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第6話 知らないことを知っている



「よーし、この辺りか」

 通りからかなり離れたと思われる林に着地。もちろんアオはここがどこだとかは全くわかっていない。

「あああの、私をどうするつもりで……?」

「ん? 俺に話があるんじゃないの」

 そういえば、この教祖の衣装はいかにもイカサマ教祖と言えるような、コスプレみたいなものだ。お世辞にもこれで信者が集まるとは思い難い。おまけに長い髪をひとつにまとめていて、若いからそんなものというのもあるかもしれないが、胡散臭さが増している気がする。

「そ、そうです! 私はあなたを仲間にしたく……!」

「やだねー」

「そっ……! そんな!」

 即答された教祖は、倒れそうに思えるほど顔を真っ青にした。彼が言う神に脅されたのか何なのか知らないが、どうせアオには関わりのないことだ。

「でも……そうですね。私だって黙って引き下がったりなどしませんよ」

 あの顔色の悪さからどうやって回復したのかと思われるほどの余裕を見せる教祖。

「神様から、とてもいいカードを貰ってきました。もちろんこれは奥の手にするつもりだったのですが、まあ奥の手の使い所なので」

 要は、ここまで上手くいかないとは思っていなかったようである。

「へえ。そーなんだ」

「きっ、聞いてくださいよ?」

「さっさと言えよ鬱陶しいな」

 だらだら引き伸ばされて不機嫌になったアオに睨まれ、教祖は縮こまる。

「あなたは就職先を探しているのでしょう? 『黒翼のアオ』さん。ならば私の元で働けば良いのです。あなたは信者にありがたい言葉をおかけになれば良い。どうです? これ程条件のいいところなど、なかなかありませんよ」

「はーぁ……」

 ひとまず話の腰を折ることなく聞いてやった。これはアオにとって珍しいことであるが、教祖は知る由もない。

「どうでしょう? お考えは……」

「やーだね。俺バイト先くらい自分で探すし」

「でもっ、あなたは次の面接で就職先を決められないといけなかったはずだ!」

「……ふぅん?」

 アオに睨まれながらも、話は聞いてもらえるとわかった教祖は早口にまくしたてた。

「神様から聞きました! あなたは面接に幾度となく落ち、仲間に見捨てられそうになっていると。そして私と私の教団はあなたを欲している! これほどタイミングよくあなたが困っているというなら、救いの手を差し伸べずにはいられないではないですか!」

「…………」

 アオは教祖を見つめた。不意に見つめられた教祖はどきりとするが、しかし興味を失って視線は逸らされた。

「つまんないから帰ろ。帰り道教えてくれよ」

 おもむろにアオは、頭の後ろで手を組んでくるりと教祖に背を向けた。

「……えっ?」

 置いて行かれた教祖は、一拍置いて素っ頓狂な声を上げた。

「あ、あと変な名前で呼ぶなよ。『黒翼のアオ』とか知らねーし」

「待ってください! 帰り道そっちじゃない気がします!」

「そう? さんきゅ」

「……もしかして、帰り道わからない感じですか」

「まあねー」

 道案内を始めた教祖は、勧誘に失敗していることを忘れていた。

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