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光を背負う少年は、世界を守れない  作者: ゆうなるな


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29/58

第29話:何もなかった顔

本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。

朝は、いつも通り来た。


目覚ましが鳴って、

透はそれを止めて、布団から起き上がる。


身体は重くない。

筋肉痛も、違和感もない。


――昨日のことが、嘘みたいだった。


「……気のせい、か」


小さく呟いて、制服に袖を通す。

鏡に映る自分は、変わらない高校生の顔をしている。


朝食の準備をして、

母と他愛ない会話をして、

妹と弟の声を背中で聞きながら玄関を出る。


世界は、何も変わっていない。


*


学校でも、同じだ。


教室のざわめき。

チャイムの音。

ノートをめくる音。


さやと目が合えば、軽く手を振られる。


「おはよ、透」


「おはよ」


それだけ。


昨日の夜、

“出せたけど止められなかった”ことなんて、

どこにも残っていない。


――残っていない、はずだった。


体育の時間。

ボールが弾かれ、予想外の方向に飛んでくる。


「あっ」


誰かの声より早く、

透の身体が動いた。


考える前に、腕が伸びる。

ボールは、ぴたりと手に収まった。


「……ナイスキャッチ」


クラスメイトの声に、透は一瞬だけ固まる。


(今の……早すぎなかったか?)


でも、誰も気にしていない。

自分でも、理由は説明できる。


――たまたまだ。


そう思うことにして、

ボールを投げ返した。


*


放課後。

校舎裏の自販機前。


透が飲み物を買っていると、

少し離れたところに、見慣れない先輩がいた。


制服は同じ高校。

でも、どこか雰囲気が違う。


だらっと肩の力が抜けていて、

それでいて、目だけが落ち着かない。


先輩は、透に気づいて、軽く笑った。


「一年?」


「あ、はい」


「そっか。俺、相馬。三年」


相馬恒一(そうま・こういち)。

名乗り方は軽い。


「部活?」


「いえ……」


「だよな。俺も、そんな感じ」


相馬は自販機にもたれ、空を見上げた。


「最近さ。

 “間に合った”と思ったのに、

 全然足りてなかったってこと、ない?」


唐突な問いだった。


透は、答えに詰まる。


「……どういう意味ですか」


「んー。

 守れたつもりだったのに、

 あとから見ると、結構壊れてた、みたいな」


相馬は笑っている。

でも、その笑顔は、どこか無理をしているように見えた。


「ま、気にすんな。

 そのうち、慣れるから」


「慣れる……?」


「そう。

 できない自分に」


その言葉だけが、妙に重く残った。


チャイムが鳴り、

相馬は手を振って去っていく。


「じゃ。またな」


透は、その背中を見送りながら、

胸の奥がざわつくのを感じていた。


理由は、分からない。


*


その夜。

別の場所。


暗い部屋で、モニターが静かに光っている。


数値は、安定している。

――少なくとも、表向きは。


「訓練場のデータは、やはり空白です」


部下の報告に、徹は目を細めた。


「それでも、現象は起きている」


「事故……ではないと?」


「事故なら、もっと派手だ」


徹は画面から目を離し、低く言う。


「誰かが、出している。

 だが、管理外だ」


沈黙。


その言葉の意味を、全員が理解していた。


「引き続き、観測を」


「はい」


徹は、椅子に深く腰掛ける。


少年の顔が、脳裏をよぎる。


――まだだ。

だが、遠くない。


管理できない力は、事故と同じ。


それが、組織のルールだった。


*


透は、その夜も眠りにつく。


何も知らない顔で。

何もなかった一日の続きを、生きるために。


胸の奥に積み上がっている“何か”に、

まだ、名前を与えないまま。

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