第百三話 事後処理
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
初の死因は内臓損傷。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽい女面鷲ハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
初の死因(前世)は病死。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
初の死因は呪術儀式の過程での自死。
◇デルフィナ・フォン・アンスバッハ
西方大陸西部の大国『リルネフ王国』の女王。
白いオオカミの耳と尻尾が生えた白髪金瞳の少女。
愛狼『シャーナ』を毛皮にされた怨みで親族や狂戦士たちを毎日殺戮していた。
アリエラたちが魔王軍だと看破した上で呼び寄せていた。
初の死因はハンマーによる脳挫滅。
◇イースネス
西方大陸を支配する『光の女神』。
日焼けした肌に白髪白瞳の戦乙女の聖女に憑依しており、白狼が引く戦車に乗って毎日太陽として空を東西に駆けている。
あらゆる物事への関心が薄いような態度を取る。
「なッ!? 何を──……!?」
手遅れ気味に見えたとはいえ、まさか分身が自らを創造した本体を殺害するとは思っていなかったレイメイはシャーナの毛皮を抱えたまま、呪符を剥がして結界を解除しようとしていた手を止める。
「キャハハハハ! ゴぼッ……大丈夫だよ〜!」
「アタシの分身はね……全部本体にできるから! ぐェ……あ、でも空気と土地の浄化は女神サマにお願いしま〜す♪」
本体と思われていたデルフィナ(剣)は頭部を破壊されて死亡したが、分身であったデルフィナ(槍)とデルフィナ(鎚)が消える気配は無く、【神の呪毒】の悪足掻きで散布された毒に肉体は侵食されているが、精神的に追い詰められている様子は無い。
【……いいだろう。それより呪毒が効かないのはどういう事だ?】
女神イースネスは掌から結界障壁越しに光を照射して内部の除染を始めながらデルフィナに尋ねる。
「ゔーッ!」
レイメイは突然発生した強い陽光に怯み、咄嗟にシャーナの毛皮を日除けにしながらアリエラたちの元まで退避した。
「あーッ! もっと優しく扱ってよー!」
「ンも〜……あの呪毒はさぁ……罪悪感で強くなるとか言ってたでしょ? だから効かなかったんじゃない?」
呪毒が効かなかった理由についてデルフィナはあっけらかんと推測を述べたが、言葉が足りなかったのかそれを聞いた全員が首を傾げる。
【……? つまりお前は……】
「アタシが今まで殺してきたのは強制されたでもなく挑んできた戦士とシャーナの仇の王族や貴族だけだからね!」
「そんな相手殺したって罪悪感なんか抱きようが無いって! キャハハハハッ!」
デルフィナ(槍)とデルフィナ(鎚)の言に一同は寒気を感じた。
「狂戦士である事とは別方向に狂ってしまっているわね……」
「生まれつきそうだったのか愛狼を殺されたからそうなったのかによって話は違ってきますけどね……」
「ギャヒィ……でも分身を本体にできるのはどうゆうコトなの?」
デルフィナたちに【神の呪毒】の呪毒が効かない理由は分かったが、本体であろうデルフィナ(剣)を殺害しても分身が無事である理由については詳しい説明が無かったため、ピチカは再び首を傾げる。
「ああ……この分身はね、外見や武器を振ったり喋ったりするのに必要な部分以外──血液や内臓まで……自画自賛になるけど精巧に創り込んでるからね! 死んだらアタシの魂の器として使えるんだよ! 今潰したのは15体目だよ!」
「今は槍持ってるアタシが本体ね!」
“本体の死後に分身を本体にできる”事のタネを聞いてみれば更に狂気が深まるデルフィナだったが、イースネスは意に介さず提案をした。
【そうか……それなら結界の端にもう一体分身を創れるか? 発症していないとはいえ、呪毒に感染した身体は処分しておきたい……土壌汚染したくないのでな】
「できるよ!」
「今照らしてる所でいいですか〜?」
デルフィナ×2は頭を潰した元本体と『至高天使【神の呪毒】』の死体を端にまとめ、瞬時に離れた端へ新たな分身を創造する。
「はい、もうこっちが本体でーす!」
新たに出現したデルフィナ(剣)が元気良く手を振ると、残るデルフィナ×2は武器を構え──
「じゃ、いくよ──〈戦ぎ穿ち〉ッ!」
「よーッし! ──〈万雷砕き〉ッ!」
互いの頭を刺し穿ち・叩き砕いて破壊してしまった。
【よし……浄化できた。……出て来た良いぞ。
【神の言葉】【神の霊薬】……念の為掃除しておけ】
イースネスが光を照射しながら無造作にもう片方の手で結界障壁を破ると、『至高天使』を呼び寄せ、デルフィナ(剣)を手招きする。
「「ハッ!!」」
呼ばれた二柱の『至高天使』は魔力を高めながら結界が張られていた場所へすれ違うデルフィナとレイメイを睨みながら向かった。
「いや〜逃げ回られるとヤバそうな相手だったから結界張ってくれて助かったよ〜。まあでも相手は相手で自分が有利だと思ってたから結界に入ったんだろうしお互い様だよね!」
「まさか神業の呪毒が効かないとは思わないでしょうからね……」
デルフィナはシャーナの毛皮をレイメイから受け取り頭に被りながらアリエラたちの座る黄金石棺の方へ向かう。
「お、おつかれ〜……」
「ご苦労様。『至高天使』相手にこの程度の被害で済むとはね……」
ピチカは恐れ気味に、アリエラは感心した様子でデルフィナを迎えた。
「ね〜! 油断してくれてて良かったー!
