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39話 ランデウスからのお誘い

「さてと」


どこぞのボンボンからの決闘も早々と終わり、さてどうしたものかと悩む。

グラントン家の従者達こそ職業柄表情が読み取れないが、周囲の観客達の半分くらいはマヌケな面を晒している。

何故か俺が負けると思っていたんだろうが、中身おっさんが流石に負けるわけないだろ。

相手は正真正銘のガキなんだし、ギフト自体もたかだか『剣士』なんてレアギフトくらいなんだから、精々が「子供にしては強いだろう」なくらいだ。

そもそも、あの子供は鍛錬どころか殆ど身体を動かすことすらしてなかっただろうし、総合で言えば戦闘系じゃない村に住んでる同年代の子供以下まである。

貴族のギフト至上主義の弊害なんだろうが、それにしても酷いと思うぞ。


「気絶してしまったようだから、手当を頼めるか?」


「お任せください」


取り敢えず、地面を舐めるガキを審判を務めてくれたグラントン家の侍従にぶん投げて、その場を去ることにする。

目指すは楽しそうにヤジを飛ばしていた3人組の元。


「お前ら、いい御身分だな?」


「皇族だからね。ユリユリお疲れ様。余裕があってかっこよかったよ」


苦情がてら嫌味を言ってみれば、クロードはケロりと返す。

そうだったな、お前も俺も皇族だから良い御身分だよな…

そばに居る2人も貴族様だし、良い身分じゃない奴がいねぇや。


「何言ってんだ、クロード。あれくらいユリウスなら当然だろ」


「そう思うのはアレクセイだからだよ。僕ならすぐやられちゃうよ」


「シューは魔術使えるんだし、なんとかなんだろ。そんなことよりユリウス。あれとやったんだから、俺とも決闘しよーぜ」


弱気なシューベルトに適当なフォローを入れたアレクだったが、直ぐに戦闘狂の顔を作ると決闘を申し込んで来る。

シューベルトに向けた微塵の優しさを微塵でも良いから俺に分けてくれ。

いや、塵の塵なんて無いようなもんか。

そんな優しさなんて無い我儘ボーイにはお仕置きが必要だよなぁ?


「いいぞ。じゃ、すたーと」


「は?ちょ、いだだだだただ!?」


アレクが動く前に手首を掴み、そこから絡み付いて絞技を決める。

ろくな抵抗も出来きずに甲高い絶叫を鳴らし、頃合いをみて力を緩めれば2人目の床ぺろ小僧の出来上がりだ。

あと、兄の不幸を見てニマニマしているような奴にもお仕置きは必要だよな?


「よし。次はクロードだな」


「え?ボクやるなんて言ってな…」


「問答無用。せい」


「いたっ!?」


言い切るよりも先に俺のデコピンが火を吹く。

パチコーンと良い音を鳴らしながら、クロードが大きくのけ反る。


「うぅ、ユリユリ酷いよ…」


「困ってる兄を見捨てて高みの見物をキメこんだ弟の方が酷い」


「ユリユリなら助けなくてもどうにかするでしょ…」


「お前が来てたら決闘なんてならなかっただろ。やったおかげで鬱陶しい視線を独り占めだぞ」


「ボクが間に入ったらその時はどうにかなるかもだけど、後でもっとめんどくさいことになったよ。それに、ミカエラお母様の耳に入ったら多分怒られるよ」


涙目で額を抑えるクロードは無駄に理路整然と建前を口にする。

今年で5歳児なくせに無駄に弁が立ちやがるな。


「それはそれ。これはこれだ」


「えー」


「じゃ、最後にシューベルトにもやって終わるか」


「なんで!?」


他人事のように眺めていたシューベルトが肩を跳ね上げるが、2人に便乗した時点でお前も有罪だぜ?

