第9話 板挟みの甘茶
「あなたは私の信者の目を覚まさせようとしてくれました。あの時、信者の中には私の教えより大事なものがある方もいるのではと思いました。それで考えを改める人がいても、見守ろうと思えたのです。……だから、あなたにはあの教えに責任を持ってもらいたいのです」
「……そうか」
あの時に思い付きで言った言葉が、こんな形で返ってくるとは思わなかった。無責任に思いついたことを言わないようにしようと思った。
「ということは、入ってもらえるので」
「やだから」
「うーん……」
片手でコップの中身をストローでかき混ぜながら、アークは唸った。そして信じがたいことを口にした。
「小鈴さんたちは、賛成されたのですが……」
「ふーん……はあっ?」
ちらりとアオを見て、浮かべた笑みがいやらしい。
「嘘だと思いますか?」
「そりゃーな! 俺を騙せると思ったか?」
「……まあ、そう思うなら、確かめてみればいいですよ」
「ま……さか……」
アオはスプーンを置いた。色々言いながらも、食べ終わっている。
よく考えたら、言いそうな気もする。最近はもう毎日面接の話をされて、うんざりしていたところだったのだ。だからって、こんなわけもわからない宗教を勧められるとは思いたくもないが。
「あっ……」
椅子をひっくり返しそうな勢いで、席を立つ。
「聞きに行ってやるからな」
そう言うが早いか、店員にぶつかりかけながら出て行った。
「嘘なんですけどね……。人の話は、最後まで聞いた方がいいですよ?」
やれやれと少し笑いながら、会計に向かった。彼が嘘だと知ったらやはり、断られるだろうか。
アークは、この冗談が予想外の結果を生むと知らなかった。
「はあっ……! 小鈴どこ行った?」
トランプを立てて積み上げていた甘茶に問う。その瞬間に、カードはバランスを失って崩れた。
「ちょっとアオ兄……! 小鈴姉さん? 部屋にいるはず」
「わかった。あとすまん」
雑な返事に甘茶は頰を膨らませたが、走って小鈴の部屋へ向かったアオが気になり、しばらく廊下を見つめていた。
「……あとで話聞けばいいよね。よし、もう一回やり直そう」
慎重に、二枚のカードを互いに立てかけ、そろりと手を離す。息を殺して見ていたが、倒れないのでほっと息を吐く。
「そこの君、はあ、アオさんはどこに?」
「へっ?」
ぱさりと小さい音を立てて、再びカードが倒れてしまった。入り口に、息を切らしたアークが立っている。
「もー! また失敗した! アオ兄は小鈴姉さんの部屋!」
「部屋? どこですか?」
今度はアークが駆け寄ってきた風で倒れてしまう。甘茶は持っていたカードを机に叩きつけた。
「集中できないよ! 案内するから、はいはい」
そう言ったのに、入り口でアオとぶつかりそうになる。
「わっ! アオ兄……」
「おい待てアーク!」
「アオこそ待て!」
甘茶とぶつかったアオが、甘茶の向こうにいるアークに怒り気味に手を伸ばし、その服を真後ろにいる小鈴が引っ張った。
「いたた! アオ兄、落ち着いて!」
今日の甘茶は、とんだ災難だった。




