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光を背負う少年は、世界を守れない  作者: ゆうなるな


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30/58

第30話:戻れない側

本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。

放課後の校舎は、昼間よりも静かだった。


窓から差し込む光はオレンジ色で、

廊下に伸びる影がやけに長い。


透は下駄箱で靴を履き替えながら、

昨日のことを思い出していた。


相馬恒一。

三年生。

軽い口調と、軽くない言葉。


――できない自分に、慣れる。


考えないようにしていたのに、

ふとした拍子に、頭に浮かぶ。


「……気にしすぎだな」


独り言ちて、校舎を出た。


*


少し離れた別の場所。


人気のない古い運動施設の裏手で、

相馬は一人、壁にもたれていた。


スマホの画面は割れている。

通知は来ていない。


それでも、相馬は画面を見つめ続けていた。


「……まだ、かよ」


小さく呟く。


右手を、そっと握る。

その瞬間、空気がわずかに歪んだ。


コンクリートの壁に、

細いヒビが走る。


相馬は、すぐに手を離した。


「っ……」


歯を食いしばる。


――出すつもりじゃなかった。

――触っただけだ。


それでも、力は反応する。


「はは……」


乾いた笑いが漏れた。


「止められねぇって、こういうことか」


以前は、違った。


強く思えば出た。

集中すれば、収まった。


でも今は――

出さないつもりでも、滲む。


相馬は、ポケットから古い包帯を取り出し、

手のひらに巻きつける。


隠すためじゃない。

“抑える”ためだ。


効果があるかどうかなんて、

もう分からない。


*


そのとき。


背後で、靴音がした。


「ここにいたか」


低い声。


相馬は振り返らず、

肩越しに答えた。


「尾行は趣味悪いっすよ」


「確認だ」


黒い服の男が、二人。

距離はあるが、逃げ道はない。


相馬は、ゆっくり立ち上がる。


「今日は、何の用ですか」


「経過観測」


「……まだ“管理対象”って言わないんだ」


男は、感情のない声で答える。


「判断は保留だ」


相馬は笑った。


「優しいですね」


「違う」


一拍置いて、続く。


「まだ、処理するほどではない」


その言葉に、相馬の指がわずかに震えた。


「――はっきり言いますね」


「事実だ」


沈黙。


夕焼けが、三人の影を地面に落とす。


「なあ」


相馬は、空を見上げたまま言った。


「もしさ。

 誰かを守ろうとして出た力で、

 壊れたものがあったら」


男たちは答えない。


「それでも、事故ですか」


返事はない。


それが、答えだった。


「……そっか」


相馬は、軽く手を振る。


「じゃ、また連絡ください。

 生きてたら」


男たちは何も言わず、背を向ける。


足音が遠ざかり、

完全に聞こえなくなった頃。


相馬は、その場にしゃがみ込んだ。


「戻れねぇな……もう」


呟きと同時に、

地面の小石が砕け散る。


今度は、止められなかった。


*


その夜。


透は、家の灯りを見上げて立ち止まる。


いつもと同じ。

守りたい場所。


でも――


相馬の笑顔が、頭をよぎる。


あの人は、

どこに帰るつもりなんだろう。


透は、知らない。


その問いが、

もう自分にも向けられていることを。

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