試しに自分の掌をデコピンでペシンペシン叩きながら近づけば、みるみるうちに顔を青くして身を縮こませる。

ジリジリと距離を詰めていくと、間の悪いことに鈴を鳴らしたような声が横入りする。


「ご歓談の中に失礼いたしますわ」


「ん?おや、これはこれはアシュペリア嬢。この度は茶会に招いてくれたこと感謝する」


「やぁ、アシュペリア嬢。今日もドレスが凛とした雰囲気に合ってて綺麗だね。余り見ない催しも準備してくれていて、楽しませてもらってるよ」


「クロード殿下およびユリウス殿下に楽しんでいただけている事、光栄に思います。お困り事がございましたら、ご遠慮なく我が家の者にお伝えくださいまし」


つい今まで額を押さえていたハズのクロードだったが、何事もなかったかのように俺の隣に並び立つ。

それにしてもクロードの奴、珍しく引っかかる物言いをするな。

アシュペリアの表情が一瞬苦虫を噛み潰した顔になってたし、おそらく遠回しに苦情でもいれたっぽい。

早速お仕置きの成果が出たのは嬉しいが、子供にそんな事言ってもダメなんじゃないか?


「グラントン公爵家が開く茶会は帝国有数の催しだ。困り事なんてそう起こらないさ」


「そう、言っていただければ幸い、です…」


仕方なしにギスりそうな雰囲気を立て直そうとしたのに、何故かアシュペリアの表情が引き攣る。

あれ、藪蛇だった?


「ところでユリウス殿下、この後にお時間はございますでしょうか?もしよろしければ、お父様が是非お会いになりたいと申しております」


「グラントン公爵が?」


予想外の誘いに困惑する。

前の大失敗のせいで嫌われたと思ったんだが、この場合の会いたいは苦情とかか?

ランデウスとは顔馴染みではあっても親しい訳でもないし、感情が読めないからよく分からないんだよな。


「あぁ、構わない。いつ向かえばいい?」


「問題が無ければ今直ぐにでもご案内いたします。それから、クロード殿下には当家自慢の庭園をご案内したいと思っているのですが如何しましょう?」


「是非お願いするよ。有名なグラントン公爵家の庭園を案内してもらえるなんて楽しみだなぁ」


クロードを巻き込めないかなと考えていると、早々に壁要員が分断される。

なるほど、俺とマンツーマンで会いたいと…もしかしなくてもまだ怒ってる感じか?

そりゃ、娘ほっぽり出して居眠りしておいて、拐われてるんだからそりゃ怒ってるよな。

クロードもクロードで察し自体はかなり良いから疑問を挟む事なく頷くし、嫌な予感しかしない。


「では、僭越ながら私が庭園のご案内させていただきます。パーソンはユリウス殿下をお父様の元へお連れして」


「お任せください。ユリウス殿下、改めてご挨拶を。私めはグラントン公爵家にて閣下の補佐官をさせていただいています、パーソンと申します。早速にはなりますが、ご案内してもよろしいでしょうか?」


貴族らしい抜け目の無い手回しの手腕。

口を挟む暇もなくランデウスと会う事が決定した気がするが、俺としても一言くらい謝っておきたいし前向きに考えるとするか。

「構わない」と返せば、本当に準備とか間をおかずにパーソンが案内を始める。

最後にチラリとクロードを見てみると丁度あちらと目が合う。

ひらひらと小さく手を振って送り出してるトコを見るに「ユリユリ頑張ってねー」か?

他人事だと思って適当なヤツめ!

制裁が足りて無かったなと、次の方法を考えている内に迎賓館の中にある一室に通される。


「ユリウス殿下、急なお呼び立てをして申し訳ありません。どうしても先日のお礼を述べたかったもので」


「お礼?」


「立ち話はお疲れになるでしょう。こちらへどうぞ」


部屋に入ればいつも通り薄い笑みを浮かべたランデウスが出迎えてくれる。

これも貴族的な言い回しってヤツか?

娘を危険に晒してくれた借りは絶対に返すぜ的な意味の。

そう勘繰っているとランデウスがお茶の手配をさせ、直ぐに対面のセッティングが完了してしまう。

ガラにも無く身構える中、ようやくランデウスが切り出す。


「殿下は茶を好んで嗜むのだとか。非常に珍しい逸品を見つけましたので、是非振る舞いたいと思いましてね」


「それはありがたい」


それどこ情報なんだよ?

