第33話:最後の選択
本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。
夜の街は、やけに明るかった。
ネオンも、街灯も、
全部が「普通」を装っている。
相馬恒一は、歩いていた。
行き先は決めていない。
ただ――
立ち止まると、何かが壊れそうだった。
(処理完了、か)
スマホに表示された短い通知。
誰の名前もない。
でも、分かる。
「……また一人、いなくなった」
声に出すと、現実になる気がして、
今まで言わなかった言葉。
*
相馬は、人気のない高架下に入った。
天井のコンクリートには、
古い染みと、無数の補修跡。
ここなら、多少壊れても
「事故」で済む。
右手を、ゆっくりと握る。
――反応が、早い。
考える前に、
力が集まろうとする。
「……まだ出すな」
自分に言い聞かせる。
止めたい。
止めなきゃいけない。
でも。
(止められない側、か)
昨日まで、
“選べているつもり”だった。
使うか、使わないか。
守るか、逃げるか。
でも今は違う。
使わなくても、
出る。
選ばなくても、
起きる。
相馬は、苦笑した。
「最悪だな……」
*
ふと、
昼間の顔が浮かぶ。
結城透。
まだ何も知らない目。
でも、確かに同じ“側”の匂い。
(あいつは……)
一瞬、迷いが生まれる。
――何も言わなければ。
――何もしなければ。
あいつは、
まだ“戻れる”。
相馬は、右手を見つめる。
包帯の下で、
力が、じわじわと滲んでいる。
「……俺が消えれば」
口に出して、止めた。
それは、逃げだ。
消えることで、
誰かを守ったつもりになる。
でも。
「それ、あいつに一番嫌われるやつだな」
透の顔を思い出す。
あの、真っ直ぐな目。
(……選ぶなら)
相馬は、息を吸う。
深く。
ゆっくり。
「俺は、使う」
それは、
生き残るための選択じゃない。
守るためでもない。
――“自分で決める”ための選択。
*
相馬は、スマホを取り出し、
一件の連絡先を開いた。
表示される名前は、
登録されていない。
ただの番号。
【通話開始】
数秒後。
『……どうしました』
低い声。
相馬は、口角を上げた。
「確認っす」
『何を』
「俺、まだ“処理対象”じゃないですよね?」
一瞬の沈黙。
『……保留です』
「じゃあ」
相馬は、空を見上げる。
「今から起きること、
全部“事故”ってことで」
『――待て』
通話は、そこで切れた。
相馬は、スマホをポケットに戻す。
右手を、前に出す。
今度は、
止める気はなかった。
「見てろよ」
誰に向けた言葉でもない。
「俺は、
俺の選択で立ってる」
次の瞬間。
高架下の空気が、
大きく歪んだ。
*
その頃。
透は、家の天井を見つめていた。
胸の奥が、ざわつく。
理由は、分からない。
ただ――
嫌な予感だけが、消えなかった。




