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34話 母親からの呼び出しは足が重い

ぬるっと新章開幕!!

開始早々の説教回にお付き合いください。

普段なんてことはない足が今日に限って重い。

睡眠時間が極端に短くても前世含めて、生まれてこの方病気と呼べるものに罹ったことは一度も無いんだけどな。

体調不良もしかり。

それこそ師匠に猛毒を飲まされた時か、ユリウスの体に生まれ変わった当初の2回くらいしか思い出せない。

そんな健康優良児(自己判断)の俺としても、憂鬱な出来事を前にすれば不調も出てくるんだなと不思議な気分だ。

俺が今歩いてる場所は普段生活してる宮殿じゃない。

国の中心地、皇族が働くべき場所たる皇城に呼び出されていた。


「あー、帰りたいな…」


「ミカエラ様のお呼び出しです。足を運ぶ以外の選択肢はありませぬ」


「だからこうして朝から城にまで出向いてるんだろ。モルゲン、今からでもミカエラお母様に俺は体調不良だから本日は伺えそうに無いって伝えてきてくれ」


無理なのは分かり切っていても、可能性が1でもあるなら諦めきれない。

それくらい行きたくないのだが、モルゲンはいつでも無情だ。


「申し訳ありません。恐れながら皇妃陛下より必ずお連れせよと命令がくだされております。それから、同じ理由での断りはあまり多用しないことをおすすめします。場合によっては相手に悪印象を持たせます故に」


ついでに小言まで添えてくる始末。

前々からずっと思ってたけどコイツ、俺に仕えておきながら味方じゃ無いのなんなの?

そこは殿下のために頑張れよ。


「余計なお世話だわ。そもそも、今具合悪いのは本当だ。怠いし、身体痛いし、眠いし、腹減ったし」


「ご忠言入れたいことが多くありますが、重要なのを1つだけ。後者は触れませんが、前者のお2つはお心当たりをお伺いしても?」


「都合が良いとこだけ触れんなよ。昨日…はずっと寝てたんだったな。一昨日の新年会があったから疲れたんだよ」


「日頃、一昨日よりも疲労が溜まるスケジュールで活動しているように思いますが?」


「肉体的疲労と精神的疲労は違う…おい、待て。やっぱ、俺のスケジュール過密過ぎるよな?まさかお前のせいじゃないよな?」


何となーく俺忙しいなーとは思ってたよ?これでも皇族だし?皇子だし?兄だし?

だから仕方ねぇなって黙々とこなしてきた訳だけど、やっぱり勉強と公務多いのは事実だったのか!?

冷静に考えればそりゃおかしいわな!

自由に使える時間が1時間ちょいしかないんだぞ。

なお、休日は幼児の俺にも適応されるハズなんだが、実質公務(貴族との顔合わせや行事への出席)と育児(クロード、ジルヴァ、アレクなどの面倒)で無い様なもんだ。

そりゃ、深夜の徘徊でもしなければ時間なんて無いし、睡眠時間も削れる訳だ。


「否定するのは難しいですが、少なくとも全てはユリウス殿下を思ってのこと。それに皇妃陛下からの指示もあります故に」


「ありがた迷惑にも程があるわ、狸ジジイ」


「僭越ながら、ユリウス様は暇な時間がお嫌いだと、勝手ながら推察させて頂いておりました。なので、殿下に疲労が出ない範囲で時間を有効に活用しようと愚考した次第にございます」


