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光を背負う少年は、世界を守れない  作者: ゆうなるな


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35/58

第35話:もう隠せない

本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。

師匠が現場に着いたとき、

すでに空気は落ち着かされていた。


割れたアスファルト。

歪んだ街灯。

人々を遠ざける黒い影。


――手際がいい。


「事故処理班」が動いた後の匂いが、

はっきりと残っている。


師匠は、視線を一巡させてから、

一人の少年に目を留めた。


結城透。


救急車の灯りに照らされて、

立ったまま動けずにいる。


肩は強張り、

拳は、まだ震えていた。


「……」


師匠は、何も言わず近づく。


透は、気配に気づいて顔を上げた。


「……師匠」


声が、掠れている。


「怪我は」


「……ありません」


即答。

でも、それは“体”の話だ。


師匠は、それ以上聞かなかった。


*


少し離れた場所。


相馬恒一は、担架に乗せられていた。


意識は、ある。

だが、目は虚ろだ。


師匠は、その右手を見る。


包帯は裂け、

抑制具は、意味を失っている。


(完全に、越えたな)


一線を。


戻れない側へ。


「……」


師匠は、静かに視線を戻した。


透の方へ。


*


「出したな」


師匠の声は、低い。


透は、何も言えず、

ただ頷いた。


「止められたか」


透は、首を振る。


「……出せたけど、止められませんでした」


その言葉に、

師匠は一瞬だけ、目を伏せた。


「そうか」


責めるでもなく、

慰めるでもなく。


ただの確認。


「守ろうとして、出したんだな」


「……はい」


透の声が、かすかに震える。


「でも……」


言葉が続かない。


師匠は、続きを待った。


「……俺が出した力で、

 怖がらせました。

 泣いてる人も……」


透は、歯を食いしばる。


「守りたかっただけなのに」


その言葉を聞いて、

師匠は、ゆっくりと息を吐いた。


「だからだ」


透は、顔を上げる。


「だから、もう隠せない」


はっきりとした声だった。


迷いのない、判断。


「今までのは、偶然で済んだ。

 間に合った、で誤魔化せた」


師匠は、続ける。


「だが今のは違う。

 お前は“出そうとして出した”」


透の胸が、強く鳴る。


「それはもう、

 気づいていないふりができる段階じゃない」


*


透は、唇を噛んだ。


「……俺、どうすれば」


師匠は、即答しなかった。


少しだけ、

考える時間を置く。


「選ばせる」


「……え?」


「力を使うか、使わないか。

 守るか、逃げるか」


師匠は、透を見る。


「どれも、正解じゃない。

 だが――選ばなかった場合の責任は、

 誰も取ってくれない」


透の脳裏に、

相馬の顔がよぎる。


――選べなくなる前に。


「……俺は」


声が、震える。


「俺は、まだ……」


「分かっている」


師匠は、遮るように言った。


「だから今は、

 “止める”ことを教える」


透は、はっと顔を上げる。


「出すな、じゃない」


師匠は、昨日と同じ言葉を口にする。


「出して、止めろ」


前と同じだった。


でも、意味は違う。


「お前が止められなかったものは、

 いずれ、誰かが止めに来る」


その“誰か”が、

どういう存在か。


透は、聞かなくても分かった。


「それが、嫌なら」


師匠は、透の肩に手を置く。


「自分で止められるようになれ」


*


救急車の扉が閉まる音がした。


相馬が、運ばれていく。


師匠は、最後にそれを一瞥する。


「……時間は、もう多くない」


それは、相馬のことか。

透のことか。


あるいは――

もっと別の何かか。


透は、拳を握りしめた。


怖い。

でも。


逃げたくはなかった。


守りたい場所が、

はっきりと、そこにあるから。


師匠は、静かに言った。


「覚悟しろ、透」


「次は、

 本当に“選ぶ”ことになる」


夜の空気が、

重く、沈んでいた。

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