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35話 口を回すのは難しい

「話を戻しますけど、俺がアシュペリア嬢の居場所を察知した時には、連絡や命令なんかを挟んでいると手遅れになると思いました。行動の速さは巨大組織の欠点ですから。その点、俺の脚ならまぁ追い付けるかなと思って抜け出しました」


これは言い訳用に考えてきた筋書きだ。

実際には居場所の特定は出来てなかったが、そこは俺の感覚の話だから追求はされづらい。

ミカエラはその事を察していそうだが、即座に口を開かないとこを見るに追求はしないらしい。


「随分、移動に自信があるのね。皇城からノールドの森まで近衛の馬でも数時間はかかるわ。それなのに貴方は森で追いついた。どういう手品を使ったの?」


代わりに追っ手が俺でなければならない理由を突いてきた。

他の誰かでも使える手段なら、俺である必要は無いからな。

ミカエラは何かしらの方法で転移を疑ってるんだろうし、誘拐犯はまさにその方法で距離を稼いだ。

しかし、残念ながらそんな便利なモンは無い。

ただのマンパワーだ。


「空を飛んで追いかけました」


「空を飛ぶ?貴方飛行系魔術も使えたの?」


俺の発言に突拍子も無いとミカエラが首を捻りながら、何故か飛行魔術について聞いてくる。

俺が体外で魔術を使えないのは知ってると思うんだが。


「いえ、今の俺は体外だと魔素の維持ができないので使えないんですよね」


「そうなの。魔術はわざと使えないフリをしているのだと予想していたけれど、本当に魔術が使えないのね」


説明を終えると合点がいったとミカエラは納得すると、喉を潤す為にお茶で喉を潤す。

何故そんな誤解を受けてるのかは分からないが、不真面目にしていると勘違いされたら勉強がさらに増えかねない。

ここはしっかり解いておかないと。


「そんなことしませんよ。勉強に関して言えばどれもモチベーションに違いはあっても、真面目にはやってますよ」


「…なら、どんな方法で飛行魔術無しの飛行を可能としているの?」


「どうって…こう、魔素で足場を作ってそれを踏み台にしてやる感じです。これなら維持もなにも一瞬あれば充分ですからね」


説明が少しややこしいので、ここは実際に軽くジャンプして、そこから更に飛んでみせる。

要は触れるようにした魔素を蹴って、それを繰り返してるだけだ。

結構難しかったりするが、昔は俺以外も使ってる奴がチラホラ居たからそこまで珍しい技術とは思っていなかった。

だが、ミカエラの黙考しているところを見るにそんな事は無いのかもしれない。

どこかの流派が使ってたんだけどなぁ。


「…そう。それでも、仮に空を飛べるとしてもそれなりに時間がかかるわよ」


「俺なら全力を出せば1時間かからないくらいで着きますよ」


「どんな速度で移動すれば人が飛竜よりも速いのよ」


そりゃ、「飛竜に追い付けないと色々な意味でメシに困るからですよ」とは言えない。

伝令を狩る場合は騎手を生かさないといけないし、食う場合も撃ち落としたりしたらぐちゃぐちゃになる。

だから、空中で飛竜に追い付く必要が当時(俺は)あったりしたんだが、理由を言うには流石に血生臭過ぎる。


「そこは昔の俺の努力の勝利ってやつですよ。飛竜は捨てる所が無いですから」


「飛竜が儲かるのには同意するけれど、普通は地上に居る時に狩るものよ」


「それだと探すのが大変じゃないですか。それに巣を襲うのは後処理が大変ですし、雛が可哀想ですよ」


「常識的な道理を持ち出しているけれど、行動が非常識にもほどがあるわよ。前からその調子なのね」


ミカエラからアホを見る視線を感じる。

おぉ…まさかの墓穴だった。


「こほん。とにかく、あの場でアシュペリア嬢の居場所を把握し、それに追い付くには俺1人である必要がありました。なので、“仕方なく”これが最善だと判断しました」