「本当に愚考が過ぎるだろ。暇な時間が嫌いなのは認めるが、だからって何を血迷って『じゃあ、勉強漬けにしよう』ってなるんだよ。子供なんだから遊ばせてやれよ」


「大変申し訳ありません。殿下は暇さえあれば読書をしていらっしゃったので。てっきり勉学を好んでいるものと…」


んな訳あるか。

誰からも文句を言われずに1番時間を無駄にしないで出来る趣味が読書くらいしかねぇからだよ。

痛まし気に首を振ってんのが煽って見えるぞ、狸ジジイ。


「わざとらしく肩を落とすんじゃねぇ。本当に好きなら定期的に授業をサボってないわ。分かってて言ってんだろ?」


「はて、何のことやら。このモルゲン、殿下に尽くす気持ちに二心は御座いません」


「白々しいな。忠誠じゃなくて二心ってとこが煙に撒こうとしてて余計に。狸じゃなくてクソだな。クソジジイだ」


「殿下、ここではその様な野蛮な言葉はお控えください。誰の耳があるとも限りません」


「よく言う。防音の魔術で聞こえない様にしてるのに、誰を気にする必要があるんだ?」


「ほう?よくお気づきになりましたね」


「そりゃあ気がつくだろ?お前、変なことを聞くな」


モルゲンは感心した様に息を漏らす。

逆に何で気が付かないのかが分からない。

魔術を使った戦闘じゃ魔術を見て看破するのは基礎中のド基礎だ。

それに、そもそも防音系の魔術は大体が中からも外からも音を遮断するのが大半だ。

見抜けなくても音が入ってこない違和感で直ぐに分かるだろうに。


「ところで、私めの先程の質問にお答えして頂いても?」


「お前、本当に最近図々しくなったよな?」


人の慣れと言うやつは本当に怖いもので、生真面目そうに見えた奴でも皮が剥がれればこんなモンだと思い知らされる。

これこそがクソジジイこと、モルゲンの本性なのかも知れない。

ずっと皮を被ったままでいてくれた方が嬉しかったな…

そんなくだらないやり取りをしていたら、あっという間にミカエラの執務室に到着してしまった。


「俺にご用とのことで参りました。お忙しい様でしたら改めて伺いますが、どうしますか?」


「ご苦労様。いつにも無く、殊勝な心遣いね?わざわざ呼び寄せたのだから、改める必要は無いわよ」


「さようですか」


秘技、「お忙しいでしょう?俺にはお構いなく」作戦。

気を使うフリをしてさりげなく逃げ出せる提案!

しかし、起死回生の一手は素気無くあしらわれるだけで終わってしまった…


「少しお話しをするからそこに掛けなさい。今お茶を用意させるわ」


つまり、長話をすると言うことなんですね。

作業に一区切りつけたミカエラと、応接用のソファーに対面する様に座る。

従者が用意したお茶を一口含んでから、ミカエラは話を切り出した。


「昨日は1日体調が優れなかったようね。今日は大丈夫なのかしら?」


「万全では無いですけど、こうして動く分には問題無いくらいには体調が戻りました」


他に聞きたい事があるだろうに、初めにこの話を持って来たのはそれくらい珍しい事が起こったからだろう。

何を隠そう、俺は昨日人生初の過労と言うヤツを体験した。

新年会による精神疲労に魔素の使い過ぎによる魔素疲労、体の動かし過ぎによる身体疲労の三冠達成は流石に厳しかったらしい。

前世基準なら全然問題無かったんだが、今と昔で同じ年齢を比較してもユリウスの身体は非弱なのを完全に忘れていた。

そのせいで昨日は一日中寝込むハメになった訳だ。


「それは良かった。急な病気などでは無くて安心したわ。病は何があるか分からないものね」


「先日のパーティーが思いの外、疲れたみたいで。やっぱり、俺にはああいう場は向いてないですね」


「そうでも無いわよ。貴方もクロードも初めてにしては、よく立ち回れていたわ。それにしても、クロードよりも先に貴方の体力が無くなったのは初めてね。『頑強』のギフトは心労には効果が無いのかしら」


ミカエラからの軽いジャブ。

ただの前置きのための雑談なんだろうが、俺的にはまだ疑ってるのかという気分だ。

いくら探っても高尚なギフトなんて出てこないぜ?


「さぁ?神官の方や祝福学者なら詳しく知っているかも知れないですね。今度聞いてみます」


「そうしなさい。自分のギフトくらいは最低限熟知しておくべきよ。そこで興味が湧いたのなら、祝福学について学んでみるもの良いわ。知っておいて役に立つことも多いし、考察や起源を知るのも面白いわよ」


勤勉で上昇志向なミカエラらしい提案。

俺は考察の論文や起源みたいな歴史なんかはあまり興味が無いんだが、ギフトについてなら本当に読んでみるのもアリかもしれない。

そんな風に心のメモに次に読む本を書き留めておくと、前置きが終わったみたいでミカエラの雰囲気が変わる。

「さて…」と口ずさむと、カチャリとカップの置く音がやけに響く。

姿勢を正しただけなのに空気が変わるのはどういうカラクリなのか不思議だ。

魔素を使ったり威圧を飛ばしてるわけでも無いのに、所作だけで雰囲気を変えられるんだからすげー以外の感想は出てこないな。

俺も背筋伸ばしとこ。


「一昨日の続きよ。何故、単独でグラントン侯爵令嬢の救出へ向かったのかしら?それは貴方がやるべき事では無いのは、承知の上での行動でしょう」


まぁ、皇族として当たり前な話だわな。

結果良ければ全てよしなんかじゃ済まされないのが、国1番の尊き身分として考えなければならないと、ずっと言われてきたんだから当然だ。

実際、俺としても間借りさせてもらってる感覚が強いから、安易な行動をして身体に傷を付けるつもりは無い。

ミカエラからすれば、私情の有無に関わらず聞いておきたいことだろうな。


「それは勿論です。皇族として国益を考えた結果、仕方なくの行動です」


「ふぅん、それで?」


「アシュペリア嬢はワールドないしゴッズのギフト持ちなのでしょう?あれくらい手の込んだ誘拐ですし、それくらいじゃなきゃ割に合いません。しかも、皇族主催のパーティーでそんなことをされれば、威信にも関わりますしね」


