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38話 クロードの無二

クロード・フォン・ラング・ヴァレスディアと言う人間とはどの様な人か?

そう聞かれた時に10人中10人が皇子に相応しい人物だと答えるだろう。


「流石はヴァレスディア皇家の1人。将来が楽しみで仕方ありません」


「神童と名高きクロード殿下にお眼通りでき、感激の極み」


「クロード殿下なら今からでも皇帝を目指すこともできましょう。それ程に素晴らしい」


並べ立てられる美辞麗句な何も間違いでは無い。

勉学は同年代に並ぶ者が無いと言われるほどに優れ、ギフトにも将来が確約されてると断言出来るくらいに恵まれている。

その上で人当たりの良い利発的な少年ともなれば、わざわざ貶そうと思う人物は皆無だ。

だから皆が大袈裟と思えるくらいに褒め称えるが、クロードからすればあまりにも空虚な音に過ぎない。

そもそも、クロードは自身の評価はあまり高く無い。

それは、周囲が優秀過ぎる者しか居ない環境なだけあって、才能に溢れた人々に囲まれて育った弊害とも言える。

聖君と名高いシルヴァを筆頭に外交、内政共に並ぶ者無しとまで言われるミカエラ。

ありとあらゆる才を兼ね備えているとまで謳われるヴィンセントに、軍事の才が飛び抜けている第1皇女に国内最高のギフトを持つルミナリア。

家族の中で見てもクロードが最も優っていると言える部分など1つもないのだ。

それどころか周囲の同年代にすら、アレクセイには運動能力で大きく放され、知識量ではシューベルトに敵わない。


「クロード様は素晴らしい」


そう言われるたびに「そうかなぁ」と言う疑問が頭の中を通り過ぎるが、にこやかに「ありがとう」と受け入れる。

卑屈なのでは無く子供故の単純な疑問だ。

だから深く考える事もないし、言われた所で嬉しくも悲しくも腹立たしくも思わない。

彼の感覚からすればあいさつに近いのかも知れない。

家族であってもそれは変わらないし、褒められて嬉しくはあっても家族が嬉しそうだから釣られてな側面が強い。

しかし、その中で褒められると心の底から嬉しいと思える人物が1人だけ存在する。


「お前よくそんな事知ってるな」


とある本の話をしていた時のことだ。

本の題材となった話を蘊蓄として話すと、ユリウスはしみじみと呟く様に言った。


「つい最近習った筈だよ?ユリユリの方はやってないの?」


「やったような、やってないような?建国史とか宮廷史とか頭に入ってこないんだよなぁ。良くクロードは覚えてらるもんだ」


「ぼくは結構好きだからね。でも、ユリユリが覚えてないのって珍しいね」


「そうか?別に記憶力は飛び抜けて良い訳じゃないと思うが」


「だって本をたくさん読んでるし、色々な事を教えてくれるじゃん」


「まぁ、あれは興味があって読んだ内容だからな。流石に興味がない内容まで覚えてられるほど頭のデキは良くないぞ」


「ユリユリの頭が良くないならぼくも良くないね」


「それは無いだろ。クロードの方が勉強進んでるし要領も良い。いや、すごいよ、本当に」


虚な目で遠くを見つめながらユリウスは深々とうんうんと頷く。

最後の心の底から漏れた様な呟きは、クロードが普段聞くどの賛辞よりも陳腐な言葉な筈なのに、どの言葉よりも嬉しく感じた。


「なら、分からないところがあったら教えてあげるよ」


「そうしてくれ。お前が教えてくれるならその内に覚えられそうだから」


最後に「しつこいからな」と皮肉るユリウスに、クロードは「素直じゃないな〜」と茶化す。

この兄もまたクロードよりも優れた天才だ。

共に学び始めた時はクロードと並んで神童と持て囃されていた時期もあり、得意不得意の落差はあるが、算術では大人顔負けの優秀さを誇る。

さらには、最近では音楽の才能まで開花させた。

人当たりに難が有るとまでは言われなくとも、笑みの1つも浮かべない表情と癖のある性格のせいでとっつき難い雰囲気がある。