咳払いをして無理やり本題に戻しつつ、自分の結論を述べ終える。

過程こそ筋書きを正当化するために弄りはしたが、結果だけを言うならこれが事実だ。

仮に俺がこの事を別の人に投げたとしても、どうしても行動に移すのにはラグが生じただろう。

最速最短で事を済ませるのには、これが最適解だと思ったのに違いは無い。

ミカエラもその事は重々承知しているからこそ、こうして説教の前に事情説明を聞いているのだし、巨大組織の行動にタイムラグがあることも考慮している。

しかし、彼女の視線から険が取れる事はない。


「確かに、事件を最善で収めるのには、それ最適だったのは認めましょう。その上でもう一度問うわ。それは本当に貴方の導き出した最善であったのかしら?」


佇まいを正したミカエラは俺を鋭く見据える。

虚偽は勿論許さないし、僅かな違和感も見逃さないっていうのが良く伝わってくる。


「結果的に大きな騒ぎを起こさないでアシュペリア嬢を連れ戻せたんですから、最善だと思いますけど」


「私が言いたいのは貴方自身の話よ。責任を背負う皇子としての立場、なにより力無き子供としての立場として、その選択は本当に正しかったと?」


皇妃としての質問と母親としての質問の両方を問いかけて来る。

俺の行動が皇子としても子供としても浅はかなんて事は百も承知だし、これに対しての弁明はおろか言い訳だって無い。

皇子が迂闊な行動を取った挙句に失敗でもしようものなら、それは国の損失に繋がる。

なにより、子供と言う立場はあらゆる面において出来ることが圧倒的に少ない。

それは、前世からの経験とユリウスの才を持ってる俺も例外じゃない。


「正しい…とは口が裂けても言えませんね。そもそもな話が、俺の幼稚さが招いた事件でもあります」


「えぇ、結果的にはそうね。その事すら理解していなかったら、追加の課題を増やすところよ」


ミカエラは慰めるなんて事はしない。

仮に俺が関わらなくても、どこかのタイミングで誘拐が起きていた可能性が高い。

そうであったとしても、敢えてキツい物言いをする。


「失敗を挽回しようという気持ちが無い訳ではありません。が、1番はしっかりエスコートすると約束したので。それなのに女の子を危ない目に遭わせてそのままにするのは、俺のプライドが許しません」


自分のミスの煽りをくらうのがガキだなんて冗談じゃ無い。

別に良心が痛むとかじゃない。

仮に道端に飢えたガキが倒れてようが、俺は間違い無く素通りするし、殺し合いの場なら躊躇無く殺す。

そんな俺でも分別って言うモノはあるし、守るべき信念みたいなモノがある。

ただ、それだけのこと。

これが俺の偽らざる本音なのだが、何故かミカエラはポカンと口を開いたまま固まった。


「どうかしましたか?」


「…!いえ、随分とらしくない言葉を聞いたから驚いて。そんな詩的なことも言えたのね」


「流石に酷く無いですか?俺だって格好をつける時くらいありますよ」


「ごめんなさい。建前があまりにも白々しい事を言うものだから、思わず言ってしまったわ」


「謝罪する気ないですよね?もっと酷い事言ってますよ」


脚色は入ってるが概要は本心で言ったのに、真顔で何てこと言うんだこの母親は?

俺が普通の子供だったら泣いちゃってるぜ。

「謝罪の気持ちはあるわよ」とは言うが、スッと目を細めたのを見逃してないぞ。


「貴方の言い分は理解しました」


何とも言えない場の空気をミカエラが仕切り直す。


「上の立場の者として。そして、1人の男性として約束を履行するため、最善を尽くすにはユリウス自身が動くしかなかった。これに相違無いかしら?」


「ありません」


「そう。心構えの話をするのなら、よく考えた上で恥ずべき事の無い立派な行動でしょう。皇族と言えども、ヴァレスディア家は勇猛さが尊ばれ、有事の際は危険に身を晒すことも少なく無い」


