第2話 レアな早起き
「なんで落ちそうって思ったわけ?」
夕食を食べ終えたくらいに、ようやく起きてきた小鈴がアオを問い詰める。
「いやー。その」
「早く言え」
「逆方面の電車乗っちゃってえ」
硬い音が響いた。一瞬遅れて頭に鈍い痛みが走る。
「っつってえ……」
「何やってんのこのアホ」
「ごめんなさい……」
アオに対して、一番厳しいのが小鈴だ。年上だからって容赦はしない。たかが二年、大して差はないのだ。
「電車くらい十九にもなってまともに乗れないとかやる気あんの?」
「ひえー」
「答えろ」
「やる気、ありますうぅ」
「真面目にやれ」
「わかりましたあ」
トランプをしていた黒姫たちは、どうせこれでも効かないだろうとくすくす笑った。
聞きつけた小鈴は、まなじりを決してまくしたてた。
「次で決められなかったら始末してやる。働かざる者食うべからず、役立たずは処刑だ」
しかし、血相を変えた甘茶にかじりつかれる。
「アオ兄は僕がやるんだよ! 誰も抜けがけなんてしないでよ?」
「あれ、なんだかんだ言って俺人気なんじゃーん」
「あんたを誰が殺るかって話でな」
小鈴に睨まれてアオはへらりと笑った。緊張感も何も、まるでないようだ。
「俺を殺れるわけないじゃん、何言ってんの」
藍姫の手持ちが無くなった。ババ抜きだったらしく、残った翠玉が顔を歪めてジョーカーを乱暴に投げる。そして立ち上がった。
「俺もう寝る」
人数が減って楽しくなくなったのか、黒姫藍姫たちも立ち上がる。
「じゃ、俺も寝るかー。次の面接はもうちょい先だし。明日はゆっくり寝よっと」
「待て、あんた明日洗濯当番だから覚えとけ」
がしりとアオの肩を掴んだ小鈴が、凄みを効かせた声で言う。
「あー……。そうだっけ? 覚えとこ」
翌朝。
「……あれ?」
アオが起きた時、珍しくまだ誰も起きていなかった。
時刻は五時五十二分。寝すぎるつもりが、早く起きてしまった。
今日の朝食担当は黒姫。まだまだ起きなさそうだし、暇だからどこか散歩しようかとアオは適当に着替える。どうせここにはそんないい服もないし、服にこだわるつもりもアオにはない。なんとなく顔を隠せたらいいだけだ。
「たまたま道端で宝石を拾って、売ってすごい額手に入ったりしないかねー」
宝石に詳しいわけでもない彼には、まず無理な話だ。
「じゃ、いってきまーす」
ぼろぼろの、病院だった建物を出る。まだ薄暗くて、わずかに朝焼けが残っていた。
いつも行かない方角にぶらぶら歩く。自販機を見つけた彼は、下の隙間を覗き込んだ。
「おっ……五百円? ラッキーすぎる」
しばらく手の上で転がして、それからポケットに突っ込んだ。
再び歩いていくと、公園がある。誰もいないか朝早い犬の散歩と老人だけだと思って入ったのに、思っていたよりはるかに多い人がいた。十五人、いや二十人はいそうだ。
「なんだこれ。静かだと思ったのに台無しじゃねーの」
その時気付いた。人の群れの中心にいる人が、声を張り上げている。
「……その時こそ、天から神が舞い降り、我らは救われるのです!」
「うーわ、宗教じゃんこれ……。俺に気付かれたら勧誘とかされる? 面倒すぎなんだが」