そのせいでクロードほど評価が芳しくは無かったが、それでも優秀と言う認識に変わりはなかった。

ついこの前までは…


「良くコモンなどで人前に出られたな」


「女神に愛され続けた皇族にも、ついに一瞥を貰えない者が出たか」


「あれだけ愛想が無ければ女神に見放されるもの当然さ」


「なんでも、義理の息子の無才さを和らげるために皇妃陛下が『クロード様に並ぶ優秀さを最持つ』なんて噂を流したそうよ」


「これまでが恵まれ過ぎだったのさ。人数が増えれば1人くらいああいうのも産まれる。皇族ですら例外では無いだろうよ」


ギフトを授かって初めての新年会でのこと。

『獅子王の心臓』の恩恵で優れた耳を持つクロードは、ユリウスに浴びせられる無数の心無い言葉を拾う。

何故そんなことを言えるのかが心の底から分からずにただただ困惑する。

しかし、囁かれる殆どが蔑んだり落胆したと言った、よく思っていない言葉であることだけは理解できた。

そんな時、双子の兄はどう思っているのだろうか。

新年会の歓談中にふと気になって会話をしながらもユリウスを盗み見てみるれば、そこにはいつも通り澄まし顔で椅子に座る姿があった。

スッと遠くを見つめる様な顔はつまらなそうにも不機嫌そうにも見える。

だが、クロードは知っている。


(あ、また目を開けたまま寝てる)


兄がやたらと自慢してくる特技だ。

寝てると言っても意識が限りなく薄くなっているだけで、周りの気配や視線は把握しているだろうに、それでも全く変わりの無い様子に思わずクスりと笑ってしまう。

ああいう態度が周りから太々しいと言われる要因なんだろうなと思いながらも、心配が杞憂に終わったことに胸が軽くなる。


「おや、これほどクロード殿下に笑って頂けるとはおもいませんでした。これだけで、この喜劇を観に行った甲斐があると言うもの」


「そうだね。人から聞いた話だけでこんなに面白いのなら、直で観ればなお面白いんだろうね。ぼくも機会があればぜひ観てみるよ」


「おぉ!その時は是非わたくしめを同行させてください。劇の見どころを説明します故に」


笑った理由を勝手に勘違いした貴族に、クロードは当たり障りのないごまかしをして場を乗り越える。

劇に興味があるのは本当のことではあるが、どうせ見るなら喜劇よりも冒険や英雄譚の劇が見たい見たいなと喉元に止めた。

それに一緒に行くなら最初はユリウスとが良いとも。

ユリウスが気にしていないことを自分が思い詰めるのが馬鹿らしく思うと、それからは気に留める事も無く新年会を過ごした。

そうして新たな年を迎えてからの日々はユリウスと共に本格的な皇子教育が始まる。

勉学の本格化も大きな変化だったが、それよりも大きな変化は他者との交流が増えたことだろう。


「クロードでんか!今度は我が家のおちゃかいにもきてくれませんか?」


「クロード殿下!うちの領地はお花が綺麗なんです。ぜひお越しになってください!」


「でんか!あったその瞬間よりおしたいしております!わたくしを婚約者に!」


グラントン公爵家にお呼ばれした最初のお茶会は、我先に押し寄せる子供達の相手に目を白黒させた。

今まで接してきた同年代の子供達は全員が何らかの素養ありと認められた子達なだけあって、大人とでも会話が成り立つ教育が施されてる。

だからこそ、一般的…と言うと語弊があるが、貴族の一般的な子供達と接してみて、初めて子供がどんな存在なのかをクロードは認識したのだ。


(わわわわ…ど、どうしよう。どれから答えればいいのかな)


矢継ぎ早に飛び込む言葉の羅列。

流石にもみくちゃにされることこそないが、子供故の遠慮の無さは怒涛の言葉責めを意図せずに行ってくる。

それでも一見何事もない様に受け答えができるのは、クロードの人柄と普段から努力を欠かさない賜物だ。

四苦八苦しながらも慣れない対応をする事しばらく、会場の一部が何やら騒がしくなる。

他の子供達も何事かと興味を惹かれたのか、会話の勢いが削がれたところでクロードは一旦その場を後にすることができた。


(問題でも起きたのかな?)