確かに茶は昔から好んで飲んではいるけど、茶会の類なんかは全部断ってるから、逆に嫌いだと勘違いされるのが殆どだ。

情報漏洩先は…シルヴァだな。

確か、ランデウスと仲が良いし。

貴族らしい薄ら笑いからは何も読み取れないランデウスを警戒しつつ、給仕に差し出されたカップに口を付ける。

あ、飲み慣れないけど物が良いのは分かる。


「美味いな。グラントン公が珍しいと言うだけはある」


「口に合ったようで何よりです。ささやかながら準備した甲斐がありました。殿下がティータイムを楽しみにしていると聞いた時は、同好の友がまた1人見つけられ舞い上がったものです」


「気持ちが分からないでもないが大袈裟じゃないか?貴族なら茶を嗜むくらい普通だろう」


「嗜むのは普通でも趣味となると、どうしても婦人方に寄りますから。紳士はやはり酒に没頭しがちですね」


「酒の方が愛好家も多いだろうからな。公はどうなんだ?」


「酒も嗜みはしますが、お恥ずかしながら余り強い方ではないのですよ。妻も娘も同じ趣味をしていますので、私としては酒類よりも楽しいのですがね」


家族の話が出た瞬間、僅かに顔が緩む。

お前も家族ラブ民族か。

そりゃ、シルヴァとも意気投合するだろうな。


「次は私が考えたブレンドもお試しください。もし空きがなければお持ち帰りでも構いませんので是非」


「ブレンドまで考えるのか。そこまでいくと確かに立派な趣味だな」


「えぇ。凝りすぎて茶葉を一から育てるために温室を作ってしまい、妻に呆れてられてしまいましてね。その後は家族も喜んでもらえたので良かったのですが、やはり慎重に事は運ぶべきですね」


接待のために話を合わせにきてるのかと思えば、本当に精通しているらしく楽し気に次の茶を勧めて来る。

家族云々を抜きにしても割と本格的な楽しみ方をしてるな。

俺も師匠の畑で茶葉を育ててたから、自作できる畑は結構羨ましい。

公爵の権限は皇子の権限を超えている一端だな。


「殿下も行動を起こす時は慎重を心がけた方がよろしいかと。私はこれだけでなく、つい先日も手痛い失敗をしたばかりですので」


ランデウスの声音が変わる。

割とどうでも良い趣味の話をしていたせいで夢の畑設計に思い馳せていると、急に話の雲行きが悪くなる。

話題転換が常夏から極寒くらいの温度変化じゃないか?


「そうだな。俺もそのことを痛感させられたばかりだ。浅はかな行動のせいで間接的とは言え、公には迷惑をかけたな」


俺的には謝罪したいところだが、あの事件を皇族のせいでとなると大問題だ。

だから、これが今出来る精一杯の謝罪になるのだが、高圧的な謝罪にも眉一つ動かす事なく、ランデウスは首を振る。


「いえいえ、滅相もない。その件に関しては、むしろ感謝を述べたいくらいです」


「感謝?」


「ユリウス殿下と言うナイトのお陰で悪い虫を追い払っていただいたのですから」


「何の話だ?俺は途中で具合が悪くなって休んでいたが」


何故感謝?と困惑しながらあの日考えていた筋書きを語ると、ふいにニコリとランデウスが嗤う。

やられた。

罠の存在に気が付けた時には全てが遅く、人を嵌めた事による嫌らしさなんかはないが、それでも得意気な雰囲気をありありと浮かべている。


「おや?どうやら話に齟齬があるようだ。エスコートして頂いたお陰で、他の子息への牽制になっていただきましたでしょう。父親としては愛娘に知らぬ男を集らせるのは抵抗があったもので」


