第1話 捨てられる神あれば拾うアホあり
信号が変わると同時に、ざわざわと人混みが道路に溢れ出る。
流されるように歩いていると、車道にお守りが落ちているのを見つけたので、拾った。
「あ……、なんだ」
身代わり守りだ。持ち主に返す必要がない、が。
「ま、神様も救われたらいいんじゃねーの?」
渡り終えて、歩道のそばの塀に置く。いいことがしたかったわけではないが、良い事ばかりしているであろう神がこんな目に遭う必要もない気がする。どちらにせよ、寝たら忘れる事だ。
アスファルトの割れ目に生えた雑草は嫌うのに、大根が生えたとなると誉めて見守る。人間はそんな汚すぎる生き物だから、こんなもんだろう。
「どーせ今日の面接も落ちるっしょ!」
とはいえ面接のために準備したスーツなどなど、翠玉や藍姫、黒姫が稼いだお金で買ったものだから、彼らに怒られる未来が待っているのは想像に易い。
「帰りにマシュマロでも買おっかな! 楽しみだー!」
捨てられるはずだった——身代わりになった神は彼を見ていた。
「こんな良い子がいるなんて……。世の中捨てたもんじゃないねぇ」
そうは言っても、神がお礼をするかというのはまた別である。
「たっだいまー!」
上機嫌な彼を出迎えたのは、対照的に思えるくらい不機嫌な双子の少女たちと、疲れた様子の少年。
「今日はー、すっごい良い天気! あそうそう、道路でお守り拾ったから踏まれないところに置いてきた! で……」
「落ちそうなのか。はあ……」
少年——翠玉は怒りを通り越して呆れ、ため息を吐いた。
「なんであんただけ受かんないの? 年食ってるくせに」
ぐさぐさ刺すように文句を言う黒姫。
「アホだからに決まってるでしょ」
呆れすぎて嗤い飛ばす藍姫。
「まあまあ、そうは言っても俺は早生まれだからほぼ君らと変わんないし、次で決められそうな気がするって」
三人は揃ってため息を吐いた。
「それ、前も言ってたの覚えてない?」
「あれ、言ったっけ? でも無理そうだから違うんじゃねーの?」
「ねえ」
瞬時に冷えたものが首に当てられる。ぴりっとわずかに痛みが走った。
「アオ兄がやらないと、僕がバイトすることになるんだよ? 次くらい本気でやってよ」
「もー、甘茶まで……。次は頑張るって、たぶん」
どうせ甘茶はこう来ると思っていた。思った通り、首の圧迫感はなくなる。数歩離れた甘茶が凶器を振る。今日は普通に包丁だったみたいだ。
「本当に、嘘つかないでよ?」
「わかってるって」
そういえば、ひとり足りない。まだ寝ているのか。
「小鈴は?」
翠玉が首を振る。
「起きて来ない」
「いつも通りか。じゃあもう晩飯……あ、甘茶、あれやって。『ご飯にする? お風呂にする? それとも』」
「あ・ん・さ・つ?」
「ごめんてごめんて、ふ、風呂行ってくる!」
一応甘茶は男の子だ。
「アオには甘茶が一番効くね、ほんと。甘茶いなくなったらマジで困る」
「大丈夫、仮に出ていくことになってもアオ兄は始末してくから」
「ふふふふふ」
「ふふはははは」
甘茶と藍姫は物騒な話題で盛り上がった。




