21 中ボスラッシュ
「おっと!」
またもダンジョンの外壁が壊れ、モンスターが飛び出してくる。これで三回目だ。空を飛べるモンスターでもなければ放置して進むこともできるけれども……下に落ちたモンスターたちが一般人を襲い始めたら目も当てられない。特に上層になればなるほど落下ダメージを物ともしないほどモンスターが強くなるし、このダンジョンは下層ですらまともに攻略できていなかったので、探索者たちが駆けつけてきていたとしても返り討ちに遭ってしまうかもしれない。
倒すこと自体は簡単。しかし一体たりとも放置してはいけないのが地味にプレッシャーとなって圧し掛かっていた。
「でも……それがどうした!」
ヒナタには手を出させないと、これをなんとかすると決めたのだ。
だから、ただそれを遂行するのみ!
「はあああああっ!」
わたしは迫りくるスチールゴーレムたちを斬り伏せる。今更、ただの鋼鉄など何の障害にもならない。一際大きなセンチネルゴーレムもいたけれど、少し火の魔力を強く篭めただけでバターのようによく斬れた。
最後に壁を埋めて封印。この作業にも慣れてきたな。
さらに上へと飛ぶと、今度はミノタウロスが壁を壊しつつわたしに向かって跳びかかってきた。飛ぶ能力を持っていないので避けるだけで落ちていくけど、こいつは体が頑強で絶対に落ちても生き延びる。わたしは剣を前に突き出してあえて突っ込み、ミノタウロスの腹に大穴を空けてその勢いのままダンジョン内へと侵入する。
しかしそれは少々考えなしだったようだ。がくりと、力が抜ける感覚がした。
「これは……魔法禁止フィールド!?」
名前の通り、魔法の使用を禁止するフィールドである。そのせいでいくつかのバフが剥がれてしまったようだ。唐突な落差に体が重く感じる。
その好機をモンスターたちが見逃すはずもない。ミノタウロスたち――肉弾戦が得意なモンスターが配置されていたのはダンジョンの悪意か、それともダンジョン内における適者生存か。部屋が揺れるほどの大きな足音を立てて、肉の壁がわたしへと迫りくる。
魔法剣の刃も消え、空間収納も反応しない。武器を失ったわたしは――
「どっ……せい!!!」
拳を握りしめ、頭突きしてきたミノタウロスの頭を砕く。
確かにわたしに掛かっていたバフは切れた。けれど、精霊たちの加護は弱くなっていても残っている。精霊王を完全に封じるほどの強い力場なんて早々にない。そしてなにより、エルフェリアの祝福が残っている。彼女の想いはこの程度では消えないし、わたしが消させない!
「魔法を使えなくすれば勝てると思ったか!」
殴り掛かってきた拳を砕き、体当たりしてきた肩を砕き、ボディプレスは腹を砕いて体を上下に二分割させた。
実際、ミノタウロスはそこまで大したことのないモンスターであり、もっと固いモンスター、もっと力の強いモンスターはいくらでもいた。今こいつら相手にわたしが楽勝なのは残っているバフの影響もあるだろうけど、バフがなくても勝てる程度の相手だ。まぁ、わざわざ時間の掛かることをしている場合でもない。
ミノタウロスたちは引くに引けないのか、やけくそ気味な空気で絶えず襲い掛かってきたけど、なんとか全部倒すことができた。
「とはいえ、タイムロスしたな……急ごう」
同じく封印した後、バフを掛け直して上への進行を再開する。
元々のツインタワーは五十数階までだったはずだけれども、ダンジョン化した時に伸びて目算で倍くらいになっている。これを普通に下から一層ずつ攻略しようとしたらさぞ時間が掛かることだろう。噴出が発生しないよう間引きするのはしばらくはわたしの役目になるだろうから、階層間転移ポータルがあることを祈るしかない。
推定五十層を越えた辺りから、モンスターの性質が変わってきた気がする。ヘルハウンド、デーモン、シャドウスライムなど、闇属性を帯びたモンスターばかりになってきたのだ。天井のあるダンジョンという性質なのか、空を自在に飛び機動力のあるモンスターが少なく、飛び出してきても早々手こずらないことは幸いか。ただ、掃討のために内部に侵入するたびに、闇属性モンスターがよく使用するデバフ効果のある空気まで浴びることになるのがちょっと気持ち悪い。エルフェリアの祝福がなければ消耗は増えていたことだろう。帰ったらいっぱいお礼を言おう。
性質が変わっても、光属性が得意なわたしにとっては大した問題ではない。順調に上へと進み、やっと最上階が見えた……と思ったところで。
グオオオオオオッ!!