周囲の子供よりは大人びているとは言え、クロードも好奇心旺盛な子供盛りだ。

皇子としての身の振り方を心得ているからこそ、渦中に野次馬として乗り込むことはしなくても、どんなことが起きたのか興味は尽きなかった。

見に行きたいなと周囲を伺っていると、問題の中心から出てくる知り合いを見つける。


「やぁ、アレクとシューベルト」


「お、クロードじゃん。やっとあそこから抜け出せたのか?」


「何かあったみたいだからね。ところで、2人はその何があったのか知ってる?」


丁度良いことに問題の渦中から抜け出してきた様子のアレクセイとシューベルトの2人に、何が起きたのかを尋ねる。

すると、案の定説明が得意なシューベルトが答えてくれた。


「ユリウスがスリット伯爵令息に決闘を申し込まれたんだよ。詳しい理由は僕も分からないけど…」


「ユリユリが何か変な事でもしたのかなぁ?外だと静かにしてるのに珍しいね」


「そうだね。多分ユリウスが何かしたんじゃなくて、スリット伯爵令息が巻き込んだんじゃないかな。ほら、最近だとユリウスって悪く言われてるし」


「そうなのか?アイツ変なヤツだけど普通に凄いじゃん。見ればわかるだろ」


「それはユリウスを良く知ってる僕たちだからだよ、アレクセイ」


「ハッ!だとしても、ユリウスに決闘とか馬鹿だろ。俺でも勝てねーのに、そこら辺のヤツに勝てる訳ねーじゃん」


シューベルトの言葉をアレクレアは鼻で笑い飛ばし、クロードも笑いながら「そうだね」と同意する。

身内が問題に巻き込まれていると言うのに3人は呑気なもので、思い思いに感想を言い合う。

この場にユリウスが居たら1人も自分の心配をしてない事に文句でも言うだろうが、3人からすればどこを心配すれば良いのか分からないのだ。

それくらい信頼されているのだが、本人が納得するかは別の話だ。

話が何と無く分かれば関係者の1人として行動を開始した。

そうして、目敏くユリウスがなし崩し的に決闘をする事になる事を知ると、その勇姿を見る為に3人で特等席を確保して最高の娯楽を堪能する。

さて、無謀な挑戦を吹っ掛けたのはどんな人なのかとクロードがワクワクとしながら待ち侘びれば、現れたのはどこにでもいそうな小生意気な子供。

てっきりアシュペリアのように才気溢れる子なのかと思っていただけに、肩透かしどころの話では無い。


「は?あれがほんとにユリウスの相手か?勝負になんねーだろ」


「人を見かけで判断するのは良くないよ。もしかしたら、凄いギフトを授かったのかもしれないし、知略で戦うのが得意なのかも」


「じゃあ、シューベルトは決闘でユリウスに勝てるのかよ」


「そんなの無理に決まってるよ…」


「お前が無理なら他も無理だろうが」


クロードが口に出さなかった事を開け透けなく言い放つアレクセイ。

それをシューベルトが嗜めるが、つまんない見せ物になった決闘を冷めた目で眺める少年は鼻で笑い飛ばす。

彼からすれば身近で最も賢い友人が無理なのだから、そんなことができる子供なんていないと言う最大の賛辞であるのだが、言われた本人は気が付かずに肩を落とす。

アレクセイはその様子を見てつまらなそうに鼻を鳴らすと視線を会場に戻した。

シューベルトの自己評価の低さが気に食わないのだろうが、それは鼻を鳴らす本人にも言えることだとクロードは小さく笑う。

尊大で横暴にも見える少年もまた、優秀すぎる父やおかしな乳兄弟に叩きのめされ過ぎて、自分の評価を誤っている1人なのだ。

それを笑う皇子もそのうちの1人なのだが、同じ穴の狢と言うヤツなのは言わぬが花なのかもしれない。


「お、始まったね」


立ち合い人の合図がなされ始まる決闘。

なんとなくどういう結果になるかは分かっているが、もの凄いギフトを持っているのかもしれないと少しだけ期待を寄せる。


「ユリユリ〜、がんばれー」


負けるとは微塵も思っていないだけに、クロードはなんとも気の抜ける応援を送る。

決闘中でも弟からの声援を拾ったユリウスは少し眉を寄せながら、向かって来た相手を難なく捌いて、終いには足を引っ掛けて転ばせる。

あれは彼のお気に入りの技なのか格下には毎回するのだ。

最もその被験者になってるアレクセイは渋顔を作る。


「もう少し手加減してやれー!」


思わずといった様子で野次を飛ばしたのは自分を重ねての抗議なのか。

何はともあれ、一度転ばされただけで動かなくなった相手からユリウスが視線を切ると、ゆったりとした動きでクロードの元へ向かって来る。

あれは文句を言いたい時の顔だろうか。

一見あいも変わらず凛とした無表情に見えるが、眉間に少し力が入っているのがクロードには分かった。

どうせ何故手助けをしてくれないんだとかそんな所だろうと当たりをつけながら、クロードは無愛想でも大好きな兄を迎えるのだった。

少しクロードについて深掘りを。

ヴァレスディア家において、最もシルヴァらしさ濃く継いだのがクロードくんです。

基本ユリウスのことは全肯定な厄介ブラザーですが、憧れるかと聞かれればノーとしっかり答える我の強さを備えている。

天真爛漫で物腰柔らかいに振る舞ってはいても、警戒心がそれ以上に高かったりします。

幼馴染以外の友人が出来ないことを親達は心配しいたりしますが、本人はあんまり気にしてないので、実はユリウスとは似たもの兄弟だったり。

余談ですが、蛮族さんには無い主人公補正が備わっていますが、蛮族さんが大体肩代わりしたりマンパワーで解決してしまうので、今の所はろくに役立てた事がない。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。

モチベーションの維持になりますので何卒。

一作品目の『社会不適合者の英雄譚』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。

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