第7話 たかみの教え
「おはようございます! 『黒翼のアオ』さん! ……あれ?」
一階にある旧デイルームでは、黒姫たちが朝ごはんの準備をしていた。そこに教祖は迷い込んだのである。
「誰こいつ」
当然の反応だ。翠玉も無言で教祖を睨む。そもそもこの捨てられた病棟は、来客など受け付けていないのだ。
「アオさんは……? 外で会いませんでしたが」
天然というか、教祖は歓迎しない彼らの態度を無視した。甘茶がこの男を始末するか、双子に目で問うが、二人は教祖を泳がせることにする。
「アオはまだ寝てるんじゃないの」
「……へっ?」
唖然とする教祖を、黒姫たちはさらに訝しそうに見る。ようやくその視線に気がつき、もたもたしながら服のポケットから名刺を取り出す。
「ああすみません、私はこんな者です。どうぞ、お一人一枚ずつ、はい」
何となく断れなかった翠玉も黙って片手で受け取った。
「天海教……宗教団体? アークって名前?」
「はい、私はアークといいます。アオさんはいつ頃起きますか?」
そう言いながらも隙あらばじろじろと観察するアークに、小鈴は不快感を覚えた。名刺を置く場所がなかったのでポケットにしまい、味噌汁をよそう椀を出した。
「何の用?」
「私ですか? 私はアオさんを教団に誘おうと思い来ました。なんたって『黒翼のアオ』さんですから。今日こそいいお返事をもらわないとと思いまして。『幻夢の小鈴』さんは『黒翼のアオ』さんと親しいのですか?」
「はあ? ゲンム?」
なぜか自分たちに二つ名が付けられている。
「はい。『幻夢の小鈴』さんですよね? その漆黒の髪と、激情を秘めたような炎を映した瞳。まさか本当に、お会いできるとは思ってもいませんでしたが。アオさんと会えたのは、やはりご縁があったということでしょう」
「はあ……」
「それで、アオさんはまだ起きないのでしょうか? 昨日は朝早くにお会いしたのですが」
小鈴は幾度か瞬きをした。そういえば、昨日そんな話を聞いたような。アオが早起きしたわりに朝食に遅れた理由がそれだったとか、昼に起きた時に聞いたはず。
「……アオは滅多に早起きしない。それは私もだけど、今日はたまたま私が早く起きただけ」
アークは返事をしなかった。顔を見ると、間抜けな表情でようやく「ほおー」とこれまた間延びした声を出した。
もしかしたら、アークにとってアオが遅起きのイメージはなかったのかもしれない。
そう思いながら皆で席に着くと、アークも小鈴の隣に立った。小鈴は顔をしかめるがアークは気付かない。
「とにかく、アオと……」
「おっはよー、今日は早く起きたぞ!」
すごいタイミングで突入してきたアオ。
「あ」
まず、アオがアークを見つけて固まる。
「「「「「あ……」」」」」
噂をすればというレベルの登場に、どうしたものか迷う小鈴たち。
「…………あ!」
皆の反応にようやく入り口を見て、あからさまに嬉しそうにするアーク。
「おはようございます! お目覚めになられたのですね!」
「……君たち、こいつに何か喋った?」
しばらく皆を見ていたアオだが、それぞれが気まずそうに顔を逸らしたのを見て、さらに顔を引き攣らせた。
「教祖さあ、家に来んなよ。俺のあと尾けたんだろ? きったねーな」
その発言を皮切りに、五人は無言で朝食を食べ始めた。もちろんアオは気が付いていない。
「いやあ、あなたのあとを尾けるなんて。私はただ、後ろを歩いただけですよ」
「だからって人の家に入り込む奴があるか!」
「いやいや、ここは病院ですよ? しかも、閉院したわけではなく忘れ去られただけの閉鎖病棟。肝試しに誰かが来てもおかしくないではありませんか」
起き掛けでただでさえ機嫌が悪いアオに、それでもにこやかに返すアーク。
「それは不法侵入つって言うんだ、というかお前、どこの宗教だっけ? そういう人との距離が〜とか大事にしないトコなのか?」
「……あれ、言いませんでしたっけ? 私は天海教の者です。忘れられないように、名刺もあげちゃいます」
「っへー……アーク……。ん?」
ふと、アオはアークを見た。改めてよく見ると、アークは教祖というには違和感を感じるかもしれない若さだ。服装や髪型から怪しい雰囲気がしているから、あまり気が付かないのだが。
「お前、名前あったんだな……」
「そりゃ、私にも名前はありますよ。何だと思いましたか」
「教祖が役職名兼名前かと思ったー」
「新しい考え方ですが、それはありませんよ」




