37話 お茶会での決闘?
「ユリウスでんか!わたしとけっとうをしてください!」
「え、何で?」
グラントン公爵家の茶会に呼ばれて、言われるがままに参加する羽目になった俺は、挨拶代わりに何故か子供から決闘を挑まれることになった。
本当に何の脈絡も無く唐突に…
新年会を終えて目ぼしい行事もまばらになって暫くした頃。
ようやく去年と同じ様に…とはならなかった。
そもそもな話として教育のレベルを上げておきながら、さらに分野自体が倍くらいに増える。
語学、算術、歴史、魔術、礼儀作法、武術が去年までの教育科目だったのが、そこに芸術、他言語、経済学、宮廷学が追加された形だ。
いくら何でも過ぎるだろうが。
そこはかとなくモルゲンが増やしまくったような気配がしないでも無いが、本人に聞いてみてもミカエラが決めた事だとの一点張りだ。
ミカエラに関しては、その鬼畜さは前々から知っていたから特にコメントは無い…
そんな謎の采配で増やされまくった勉強以外にも、社交デビューも兼ねていた新年会が終わったせいで社交の場にも出席しなくちゃならなくなった。
まぁ、社交って言っても所詮子供が出る物なんてお喋りと顔合わせをするだけのママごとみたいなものだ。
ミカエラやヴィンセントが出席する様な権力争いや国益が絡む場じゃない分、本当に気楽なパーティーだったりする。
俺からすればその気楽なパーティーとやらが死ぬほど苦痛なことに目を瞑ればだが。
それこそ、アホほど追加された勉強の山を余裕で越えるくらいに。
因みに、忙しさが増した俺に反比例するように、兼任してた教育係の仕事が無くなったモルゲンには余裕が出来た。
解せぬ。
「ごきげんよぉ、ユリウスでんか。わたしは…」
社交デビューをしておきながら出不精なせいでミカエラから強く言われたのと、アシュペリアの様子を見たくて渋々来た外での茶会。
初めての人生初茶会に参加して早々、死ぬほどうんざりとした気持ちで子供の辿々しい挨拶に耳を傾け続けるだけ。
茶を飲んだり菓子をつまんだりは良いし、子供が一生懸命挨拶するのは頑張りが見えて好感が持てる。
だけどさ…
内容が要約すると「婚約者にして!」とか、「将来側近として雇って!」とかなんだよなぁ…
腹黒いオッサン達が「後ろ盾になってやるから、新たに公爵家を起こせ」とか言ってくるよりは遥かにマシではある。
あるんだけど、同じ身の無い話をされ続けるのは、俺の人生で上から数えた方が良い苦痛指数を叩き出してる。
因みに、苦痛ランキング堂々の1位は師匠手製調剤の被験者になる事だ。
シンプルに「痛い」「キツい」「長い」の地獄の三拍子はもう味わいたくないぞ。
まぁ、そう思ってたのも最初だけで、2、3年も経てばあまり気になら無いくらいには慣れたが。
何が言いたいかと聞かれれば、それに近い苦痛を今受けてるってことだ。
暇な時間は大歓迎な俺でも、寝るのも本を読むのもダメってなると話が変わってくる。
あぁ、早く終わんねぇかなぁ…
何度目かも分からないくらいに心の中で呟いていた矢先の出来事が子供との決闘騒ぎだ。
「ユリウスでんかはゆうしゅうとなたかいです。なかでも剣がとくいだと。『剣士』のギフトをさずかったものとして、ぜひウデをかりたいです」
どうやら聞き間違いじゃないらしい。
かと言って、話を聞き飛ばしたんじゃないかと自分を疑ったが、いくら思い返してもそれらしい事は話して無いどころか、そもそもコイツと話して無い。
あと、借りるのは「腕」じゃなくて「胸」だと思うぞ。
「えぇ…」
とんでもない急展開にただただ困惑する。
助けを求め様にもこの席に同席していた同行者のクロードも主催者のアシュペリアも今は居ない。
アシュペリアの方はここに居たところで助けてもらえるとは思えないが。
随分と嫌われてるみたいで、今日も顔を合わせれば嫌そうな顔をしてたからな。
一瞬だったけど、強張ったのがバッチリ見えてたからな。
で、ここにいる唯一の知り合い…と言うか従者が1人居はするんだが、モルゲンは基本的に貴族同士のやり取りで口出しをする事は無い。
後から補足やダメ出しをすることはあるけどな!
