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光を背負う少年は、世界を守れない  作者: ゆうなるな


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34/58

第34話:守りたいから

本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。

夜道は、いつもより騒がしかった。


遠くでサイレンが鳴っている。

一台じゃない。


透は足を止め、胸の奥を押さえた。


(……嫌な感じ)


理由は分からない。

でも、胸の奥の“何か”が、

ずっと警鐘を鳴らしている。


*


角を曲がった先で、

人だかりができていた。


「ちょっと、危ないですよ!」


「下がってください!」


大人の声。

混乱した気配。


透は、人の隙間から中を覗く。


――壊れた街灯。

――砕けたアスファルト。

――歪んだガードレール。


事故。

そう呼ぶには、

あまりにも“乱暴”な壊れ方だった。


「……先輩?」


誰かが、倒れている。


制服。

見覚えのある背中。


「相馬、先輩……!」


透は、思わず駆け出した。


「おい、君! 近づくな!」


制止の声を無視して、

相馬のそばに膝をつく。


意識は、ある。


でも――

呼吸が、浅い。


右手は、

包帯が裂け、血が滲んでいた。


「先輩……何が……」


相馬は、薄く目を開ける。


「……来るなって、言ったろ」


苦笑。


その瞬間。


透は、感じた。


――近い。


何かが、

“こちら”を見ている。


(まずい)


理屈じゃない。

反射だった。


*


次の瞬間。


空気が、張り詰める。


透の背後で、

誰かが叫んだ。


「伏せ――」


言葉は、途中で途切れた。


透は、考える前に動いていた。


守らなきゃ。


相馬先輩を。

周りの人を。


――今だ。


胸の奥にある“何か”を、

思い切り前に押し出す。


「――っ!」


出た。


確かに、出た。


空気が弾き、

見えない壁のようなものが、

透の前に展開する。


「……!」


一瞬、

世界が止まった気がした。


(いける)


そう思った、その直後。


――制御が、効かない。


広がりすぎる。


止められない。


「っ、待――」


衝撃。


防ぐはずだった力が、

弾く方向を誤る。


悲鳴。

金属のきしむ音。


人が、吹き飛んだ。


「――ッ!」


透は、必死に止めようとする。


でも、止まらない。


力は、

“守る”という意志だけを拾って、

暴走する。


「やめ……!」


次の瞬間。


重たい音がして、

何かが、地面に叩きつけられた。


*


静寂。


サイレンの音だけが、

やけに遠くに聞こえる。


透は、その場に立ち尽くしていた。


手が、震えている。


自分の、手。


(……やった?)


守った?


それとも――


「透……」


弱い声。


相馬だった。


透は、はっとして振り返る。


「先輩! 大丈夫ですか!?」


相馬は、透の顔を見て、

少しだけ、安心したように笑った。


「……やっぱり、出たな」


「……っ」


言葉が、詰まる。


相馬は、空を見上げる。


「なあ……」


息が、苦しそうだ。


「守りたくて出した力で、

 誰かを傷つけたらさ……」


透は、答えられない。


相馬は、続ける。


「それでも……

 使わなきゃ、いけないと思う?」


透の喉が鳴る。


「……俺は」


答えを探す。


でも。


地面に残る、

壊れた痕。


泣いている人。


恐怖に歪んだ視線。


(俺が……)


「……分かんねぇよな」


相馬は、目を閉じた。


「だから……

 選べなくなる前に……」


言葉は、そこで途切れた。


*


遠くで、

重たい足音が聞こえる。


透は、反射的に顔を上げた。


黒い服。

無機質な動き。


(――来た)


相馬が、薄く笑う。


「……ほらな」


透は、歯を食いしばった。


守りたかった。


ただ、それだけだった。


でも。


守ろうとして出した力で、

守れなかったものが、

確かに、そこにあった。


胸の奥の“何か”が、

初めて――


重たく、沈んだ。

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