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光を背負う少年は、世界を守れない  作者: ゆうなるな


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第29話:何もなかった顔

本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。

朝は、いつも通り来た。


目覚ましが鳴って、

透はそれを止めて、布団から起き上がる。


身体は重くない。

筋肉痛も、違和感もない。


――昨日のことが、嘘みたいだった。


「……気のせい、か」


小さく呟いて、制服に袖を通す。

鏡に映る自分は、変わらない高校生の顔をしている。


朝食の準備をして、

母と他愛ない会話をして、

妹と弟の声を背中で聞きながら玄関を出る。


世界は、何も変わっていない。



学校でも、同じだ。


教室のざわめき。

チャイムの音。

ノートをめくる音。


さやと目が合えば、軽く手を振られる。


「おはよ、透」


「おはよ」


それだけ。


昨日の夜、

“出せたけど止められなかった”ことなんて、

どこにも残っていない。


――残っていない、はずだった。


体育の時間。

ボールが弾かれ、予想外の方向に飛んでくる。


「あっ」


誰かの声より早く、

透の身体が動いた。


考える前に、腕が伸びる。

ボールは、ぴたりと手に収まった。


「……ナイスキャッチ」


クラスメイトの声に、透は一瞬だけ固まる。


(今の……早すぎなかったか?)


でも、誰も気にしていない。

自分でも、理由は説明できる。


――たまたまだ。


そう思うことにして、

ボールを投げ返した。



放課後。

校舎裏の自販機前。


透が飲み物を買っていると、

少し離れたところに、見慣れない先輩がいた。


制服は同じ高校。

でも、どこか雰囲気が違う。


だらっと肩の力が抜けていて、

それでいて、目だけが落ち着かない。


先輩は、透に気づいて、軽く笑った。


「一年?」


「あ、はい」


「そっか。俺、相馬。三年」


相馬恒一そうま・こういち

名乗り方は軽い。


「部活?」


「いえ……」


「だよな。俺も、そんな感じ」


相馬は自販機にもたれ、空を見上げた。


「最近さ。

 “間に合った”と思ったのに、

 全然足りてなかったってこと、ない?」


唐突な問いだった。


透は、答えに詰まる。


「……どういう意味ですか」


「んー。

 守れたつもりだったのに、

 あとから見ると、結構壊れてた、みたいな」


相馬は笑っている。

でも、その笑顔は、どこか無理をしているように見えた。


「ま、気にすんな。

 そのうち、慣れるから」


「慣れる……?」


「そう。

 できない自分に」


その言葉だけが、妙に重く残った。


チャイムが鳴り、

相馬は手を振って去っていく。


「じゃ。またな」


透は、その背中を見送りながら、

胸の奥がざわつくのを感じていた。


理由は、分からない。



その夜。

別の場所。


暗い部屋で、モニターが静かに光っている。


数値は、安定している。

――少なくとも、表向きは。


「訓練場のデータは、やはり空白です」


部下の報告に、徹は目を細めた。


「それでも、現象は起きている」


「事故……ではないと?」


「事故なら、もっと派手だ」


徹は画面から目を離し、低く言う。


「誰かが、出している。

 だが、管理外だ」


沈黙。


その言葉の意味を、全員が理解していた。


「引き続き、観測を」


「はい」


徹は、椅子に深く腰掛ける。


少年の顔が、脳裏をよぎる。


――まだだ。

だが、遠くない。


管理できない力は、事故と同じ。


それが、組織のルールだった。



透は、その夜も眠りにつく。


何も知らない顔で。

何もなかった一日の続きを、生きるために。


胸の奥に積み上がっている“何か”に、

まだ、名前を与えないまま。

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