第8話 朝食は話し合いの最中で
「アオさん! ぜひ天海教に……!」
「嫌だって言ってるじゃん」
「出来るならみなさんご一緒に! どうですか? これなら寂しくありませんよ?」
「寂しくなる宗教ってなんなんだよ」
興味なさそうに、少し長い髪を手櫛で梳く。
「それに、これはアオさんのためでもあるのです。神様から聞いたとおり、あなたは今困っておいででしょう? 勤め先が決まらなくて。それだって解決できます! 『黒翼のアオ』さんなので、特別に時給を……」
「相手の話くらい聞けよ」
その時アオは、背後でした物音で振り返った。
「……あ! 俺の朝飯!」
ちょうど食べ終わった小鈴が席を立ったのだ。他の四人も、もうほとんど食べ終わりかけだ。
「アオの分も、ちゃんと残らず食べたから。これで地獄で苦しむアオも浮かばれる」
「俺まだ死んでねーから! ここにいる! 普通に冗談でも酷い!」
「冗談じゃない、本気だから」
アオは貰った名刺をアークに押し付け、鍋に駆け寄った。
「うそぉ……!」
どう見ても空っぽだ。真っ青になり、アークの胸ぐらを掴む。
「おい! お前のせいで俺の朝飯なくなったんだが! どーすんだよ!」
「その男に奢ってもらえば?」
「く……そ……っ!」
笑い混じりに提案する黒姫を睨む。が、睨んでもどうにもならない。
「お前のせいだ! 飯奢れ!」
「いいですよ? ただ」
アークはにまりと悪い笑みを浮かべた。アオの表情が凍りつく。
「私の教団に、入ってくださいね」
「いやーっだ!」
目の前には飲んだことのない味のジュースと、何だかおしゃれそうな気がするサラダ。横にはドリンクバーとスープなどが並んでいる。
これがファミリーレストランというものらしい。物心ついたあたりで病院に入ったので、名前はわかっても、来るのはおそらく初めてだ。
「お待たせしました。お子様ランチです」
「何これ。……『お子様ランチ』?」
「もう昼も近いので、頼んでみました。初めてですよね? 私が支払うので遠慮なくどうぞ」
アオは何度もアークとお子様ランチを見比べる。
「俺はお子様じゃない……ぞ?」
「何言っているのです? あなたはまだ成人していないはずですが」
「見た目で判断するんじゃねー」
「いえ、十二年前にあなた方が話題になった時、確かアオさんは七歳でしたよね? 計算しただけですよ。今、十九歳のはずです。合っていますか?」
「…………間違っては……ない」
肯定するとさらに嬉しそうになるアーク。いちいち反応が鬱陶しい。怒りを抑えながら、旗の立ったオムライスを口に運んだ。今まで食べたことのない味だな、と思う。
「あ! 今、いま食べましたね! ということは、ついに決心を……!」
「うわめんどくさ。ごちそうさま」
「口付けたのなら、最後まで食べてください! 作ってくれた方に失礼です」
「お前がそれを言うんじゃねぇ!」
「でも私以外に誰も言う人がいませんよ?」
アオは諦めて、二口目を食べる。
「ほら、食べましたね? 一言言うだけでいいのです、『天海教に入る』と」
「俺にメリットないし、第一俺を使って何すんだ」
アークはそこで顎に手を当て、ふむ、と言った。
「あなたの教えを、信者の方にも広めたかったのですが。彼らもあなたの言うように、高い金額を払って入信しているのです。それくらいないと、元が取れないとは思いませんか?」
「それはお前が質のいいサービスを提供しない問題で、俺は関係ないね」
アオは折れるつもりがなかった。だが、何を言おうと相手も引かない。いくら話し合っても、平行線だ。
アークはゆっくり頷く。そしてまっすぐにアオを見た。
「そうです。実はあなたの教えで、天海教を抜けた方がいるんです」




