙げる。赤月さんが何度か目を瞬いてわたしを見た。……メイコーダンジョンで一瞬すれ違ったけど……顔を覚えられていたとか……?と内心で冷や汗をかきかけていたが、何かを言われる前にシノがぎょっとした声を上げる。
「ちょ、セツナいつの間に!?」
「連休中にアリマツダンジョンに行ったんだよね」
「もー! 教えてよー! 一緒に行きたかった!」
「ご、ごめんね」
グループチャットに気付いたのがその日の夜だったからね……。わたし視点で世界が変わりすぎてたショックのせいか、情報端末の通知を見落としていたんだよ……。
「そこの……朝比奈くんだっけ、君はどこのダンジョンに?」
「同じくアリマツダンジョンと、このトクガワダンジョンです」
「おや、ひょっとして解説は不要かな?」
「いえ、先達のお話は聞かせていただきたいです」
朝比奈くんは随分と落ち着いた人だな。わたしの中身はプラス五歳だというのに、ひょっとしたらわたしより落ち着いているのではなかろうか……悲しくなるから考えるのは止めよう。
全員武器を抜いて、赤月さんの後をついて歩く。武器は事前に自分で用意するか、学校を通じて購入するかのどちらかだ。後者は無利子ローンが組めるので、武器を所持しないことは禁止されている。当たり前の話だろう。モンスター相手に初心者を無手で挑ませるなどありえない。
わたしの持っている武器も学校経由で買ったショートソードで、伊藤くんも同じ、シノが槍を持っていた。そして朝比奈くんは自分で用意したのか、学校のカタログにはなかったロングソードを持っていた。盾は強制ではないけれど、わたしたちが小さなバックラーを腕に括りつけているのに対して、朝比奈くんはポリカーボネート盾(機動隊が持っているアレを小さくしたやつ)だった。準備がいいなぁ……いやむしろ彼以外が悪いというべきなのだろうか。初心者向けダンジョンとはいえ、命のやり取りをする場所に足を踏み入れているのだから。まぁアルスリオの場合はもっと粗末な装備で突っ込む人も多かったけれどもね……。
「このトクガワダンジョン、特に浅層はマッピングされつくしているけれど――」
赤月さんは講師らしく、淀みなくスラスラと解説をしていく。わたしが聞いても特に問題点らしき箇所はない。ここ数年で出来上がった指針とは思えないくらいにしっかりしたものであるのは、アルスリオと違ってインターネットを通じて全世界の情報が集められるからだろう。もちろん秘匿されている事項はあるにしても、基礎の基礎を隠す理由はない。この世界は混乱で争うこともなく、協力して立ち向かうことを選んでいた。……それでも資源泥棒はいるのだけども。
ふむふむと感心して話を聞きながら歩いていると……違和感を覚えた。なんだろう、この妙な空気。不自然に思われない程度にキョロキョロしていると、奥の角の向こう側でモンスターが蠢く気配がした。これのことか。とはいえ赤月さんより先に気付くのは不自然だろう。知らないフリをしていたら、やがて赤月さんも気付いたのか、会話を止め、スッと腕を伸ばしてわたしたちの進行も止める。
「モンスターがいるね」
隣でごくりとシノが息を飲む音が聞こえた。




