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第5話 黒翼



「アオ兄! 買い物行ってきて!」

 息を切らしてやって来た甘茶が、俺にそう言う。俺は洗濯物を干したばかりだ。

「買い物って甘茶の担当じゃ……」

「いいから! 顔出した罰!」

 有無を言わさず追い出され、財布とメモを握らされたので仕方なく言われた通りにする。

 今度こそしっかり顔を隠し、メモを開いた。

「…………ん?」


「あいつ、ついにやったのか」

「ほんっとアホは困る」

「ま、まあまあ起こったことはどうしようもないから」

 なだめる甘茶の前には、黒姫、藍姫、翠玉がいる。無言の翠玉は、ただただ頭を抱えていた。

「はああ……。年上だと思えない」

「それで、あいつどこに行かせた」

 黒姫に何気なく問われ、甘茶はぎくりとする。

 大きく開けられた窓から入った風が、双子の髪を揺らした。


『出したこともない本気がどれだけすごいか知らないけど、出来るなら宗教の奴らは潰して見せてね』

「買い物って……いうか、甘茶からの挑戦状じゃねーのか。ふふ、おもしろ」

 甘茶のメモを手に、アオは少し大きめの通りに出た。

「あ、いたいた今朝の」

「うおわっ? なん、お前は!」

「みなさーん、見つかりました! 彼です!」

 例の教祖だ。真後ろから話しかけてきたために反応が追いつかずもたもたしているうちに信者がたかってくる。今日は全くついていない。

「おま、ちょ、やめろ!」

 また羽交締めにでもされたら面倒だ。さっきと違い、今は昼間でさらに言うとここは人通りの多い道だ。俺は後退ったが、教祖たちは迷わず詰めてくる。

「本気っつっても、ここで出せないし……。甘茶め」

 囲まれた。やはり初動が遅いと駄目だ。

「ここにいる彼こそが! 神からのお告げに出てきた少年!」

「はあ? なにそれ」

 諸手を広げた教祖が信者に語り始め、通行人の迷惑にしかなっていない。

「おい! 邪魔になってるぞ……っ?」

 教祖の肩を掴んだ瞬間、視界が急に明るくなる。

 やられた。

「ほらやっぱり。あなた異能持ちじゃないですか」

「やめ……っ」

 咄嗟に俯くも、教祖の声が大きかったので意味がなかった。

 今まで無害だった通行人が、次々に振り向く。

「え? 異能持ちがいるの?」

「うそぉあんな人外まだ生きてたってこと?」

「でも看護師も逃げたって噂だったけど」

 ざわざわと人の声が集まってくる。人の悪を凝縮した、嫌な光景でしかない。

「神様が、あなたを仲間にしなさいと仰せなのです。さあ、顔を上げて立ち上がってください」

「神がなんだ? なぜこんなことをする」

「まあ、いいじゃないですか。ほら」

 俺はフードを握ってしゃがんだまま、さらに頭を下げる。こいつらは何がしたいんだ。何が目的だ?

「目的だなんて。あなたをこの教会の教祖にすることですよ。『黒翼こくよくのアオ』さん」

「はぁ?」

 通行人に気付かれた。即ちそれは、警察を呼ばれるということ。奴らは異能力者という異端者を、野放しにはしない。

 時間がないのだ。現状ではどんな手を使ってでも逃げるしか。

「あれえ、逃げるのですか。まあいいでしっ? うわあああおやめください!」

「変な名前付けんなばーか」

「教祖様ぁっ!」

「教祖様が連れ去られた!」

 俺は出来るだけ遠くに飛んだ。不可視の黒い翼を使って。

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