第31話:処理していい
本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。
部屋は静かだった。
無機質な壁。
無機質な机。
中央のモニターだけが、淡々と数字を映している。
徹は、画面を見つめたまま動かない。
「――再確認します」
部下が、慎重に言葉を選ぶ。
「対象コード、F-214。
発生地点は市街地外縁。
非訓練域での自発発現」
徹は頷いた。
「制御率」
「ゼロに近い。
本人に抑制の意思は見られますが……
反応が追いついていません」
「被害は」
「軽微です。
ただし、次は保証できません」
その言葉で、空気が一段階冷えた。
軽微。
つまり、まだ“事故”の範囲。
だが――
「類似ケースとの一致率は?」
「八十二パーセント」
高い。
徹は、ゆっくりと背もたれに身体を預けた。
「……成長型か」
「はい」
力が、本人の理解より先に進んでいる。
「教育は?」
「未実施です」
「管理は?」
「失敗しています」
沈黙。
誰もが、次に来る言葉を知っている。
だが、それを口にするのは、
この部屋で一人だけだった。
徹は、視線を上げる。
「――処理していい」
声は低く、感情がなかった。
一瞬、部下が息を呑む。
「確認します。
対象は、未成年です」
「知っている」
「保護者の所在は――」
「知っている」
「社会的影響は、最小化できますが……」
「知っている」
徹は、淡々と続ける。
「管理できない力は、事故だ。
事故は、起きる前に処理する」
それが、組織の一言ルール。
例外はない。
「実行は?」
「現場判断に任せる。
迅速に」
部下は、静かに頷いた。
「了解しました」
指示が飛び、
画面の表示が切り替わる。
対象コードが、赤く表示された。
――F-214/処理可。
*
数分後。
部屋には、徹だけが残った。
モニターには、別のデータが映る。
未確定。
観測中。
管理外。
相馬恒一。
徹は、その名前を見つめてから、
小さく息を吐いた。
「……まだだ」
それは、温情ではない。
比較の問題だった。
「お前は、まだ“選べる側”だ」
誰に向けた言葉でもない。
だが、
選べなくなった瞬間が来ることも、
徹はよく知っていた。
*
同じ頃。
相馬は、人気のない場所で空を見上げていた。
スマホが震える。
表示されたのは、短い通知。
【別案件/処理完了】
それだけ。
相馬は、画面を閉じ、
笑った。
「……あーあ」
軽い声。
軽くない現実。
「次は、俺か」
握った拳が、わずかに震える。
止めようとして、
止まらなかった。
その事実が、
確実に距離を詰めてきている。
*
透は、その夜も知らない。
どこかで、
「処理していい」という言葉が使われたことを。
それが、
自分の未来にも直結していることを。
まだ――
何も、知らないまま。




