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光を背負う少年は、世界を守れない  作者: ゆうなるな


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34/36

第34話:守りたいから

本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。

夜道は、いつもより騒がしかった。


遠くでサイレンが鳴っている。

一台じゃない。


透は足を止め、胸の奥を押さえた。


(……嫌な感じ)


理由は分からない。

でも、胸の奥の“何か”が、

ずっと警鐘を鳴らしている。



角を曲がった先で、

人だかりができていた。


「ちょっと、危ないですよ!」


「下がってください!」


大人の声。

混乱した気配。


透は、人の隙間から中を覗く。


――壊れた街灯。

――砕けたアスファルト。

――歪んだガードレール。


事故。

そう呼ぶには、

あまりにも“乱暴”な壊れ方だった。


「……先輩?」


誰かが、倒れている。


制服。

見覚えのある背中。


「相馬、先輩……!」


透は、思わず駆け出した。


「おい、君! 近づくな!」


制止の声を無視して、

相馬のそばに膝をつく。


意識は、ある。


でも――

呼吸が、浅い。


右手は、

包帯が裂け、血が滲んでいた。


「先輩……何が……」


相馬は、薄く目を開ける。


「……来るなって、言ったろ」


苦笑。


その瞬間。


透は、感じた。


――近い。


何かが、

“こちら”を見ている。


(まずい)


理屈じゃない。

反射だった。



次の瞬間。


空気が、張り詰める。


透の背後で、

誰かが叫んだ。


「伏せ――」


言葉は、途中で途切れた。


透は、考える前に動いていた。


守らなきゃ。


相馬先輩を。

周りの人を。


――今だ。


胸の奥にある“何か”を、

思い切り前に押し出す。


「――っ!」


出た。


確かに、出た。


空気が弾き、

見えない壁のようなものが、

透の前に展開する。


「……!」


一瞬、

世界が止まった気がした。


(いける)


そう思った、その直後。


――制御が、効かない。


広がりすぎる。


止められない。


「っ、待――」


衝撃。


防ぐはずだった力が、

弾く方向を誤る。


悲鳴。

金属のきしむ音。


人が、吹き飛んだ。


「――ッ!」


透は、必死に止めようとする。


でも、止まらない。


力は、

“守る”という意志だけを拾って、

暴走する。


「やめ……!」


次の瞬間。


重たい音がして、

何かが、地面に叩きつけられた。



静寂。


サイレンの音だけが、

やけに遠くに聞こえる。


透は、その場に立ち尽くしていた。


手が、震えている。


自分の、手。


(……やった?)


守った?


それとも――


「透……」


弱い声。


相馬だった。


透は、はっとして振り返る。


「先輩! 大丈夫ですか!?」


相馬は、透の顔を見て、

少しだけ、安心したように笑った。


「……やっぱり、出たな」


「……っ」


言葉が、詰まる。


相馬は、空を見上げる。


「なあ……」


息が、苦しそうだ。


「守りたくて出した力で、

 誰かを傷つけたらさ……」


透は、答えられない。


相馬は、続ける。


「それでも……

 使わなきゃ、いけないと思う?」


透の喉が鳴る。


「……俺は」


答えを探す。


でも。


地面に残る、

壊れた痕。


泣いている人。


恐怖に歪んだ視線。


(俺が……)


「……分かんねぇよな」


相馬は、目を閉じた。


「だから……

 選べなくなる前に……」


言葉は、そこで途切れた。



遠くで、

重たい足音が聞こえる。


透は、反射的に顔を上げた。


黒い服。

無機質な動き。


(――来た)


相馬が、薄く笑う。


「……ほらな」


透は、歯を食いしばった。


守りたかった。


ただ、それだけだった。


でも。


守ろうとして出した力で、

守れなかったものが、

確かに、そこにあった。


胸の奥の“何か”が、

初めて――


重たく、沈んだ。

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