「俺よりもアレク…アレクセイの方が相応しいと思うぞ。アレクセイは『剣王』のギフト持ちだし、学ぶところは色々あるだろうさ」
俺と良く模擬戦をしてる幼馴染のアレクは、グランドギフト『剣王』を貰った…と言うことになってる。
要するにアシュペリアと同じ枠だ。
アレクはワールドじゃなくてゴッズの違いはあるけど、違いはそこまで無いし似たものだ。
だから、アレクと戦った方が身になると思っての提案だったんだが、何故かガキは狼狽え始める。
「あ…い、いえ!ぜひユリウスでんかとがイイです!」
「アレクセイだと何かよく無いのか?」
「?…アレクセイ、どのとじゃしょうぶになりませんから。レアギフトじゃグランドギフトにはかてないんですよ?」
そんな、当たり前のことも知らないんですか?みたいな反応をされても。
明らかな嘲笑をこの歳で出来ることは一丁前だが、下心を隠すのがまだまだじゃクソ貴族としてはガキ相応だぞ。
いや、貴族うんぬんの前に祝福至上主義は割とどこにでも居るから普通の反応なのもあるか。
「まぁ、どうせやるなら勝てると思える相手が良いよな。分かり切ってる決闘なんてつまらないし」
「そうですよ!なのでやりましょう」
謎の同意をされたが、多分コイツと俺の話は噛み合っていないと思うんだが。
てか、ガキなだけあってボロが出まくっているのは大丈夫なんだろうか?
そこ同意しちゃダメだろうが。
俺は気にしないが、コイツも親も不敬罪とか名誉毀損とかになりかねないのも教えとかないと後で大変だぞ。
「やるのは良いが、場所はどうするんだ?茶会の会場でやるのはマズイと思うが」
まぁ、この場で挨拶やクソつまらない雑談をするよりはマシだから決闘をやるのは構わない。
だけど、根本的にこのガキはどうやって場所を用意するつもりなのか?
純粋な疑問をぶつけてみると、そこまで頭が回らなかったらしいガキは、目に見えて動揺し始める。
「あ、え、えっと…こんど!こんどわがやにしょうたいします!」
「すまないが、これでも皇族だからな。他の日は予定を入れられないんだ」
「ユリウスでんかはじかんがたくさんあるのでは?コモンギフトですし」
ナチュラルに失礼だなこのガキ。
落ちこぼれって思ってるんだろうが、ミカエラがそれを理由に教育の手を緩めるなんて無いんだよ。
俺的には是非とも緩めてほしいところなのだが、残念ながらその気配は微塵もない…
「非才だからこそ勉強が必要なんだよ」と返してやれば、言葉通りに受け取ったガキは「なるほど!がんばってください」と返して来る。
ここまで来ると普通にユーモアがあって面白く感じて来るな。
少なくとも、ゴマすりをしてくる奴らよりも遥かに面白い。
「で、結局場所はどうするんだ?」
「え…じゃ、じゃあ、おい!そこの使用人!」
「はい、いかがいたしましたか?」
困り果てた末に、上から目線で給仕を呼び止めるおガキ様。
お前、一応俺のこと皇族として敬っていたんだな。
そんなことに感心していると、おガキ様は偉そうに続ける。
「いまからユリウスでんかとけっとうをする。ばしょをじゅんびしろ」
「決闘にございますか…恐れながらユリウス殿下」
「何だ?」
「殿下も承知の上でと言うことでお間違えありませんでしょうか?」
「あぁ、間違いない。ただ、無理にとは言わない」
「ユリウスでんか!?」
「グラントン公か奥方にはそう伝えてくれ」
俺の最後の一言に不服な態度を隠さないおガキ様は声を荒げるが、そこまで聞き入れてやる義理は無いので無視する。
絶対に跳ね除けられるアシュペリアにしなかっただけ大分マシだと思って欲しいくらいだ。
グラントン家の使用人は「かしこまりました」と了承してくれた。
そうして待つ事暫く。
無事に決闘が受理された。
「何故に?」
トントン拍子で進んだ状況に、おガキ様と対面する俺は思わず呟かずにはいられなかった。
いや、準備をする様に頼んだのは俺なんだけど、まさか本当に了承されるなんて思わなかった。
茶会で決闘騒ぎだなんてグラントン家からすれば面倒な騒ぎだろうに、ランデウスは何を考えて…とも思ったが、本人の気質的にやりそうでもあるな。
公爵だなんて高い地位についているのに、アイツは意外と自由人気質なんだ。
流石ジルヴァの友人と言ったところ。