「ほわっ!?」
これまでは一階層ずつだったのだけれど、二階層分の壁をぶち破ってマンティコアがわたしに向けて咆哮する。付随する恐怖のデバフはかからなかったけど、音圧で少しばかり吹き飛ばされてしまった。
ジャッ!!
体勢を崩しているうちに毒針が撒き散らされた。わたしはそれを精霊王のマントで絡めとり、空間収納へと収納する。落としたらしゃれにならない。続けて毒のブレスも吐き出されるが、それも前に飛びながら避け、マンティコアへと剣を向け斬りつける。しかしそれは影に潜られることで避けられてしまった。
ダンジョンの中へと入ると、そこは暗闇フィールドだった。壁が破られたことで外の光が差し込んでいるが、奥は暗く見通せない。光を仄かに放つ装備をしていても、それを打ち消すほどの闇。なるほど、影潜行ができるマンティコアにとって、絶好の狩り場所だろう。
「探知」
マンティコアの位置を探るべく実行してみたものの、情報は何も返ってこなかった。ミノタウロスの時のように魔法を禁止されているわけではないけれど、阻害はされているような感覚。耳をすませてみても息遣いや足音が聞こえてくるわけでもない。無明、無音の世界。
忍び寄る、モンスターという名の殺意。
「ふっ!!」
ガアアアアッ!?
マンティコアが後ろから襲撃をしてきたけれど、カウンターで剣を振る。どこかを斬り裂いた感覚はした。
見えていなかろうと、聞こえなかろうと、おまけに臭いもなく魔力感知もできないけれど、殺意でバレバレである。殺気まで完全に消すダークストーカーだったらわたしに一撃を与えられていたかもしれないけど、残念だったね。
わたしが剣を振った後の隙を狙っていたのか、また別のマンティコアが横から襲い掛かってくるが、わたしは回転するように横をすり抜け、ついでに胴体を抉り、尻尾を斬り放す。
ゴアアアッ!
おっと、毒ブレス。少し掛かったけれどわたしを蝕むほどではないし、エルフェリアの祝福が癒してくれた。放たれた方向からもう一体の位置を割り出し、首らしき場所をはねる。
次は無音で三体同時に飛びかかってきたけれど、まず右からきたマンティコアの方へとあえて突っ込み、相手の突進力も利用して左右に斬り裂く。続けて刃を伸ばしながら横に一回転、残る二体もまとめて斬り――
ガキンッ
おや……? どうやら爪で防がれたようだ。わたしの魔力剣を防ぐとはかなりの硬度だ。さすがにダンジョンのほぼ最上層階といったところか。
剣を上から、下から跳ね上げるように斜め上へ、切り返して真横に。どれも防がれてしまう。
……いやこいつ、マンティコアじゃないな? 同じく剣を持ち、剣の扱いに長けた別のモンスターと見るべきだろう。
相手から斬り掛かってくる時のほんのわずかな空気の動きを肌で感じて剣を掲げて弾く。弾く。弾く。かなり膂力が強く、弾くたびに腕に一瞬しびれが走る。わたしの剣の腕はそこまで高いわけでもないので、続けていたらヤバイかもしれない。
しかしわたしは純粋な剣士でもないし、武士道精神を持っているわけでもない。
「光の槍!」
ガッ!?
剣を打ち合わせた瞬間、モンスターがいると思わしき場所の足元に光の槍を発動。串刺しにすることに成功したのか、前方からの圧は消え、カラリと剣が落ちる音がした。
他に気配はない。どうやらこいつがこのフロア最後のモンスターだったようだ。手探りで残された剣を拾って、日の当たるところで確認してみたら……フォールンナイトの剣だった。おぉう、めっちゃ剣の強いモンスターだったよ。怪我もなく勝ててよかったぁ。
三分ほど小休止してから、また外に出て、封印して、上へと向かい。
ついにわたしは、屋上へと辿り着くのだった。