本当は俺がおちょくりすぎて外に出たせいで攫われたから、ミスを挽回するためにコッソリ解決しようとしただけなんて、とても言えない。

だから、それっぽい理由を考えてきたってことよ。

我ながら白々しいと言うか、らしく無いと思う後付け理由だし、実際ミカエラの目も白々しいと細められてる。

口を挟んで来ないってことは、一応最後まで聞いてやるつもりはあるってことだな。


「何としてでも阻止しなければならない謀略、ですよね?」


「そうね。仮に今回の件が解決出来ていなければ戦争。反乱も起こっていたかもしれないわね」


「そんな事はヴァレスディア皇家として見過ごせません。グラントン公爵の反応から異常があったと思い、アシュペリア嬢を探したところ、北東の森、ノールドの森にいる事を突き止めました。しかし、その時には…」


国家について全く知識は無いが、それでも一つ断言できることがあるとすればメンツ、威信、権力といった体裁を、国と言うやつは必死に守る。

そりゃ、国をコケにし続けて、結果俺は死ぬ羽目になったんだから骨身に染みてるさ。

皇家主催のパーティーでの他国の暗躍、自国の人材的資源への打撃、帝国権威の次席を担う公爵家から誘拐。

どれか1つだけでも戦争をするには充分な理由だ。

それを阻止するために大義名分を並び立てていると、途中で「待ちなさい」とミカエラからストップがかかる。


「それはどうやって知ったの?ユリウスがその事に気が付いたのは事件発生から半刻は過ぎていたと聞いているわ。その時は誰1人として賊の居場所に検討がつけられていなかったわ」


「どうって言われましても、痕跡を辿ったら潜めそうな場所がノールドの森しかなかったので」


「隠密系ギフトの犯行だと言われているけれど、痕跡なんて何処にあったのかしら?」


ミカエラは何故俺だけが痕跡を見つけられたのかが不思議なんだろう。

隠密系のギフトはショボいものだと姿が見え難くなる程度だが、希少性が上がれば上がるほど隠せる物が増えてく。

俺が知ってる中で1番凄いものだと世界から存在そのものを隠すレベルのモノがあるくらいだ。

そのレベルだと今の俺じゃ完全にお手上げだったんだが、幸い姿と音を隠せるくらいだった。

くらいって言っても、この時点で充分厄介だし、普通に探してたら痕跡なんて見つからないのが当たり前。

しかし、前職柄追跡が大得意な俺からすれば“くらい”に収まる。


「足跡と臭い、あと誘拐犯の魔素がバッチリ残ってましたから。それを辿れば居場所の特定は結構楽でしたね」


「簡単そうに言うわね。どれも追跡に秀でた者達ですら見つけられなかったものよ」


「五感が人よりも鋭いので昔から追跡は得意なんですよ」


「得意や五感が鋭いだけでは片付けられないわ。各分野のギフト持ちをそれだけで越えられてたら、女神の祝福の立つ瀬がないわね。人員の見直しも検討するべきかしら」


ミカエラは最後に独り言のように不穏なことを呟く。

俺のせいでどこの誰達かはしらないが、立場がとんでもないピンチなのでは?

一応、フォローは入れてあげるから検討を祈る!


「まぁ、誘拐の実行犯は結構凄腕だったので仕方がないんじゃないですかね。俺より探し物が得意な人は中々居ないと思いますよ」


「下手な身体強化系ギフトよりも優れてるなんて、それこそ最早ギフトね。ユリウス、やはりもう一度『掲示の儀』を受けなさい」


「それは良いですけど、何回やっても変わらないと思いますよ?」


「私からすれば本当に何故それがギフトじゃ無いのかが心底疑問よ」


そりゃ、経験とか技術でどうにかしてるモノだからじゃないかな。

師匠が言っていたことだが、ギフトはあくまでも授かり物なので特殊な例を除いて外付けの才能なのだとか。

だから、後天的にギフトレベルの能力を身につけようとも、それがギフトになる事は無いのが結論だし、実際後天的に授かるなんて話はまず無いのだ。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。

モチベーションの維持になりますので何卒。

一作品目の『社会不適合者の英雄譚』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。

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