俺の短い肯定に、ミカエラはヴァレスディア皇族としての在り方を説く。

それに当てはめれば今回の行動は褒められるべき行動である…と思うかもしれないが、リアリストのコイツがそれで終わらす訳もない。


「ただし、それは相応しい能力を持っていればの話。失敗を恐れぬのは美徳でも、失敗を考慮しないのは論外よ。貴方は失敗した場合の事は考えていたのかしら?」


「それは勿論考えていましたよ」


「聞かせなさい」


質問に間髪入れずに答える俺に、ミカエラは先を促す。

ありとあらゆる事を想定しなければならないと常日頃から口煩く言っているからには、失敗した時の想定も聞いておきたいのだろう。

俺の危機管理能力を測るつもりで。


「当たり前ですけど、アシュペリア嬢の救出失敗の可能性はありました。この時に1番マズイのは俺の身分がバレた上で捕まる、もしくは殺される事です」


なにせ皇子の身分で国家主導で犯罪を犯しているヤツらの前にノコノコ姿を見せに行ってるんだから、どう転ぼうが外交問題で戦争待った無しだ。

ヴァレス帝国は大国だが、仲がめちゃくちゃ悪い仮想敵国である国の国境と、邪獣と呼ばれる気持ち悪い存在が生息する土地の2つに戦線を抱えてる。

そんな中で新年会に呼ばれるくらいには表向き友好的な国と戦争をするのは難しいのは俺にでも分かる(ようになった)。

だから、この2つは絶対に避けるべきことなんだが。


「けど、どっちもあり得ないと判断しました」


「ありえないなんて、らしくも無く随分と自信があるのね」


「はい。俺って目と感覚が凄く良くて、相手の強さとかギフトの希少性とかが大まかに分かるんですよ。基本、殆ど外しません」


子供が自信満々に何を言ってるんだと言われそうだが、ミカエラに関して言えば身をもって体験した後だ。

ここで余計な茶々が入る事は無い。

実はギフトの判別は殆ど経験則から来る勘だけでしてるから、希少性じゃなくて危険性って言うのが正しい。

希少性=危険性は大体同じだからあながち間違いでも無いが、これを言うと面倒だから伏せるけどな。


「飛び抜けて強いのが2人いましたが、カゲツとアリスと同じくらいでした。これなら充分対応可能です。俺の気配遮断なら森では隠れ放題。なんなら空も飛べますし、逃げるのならもっと簡単にできました」


「指摘したい点は沢山あるけれど、それができる事をすでに証明済なのが小賢しいわね」


普段の悪戯の賜物でそれができる事を示してるんだから、ミカエラ的には余計に業腹なんだろう。

しかし、俺も今も説教中なのにさらに説教とはどうなのか?と聞いたいトコ。

揚げ足を取っちゃいけない相手なのは理解してるからしないけど。


「だから1つだけ質問よ」


「何ですか?」


「戦いに絶対は無わ。そこの所はどう考えていたのかしら?」


「そうですね。何が起きても不思議じゃないのが戦いです。でも、逃げる選択肢があるなら即死しない限り大丈夫です。俺の治癒魔術なら四肢欠損くらいなら一瞬でくっ付けられますから、戦線離脱が失敗する可能は大分下げられます。試した事は無いですけど、生やす事もできると思いますよ」


「…それは、もはや治癒魔術じゃなくて回復魔術の域よ。治癒魔術が得意なのは知っていたけれど、当たり前のようにおかしい技量ね」


また新たに出てきた新事実に驚くミカエラは、一息入れるために冷めてきたカップに口をつける。

一般的な治癒魔術は多少の怪我を治すくらいなのが関の山で、俺のように大怪我どころか致命傷の類を治す事は出来ない。

その点を考えれば、アホほど難しいが致命傷だろうが治せる回復魔術だと思うのも無理は無いし、実際俺の治癒魔術を見た奴らにはよく勘違いされる。

治癒魔術と回復魔術は似ているので同種のモノと勘違いされがちだが、実際には全く別系統の魔術だ。

具体的に説明すると治癒魔術が身体が本来持つ治癒力に働きかけるのに対して、回復魔術は肉体そのものを作り出す。

だから、治癒魔術は本来自然治癒を超える効果は見込めないし、回復魔術は死んでさえいなければ理論上どんな傷でも無かった事に出来る。

他の違いは治癒魔術は使う魔素が少なくて難易度が低いから割と誰でも使えて、回復魔術はバカ見たいに魔素を食う上に難易度もアホほど高いから、使い手がビックリするくらい少ない。

俺の治癒魔術が回復魔術じみているのは、練度が高いのに加えて俺の治癒魔術は強化魔術の延長なのが大きい。

おかげてありふれた治癒魔術も回復魔術どころか回復に特化したギフトにすら迫る治癒力を実現してるって訳だ。

話を聞いて頭を痛そうに顔を顰めたミカエラだったが、気を取り直したのか表情を元に戻す。


「詳しく聞きたい事がまた増えたけれど、それは今度にしましょう。ともかく、一応はリスク管理していたのは理解したわ。建前と結果論を過分に含んでいようと。だから、これ以上この件について私から言う事は無いわ」


空気感こそ全く晴れてないが、一先ずの納得は引き出す事ができたって事でいいよな?

いやー、めちゃくちゃ前もって策を練ってきた甲斐があったわ!

どうにか最大の難局を潜り抜けられたとぬか喜びする俺に「ただし…」と続けられる。


「お説教に関しては話が別よ?」


なん…だと?

ミカエラからのお叱りを回避するために慣れない事を全力でしたのに、全て取り越し苦労なんてことあるのかよ…

こうして意気消沈とする俺は数時間に及ぶ説教を受け、さらに後日反省文と報告書の提出を命じられるのだった。

面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。

モチベーションの維持になりますので何卒。

一作品目の『社会不適合者の英雄譚』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。

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