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勇者召喚から帰還したら、世界中にダンジョンが生えていた。……なんで?  作者: なづきち


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20/25

20 攻略開始

 わたしは空を駆けながら、探知ソナーを広範囲に実行して異変を探す。ダンジョンの噴出アウトブレイクの影響で魔力が活性化し、ダンジョンの外であってもモンスターが湧く可能性があるからだ。

 嫌な想像は的中し、すでに地上に十数体のモンスターが湧いていた。運良く人の往来がない場所に湧いたモンスターもいるが、人を追っている途中のモンスターだっていた。訓練していない普通の人間であっても、弱いモンスターが相手なら十分に倒せるのだが……混乱して逃げている辺り、無理な話だろう。周囲に対モンスター訓練を受けた警察官か探索者ダイバーがいればいいのだが、どちらもまだそこまで数が多くないのが現状。

 ただ今回は、わたしがいる。


照準固定ターゲッティング多重マルチプルからの、光剣の雨(ソードレイン)!」


 わたしは光の剣を雨のように降らし、モンスターを串刺しにしていく。勇者時代は好みで雷光ライトニングを使っていることが多かったのだが、レッドと関連付けされても困るので今回は光の剣を選択した。照準魔法は同じだけど……一瞬だけ展開される小さな魔法陣に気付く人はいないことを祈ろう。

 飛行速度を緩めることなく二度、三度と探知ソナーを繰り返し、同様に湧いていたモンスターを倒していたのだが……一件、どうやら少し遅かったらしい。大怪我をした人が出てしまった。まだダンジョンの方に余裕はありそうなのでそちらに降りてみる。

 わたしが空から降り立つと、怪我人に寄り添っていた少女が「ひっ!?」と悲鳴を上げた。驚かせてごめんと内心で謝りながら、怪我人である女性の様子を見る。大きく肩が切り裂かれていたが、かろうじて繋がってはいる。喪失していないならわたしが治せる範囲なのでホッとした。普段のわたしならこのレベルでも無理だけど、今はバフもりもりだからね。


清めの光ピュリフィケーションライト異物除去オブジェクトリムーブ


 まずは傷口を洗浄し、砕けた骨の破片と取り除く。それらの魔法を少女が目を丸くして見ていたが、混乱して邪魔をしないでくれるなら放置。


癒しの光(ヒーリングライト)


 傷口に手をかざし唱えると、砕けていた骨は前より頑丈になり、千切れていた血管と神経は繋がり、そしていっそ気持ち悪いくらいの動きで肉が盛り上がり、穴を埋めていく。最後には肌まで綺麗になり、切り裂かれた服と血痕がなければ、怪我をしたことすらわからないレベルには治せた。血を流して顔色は悪いが、呼吸も安定してきたのでこれで死ぬことはないだろう。


「失った血までは戻ってないから、病院に連れていってあげて」

「――っ、う、うん、わかった」


 ずっとぼーっと怪我が治っていく様を見つめていた少女が、わたしの声に我に返る。モンスターに襲われた恐怖が尾を引いてなさそうなので、まぁ大丈夫でしょう。さすがにずっと付き添ってはあげられない。


「あの、お母さんを助けてくれてありがとう! その、あなたの名前は……」


 この子のお母さんだったのか。言われてみれば確かに顔が似ている。……うん、助けられてよかった。

 でも正体を明かすわけにはいかなかったので、わたしは口元に指を一本立てて『ないしょ』のポーズを取ってから、再度空へと舞い戻った。


 間もなくメイエキタワーダンジョン入口の前まで到達する。ここは危険すぎて出張所を作ることができず、人が常駐していないという話だが……人の気配がないのでその通りなのだろう。まだ誰一人として駆けつけてないことに危機感を覚えるべきか、下手に人がいては邪魔になるからこれでよかったのか、迷うところだ。逃げ損ねた一般人がいないことは明確によいことだし。

 入口のポータルを隔離するようにごつい壁と、頑丈な扉が設置してあるのだが、この程度でモンスターたちを押し留めることはできないので、申し訳ないけど扉部分を破壊させてもらう。管理者に頼んで鍵を開けてもらうのを待ってられないし、素直に開けてくれるとも思えない。そもそも連絡先を知らないってのもある。

