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光を背負う少年は、世界を守れない  作者: ゆうなるな


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28/58

第28話:出せたけど、止められない

本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。

夕食の時間。


透がいない食卓は、思った以上に静かだった。

母は鍋を火にかけながら、何度か時計を見る。

妹と弟は先に箸をつけている。


「兄ちゃん、今日も遅いの?」


「……そうみたいね」


それ以上、母は何も言わなかった。

透が“作れない日が増える”と言った意味を、もう理解している。


それでも、少しだけ――

いつもの席が空いているのが、気になった。


*


コンクリートの床に、足音が響く。


「今日は、出せ」


師匠の声は短かった。

前置きも、説明もない。


透は、中央に立つ。

胸の奥にある感覚は、はっきりと存在していた。


(出すだけなら……)


前回、できなかった。

今回は、できる気がする。


そう思った瞬間だった。


息を吸い、意識を集中させる。

胸の奥に溜まっていた“何か”が、反応した。


――出た。


空気が震える。

音もなく、圧だけが広がった。


「……っ」


成功だ。

透は、そう思った。


だが、次の瞬間。


止まらない。


広がった感覚が、引っ込まない。

むしろ、さらに外へ押し出されていく。


「……あれ?」


制御しようとする。

意識を戻そうとする。


でも、反応しない。


(やめろ……!)


床に、細かな亀裂が走る。

照明が、わずかに揺れた。


「師匠……!」


叫びかけて、透は気づく。

師匠が、動いていない。


止めない。

助けない。


ただ、見ている。


「……止まらない……!」


力は、透の焦りに正直だった。

制御しようとするほど、強く脈打つ。


「……っ、やめろ……!」


ようやく、意識が追いつく。

透は必死に、引き戻す。


出す、ではなく。

終わらせることを考える。


数秒。

それとも、もっと短かったのか。


空気の震えが、ようやく収まった。


透は、その場に膝をつく。

息が荒い。


「……出せたな」


師匠が、そう言った。


責める声でも、褒める声でもない。


「でも、止められなかった」


透は、答えられなかった。


「それが、今日の結果だ」


師匠は近づき、床の亀裂に目を落とす。


「力はな、出せるかどうかより――

 終われるかどうかの方が、ずっと重要だ」


透は、拳を握る。


「……俺、ちゃんとやったはずなのに……」


「やったな。だからこそ、だ」


師匠は、透を見る。


「お前は“できた”と思った瞬間、止まる理由を失った」


その言葉が、胸に刺さる。


「守りたい、とかじゃない」

「間に合わせたい、とかでもない」


師匠は、淡々と続ける。


「もっとできると思った」

「それだけで、力は暴れる」


透は、視線を落とした。


怖かったのは、壊れた床じゃない。

自分が止めたいと思えなかった、その一瞬だ。


「……どうすれば」


「覚えるしかない」


師匠は言い切る。


「出して、止める」

「それができるまで、次には進めない」


少し間を置いてから、付け加える。


「今日みたいな失敗は、これから増える」


「……」


「でもな」


師匠は、背を向ける。


「止められなかったのに、

 自分が怖くなったなら――

 まだ引き返せる」


透は、ゆっくり立ち上がった。


胸の奥の“何か”は、まだ静かにそこにある。

消えもしないし、無くなりもしない。


でも。


(次は……止める)


そう思えたことだけが、今の救いだった。


出口へ向かう師匠の背中を見つめながら、

透は、初めてはっきりと理解していた。


――力は、もう戻らない。

――でも、自分は、まだ選べる。


そう信じたかった。

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