「そうなのか。てっきりアシュペリア嬢が誘拐されてる時に、体調不良とは言え責務を放り出した事を攻められるとばかり思っていたぞ」


「ああ、その事ですか。思うところが無い訳ではありませんが、あれはどの道起こっていた愚行ですので、ユリウス殿下を責めるつもりはございませんよ。それと誘拐の件、よくご存知ですね。表には一切出していない筈なのですが、ミカエラ様からお聞きになったのでしょうか?」


あ、また墓穴を掘った。

にこやかに話を訂正している様に見えるが、これは獲物が罠に嵌ったのを確信する狩人の顔だ。

カマをかけたらこんなに綺麗に嵌ったんだから、そりゃ気持ちいだろうな!


「ああ。翌日ミカエラお母様からお叱りを受けた時に知ってな。俺のせいで無くとも、グラントン公はもとより、アシュペリア嬢には本当に申し訳ない事をした」


「殿下が謝罪することではございません。全てはこんな愚行を企てた愚か者達の咎です。なにより、皇妃陛下から罰せられた殿下を私が罰するのはお門違いでしょう」


せめてもの抵抗に言い訳を並べ立ててみるも、ランデウスの笑みはさらに深くなる。

もしかしてまた言質をとられたか!?

言葉での腹の探り合いは専門外なせいで、具体的に何処がかは分からないけれど、反応から欲しかった答えを引き抜かれてるのだけは分かるぞ。

それはそれとして、あの時に見られてるのは気付いてたが、あれコイツの部下だったのかよ。

皇族直属の暗部だと思ってたから完全に油断した。

愛娘が遭遇した事件だからって、どんだけ徹底的に調べようとしてんだよ?


「ですが、ユリウス殿下としてもこれだけではお心も晴れないでしょう。そこでお願いしたい事がございます」


「なんだ?」


ようやく何を探られていたのかを察せたが、後の祭り過ぎてもう繕うのも馬鹿らしい。

ヤケクソ気味に短く問い掛ければ、勝利を確信した狩人が要求を述べる。


「また娘のエスコートを頼んでもよろしいでしょうか?殿下の側に居れば虫達も幾分か近づき辛くなるので」


「それくらいならいつでも構わないぞ」


「ありがとうございます。それからもう1つお願いしたい事が」


少し身構えてみたりしても、答えはなんて事もない些細なお願い。

拍子抜けになる気持ちをグッと抑えると、予想通り本命らしき要求がある。


「まだあるのか。全部いっぺんに言え」


「そう身構えずに。陛下の息子にグラントン公と呼ばれるのも味気ないでしょう。これからはランデウスとお呼びください」


「回りくどいぞ。早く要件を言え」


「お願いとは名前で呼んでもらう事ですよ?」


「は?」


拍子抜けどころか意味のわからないお願いに思考が固まる。

ははは、いい年こいた大人から聞こえたとは思えないセリフが出てきたぞ。

名前で呼んでほしい?大国の公爵様が何を言ってんだ、コイツ。

落ち着け、俺。

今のは聞き間違いがもしれない。


「ちょっっと待て。この話って要約するとお前の弱みを握ったから、要求を飲めって話じゃないのか?」


「穿った見方をすればそうかもしれませんが、私はもとより、グラントン家に恩を仇で返すなど許されませんよ。単にこれからも末長くお付き合いしていく上で、親睦を深めたいと思ったに過ぎません」


「だからって手始めにやることが、名前呼びさせることかよ。友達のいねぇガキか」


「理解があるようでありがたい限りです。ユリウス様」


呆れ果てたせいで思わず素の状態の崩した口調が出るが、ランデウスは嬉しそうに顔を緩めるだけに終わる。

ランデウスの考えが分からないのが凄く気持ち悪くあるが、これ以上真剣に向き合っても無駄に苦労することが目に見えているんだから諦めるしかない。

それから、最後のなんか引っかかる物言いが少し気になりはしたが、どうせ考えたトコでまた転がされるのが目に見えている。

だから、後日の俺に頑張ってもらうことにして考えを放り投げた。


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