何はともあれ、用意された場所は会場のすぐ近くの庭にある開けた場所を、結界魔術で囲っただけの簡易的な舞台だ。
大人には心許なくてもギフト持ちとはいえ、子供がやると考えれば充分過ぎるな。
そして周りには茶会に招かれた子供と保護者の野次馬がゾロゾロと…おい、クロードとアレク、シューベルトまで高みの見物かよ。
「アイツら他人事だと思って良い身分だな。いや、良いところの坊ちゃんか」
人の事情も知らない弟と幼馴染達は決闘を今か今かと楽しそうに待っていた。
アシュペリアも澄まし顔でランデウスの隣に居ると言う事は、どうやらこの決闘を余興の1つにしたらしい。
まぁ、迷惑をかけてる立場だし文句は無いんだが、見せ物にされるのは少しやめてほしかったな。
「それでは、両者準備はよろしいでしょうか」
「かまわない!」
「ん?ああ、いつでもどうぞ」
立ち合い人の言葉に頷く。
本来の決闘は名乗りとか形式ばった口上が必要になったりするんだが、今回は子供同士ということで略式だ。
立ち合い人の「始め!!」の合図がなされると、おガキ様が躊躇いなく木剣を振り下ろして来る。
そういえば、今更だけどおガキ様の名前なんて言うんだ?
そんな事を思いながら半身になって躱す。
『剣士』のギフトを貰ってるだけあって、子供のくせにそれなりに形になってるな。
体が出来上がってないガキはどうしても挙動がぎこちなかったり、そもそもちゃんと振れてない場合が多い。
戦闘系ギフトを貰ってるだけはある。
「んー、だけどなぁ」
剣がちゃんと振れてる。
それだけだ。
駆け引きなんてあったもんじゃないし、普段対人戦をしてないのか狙いがバレバレ。
やっぱ、アレクは凄かったんだなぁ。
ユリウスになってから周りのガキの性能がおかし過ぎて感覚が麻痺してたけど、戦いを経験してない子供なんて所詮このくらいなんだよ。
おガキ様は戦闘系ギフト持ちにしては弱い気はするけど誤差の範囲だろ、多分。
型だけは出来ている攻撃をひたすらに回避して観察を続ける。
「な、なんで。あたんない!?」
「そりゃあ、フェイントの1つも無いし。丁度良いしやってみれば?」
いっそ普通過ぎる動きに感動していると、おガキ様の体力に早くも限界が見え始めた。
少し気の毒に思ってアドバイスをしてみると、みるみる内に顔が険しくなっていく。
「うるさぁいっ!!」
「何故怒る?」
熱っていた顔をさらに赤らめたおガキ様は、渾身の一撃と言う名の大振りを見せて来た。
「ほい」
「うわぁっ!?」
また横に逸れながら足を置いてやれば、脚をもつれさせたおガキ様は自分から顔を地面に叩きつけた。
おー、久しぶりに綺麗に決まったな。
アレクにも良くやってたけど最近全然引っかかってくれないから、もう使う事は無いと思ってただけに満足だ。
「あれ?」
後何回転ぶ羽目になるのかと脳内予想をしてみるが、肝心のおガキ様はいつまで経っても立ち上がる気配が無い。
動かなくなったおガキ様に立ち合い人が近づいた。
「気絶しております。よって勝者は、ユリウス・フォン・ラング・ヴァレスディア!」
立ち合い人が朗々と声を張り上げて名を呼ぶ。
しかし、決闘の勝者が決まったのにも関わらず、周りの反応は決して良いものじゃない。
クロード達身内組はまるで当たり前かのような反応だ。
アレクに至っては「もう少し手加減してやれー!」と野次まで飛ばして来やがる。
これ以上どう手加減しろと?
他はまちまちで控えめに拍手をしてくれる人達がぼちぼちで、殆どが俺のギフトを知っているからか動揺している感じだ。
その中で異質なのがランデウスで、面白いものでも無いだろうにニコニコとしながら俺に拍手を送り続けてやがる。
あと、隣に居るアシュペリアの冷めた顔との対比が凄かったとだけ言っておく。
こうして俺は人生初の決闘を乗り越えた訳だが、この先にアホほど申し込まれる様になると知るのは少し先の事だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。
モチベーションの維持になりますので何卒。
一作品目の『社会不適合者の英雄譚』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。