 扉を斬って真っ二つにするとともに、まるで待っていたといわんばかりにモンスターがポータルから溢れ出した。ゴブリンの群れとハウンドウルフの群れだ。この辺りは情報通りだね。


「はあああああああっ!」


 わたしは魔力の剣にさらなる魔力を篭め、長さを十メートルほどまで伸ばしてから横に一閃する。狭い空間に団子のように固まっていたモンスターたちは避けることもできず塵になった。その結果に少しばかり首を傾げる。ここは上級ダンジョンだったはずだけど、その割には呆気ない。……あぁ、まだダンジョンが生成されてから五年ってことで、探索者ダイバーたちが育ってない状況での上級……つまりわたしには大した難易度ではない? ……少し気楽になったけど、油断はしないよう気を付けよう。

 しかしこの程度で終わるなら異常事態というほどでもない。おかわりでまた湧いてきたので同じように斬り払って倒していく。五回かそこらでモンスターの湧きがやっとストップしたけれど、周囲の魔力密度がまだ濃いままなので、終わったわけではない。

 これが地下ダンジョンのように出入口が一つであるなら、ダンジョンに侵入して制圧してもいいのだけれども……ここは遥か頭上まで突き出ているタワー型のダンジョンである。中を進んでいる間にモンスターが外壁を突き破って外に出る可能性も高い。ポータル以外から出られるのか、って? 困ったことにこれができてしまうんです。噴出アウトブレイク中のダンジョンは境目が不安定になっており、強い衝撃を与えれば出ることが可能になってしまっているのだ。逆に言えば入ることも可能なのだけども。


「まぁどのみち悠長に攻略している時間はないか。外見は普通でも内部は拡張されていることが多いからね……」


 検索した時に出てきた情報によると、フロアは判明している部分だけでも、床面積が商業施設だったころの軽く十倍はあるらしい。おそらくずっと上までそれが続くだろうし、モンスターがひしめいている中、マップも不明な状態で何十階と上っていくのは時間が掛かりすぎる。

 ではどうするのか。先ほどいったように外から中に入ることもできるので、飛んで上から侵入すればいい。この手のダンジョンのコアは大体屋上にあるからね。ついでに外観と内部の位置が大体リンクしているのも特徴だ。五階から侵入すれば五層に出る、みたいな。

 方針を決めたところで、いったんポータルから一層に入り、目に付く範囲のモンスターを全て倒してから外に出る。そして。


封印シール


 ポータルを封印して、ひとまず容易く出入りできないように処置をした。これが破られる前にはコアを破壊しなければ。

 精霊王のマントに魔力を篭め、タワーの壁沿いを垂直に飛んでいく。十階くらいの位置まで辿り着いた時、一際大きな魔力反応が漏れ出した。これは、来る――


 ゴバッ!!


 咄嗟に壁から離れた直後、タワーの外壁が壊された。裂け目からは大量のジャイアントバットが飛び出し、最後方には司令官なのか一体の大きなブラッディバットがいた。

 ジャイアントバットは目の前を人間わたしが飛んでいたことに、一瞬だけ驚いたような雰囲気を発してから、纏う魔力の高さに気付いたのか一斉に飛び掛かってくる。わたしは慌てず、足元に空気の力場を作って地上のように踏みしめられるようにして、大剣を振る。ジャイアントバットたちも大半が一撃で斬り裂かれていった。何体か避けた個体がいるのはさすが十層モンスターといったところか。まぁ逃がさないんだけど。


光剣の雨(ソードレイン)!!」


 わたしは光の剣を水平方向に射出し、残ったジャイアントバットたちも掃討していく。残ったブラッディバットには急加速で接近し、


「とりゃあああああああああっ!!」


 魔力剣にブラッディバットの弱点属性である光属性をさらに纏わせ、頭から下まで左右に真っ二つにしてやった。うん、このくらいならまだ全然行ける。

 わたしは亀裂から内部に侵入、また目に付くモンスターを掃討してから、岩を生成して亀裂を埋めて封印を施す。これでここも時間が稼げるだろう。


「さぁ、上に行くぞ!」


 精霊王のマントは、わたしの気合に呼応するように強くはためいた。

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