でもアリエラさんだって【神の雷霆】に勝ったんでしょ? あの『最後の女王ネフェラリエラ』って本当なの?」
デルフィナは身体が新しくなったため、戦闘の負傷や呪毒の後遺症を引き摺る事無く結界を出る事ができたが、アリエラの素性について戦闘中もずっと気になっていたのか小走りで駆け寄る。
「ええまあ……殆ど相討ちだったけれどね」
「へぇ! じゃあリルネフ王国にとっては大恩人だね!」
「……? と言うと?」
「リルネフは【神の雷霆】が死んで後ろ盾が居なくなった北西部の国を吸収して大きくなった国だからね! アリエラさんのおかげで間接的にすごい助かってたってワケ!」
デルフィナとアリエラが会話をしていると、いまだに石棺に座っていた【神の命令】が当然のように参加してくる。
「あの戦いから早二千年……そして此度の【神の呪毒】殿と女王デルフィナの戦いも短期決戦ながら御見事……天晴でござるッ!」
銀の両眼を見開き、無意味な手印を組みながら褒めてくる【神の命令】への対応に困った一同に変な空気が流れた。
「それはどうも……アナタたちも女神を手伝った方がよろしいのではなくて?」
アリエラはおざなりに礼を言うと、主である女神が動いているにも関わらず、座るか棒立ちをしている【神の命令】と【神の煌輝】にやんわりと立ち去るよう促す。
「それもそうでござるな…… 【神の煌輝】! 行くぞ!
…… 【神の煌輝】? 如何した?」
アリエラが促した通りに立ち去ろうとした【神の命令】だったが、声をかけた同僚である【神の煌輝】からの返答が無く、不審に思い振り返った。
すると、魔人化した巨人牛である【神の煌輝】の頭上には黄金の光輪が展開され、身体は金属質な光沢を帯びていく。
「オ、オデ……皆ノ仇討ツッ!!」
【神の煌輝】は全身を金属と生物の中間の物質に変化させ、両手に大斧を生成して振りかぶった。
【──止せ【神の煌輝】。アリエラはお前の全身に罅を入れたネフェルと同等以上の実力が有るぞ。戦いになるか?】
「ウゥッ……! オ、オデ……!」
浄化を中断した女神イースネス直々に止められた【神の煌輝】は鳩尾の火傷と全身の罅割れた傷跡が疼き、ネフェルにたった一撃で戦闘不能寸前まで追い詰められた事を鮮明に思い出し、斧頭を地面に突いた。
【……そちらはどうする? 戦りたいならば──……そうだ、残る『至高天使』とそちらの四名同士で戦るのはどうだ?】
「「「「…………」」」」
女神の提案を聞いた四柱の『至高天使』たちは各々武器を魔力で生成して構えるが、アリエラは呆れたように両手を広げて戦意が無い事を示す。
「結構よ。仲間を思っての事でしょうし……一方的に殺すのは寝覚めが悪いわ。このあたりでお開きにしましょ?」
「あーしも賛成!」
「アタシは戦ってもいいけど……いや、魔力キツいしやっぱり無しで!」
「(できれば【神の煌輝】もスーシャン姐さまへの手土産に欲しかったが……)
そうですね……やめておきましょう」
他三名も戦闘を拒否すると、女神イースネスは興味を失ったように視線を外し、【神の呪毒】の死体に向かって歩き出した。
【……そうか。そちらは終わったか?】
「はッ! 浄化完了致しました女神よッ!」
「摘出と毒抜きも滞りなく……」
作業を続けていた【神の言葉】は敬礼で女神を迎え、【神の霊薬】はドス黒い肉塊を女神に献上する。
【ん。……女王デルフィナよ。お前のモノだ。好きにしろ】
女神イースネスは黒い肉塊──【神の呪毒】の心臓をデルフィナに投げ渡した。
「……キャハハ! やったー! それじゃあレイメイちゃんにあげるね!」
「おぉ……! ありがとうございます」
「これでレイメイも神業持ちね」
「『パリピ☆愚連隊』最強! 『パリピ☆愚連隊』最強!」
“光と戦を司る女神”にしてはアッサリと引き下がったイースネスに安堵したピチカは敢えて強めにハシャぐ。
【そうだそれで良い。夜は勝者側の宴のために有る。盛大に祝え。
今日はいつもより長く聖女を酷使してしまったな。ゆっくり休ませておいてやってくれ。ではまた明日──……】
デルフィナと自らが器としている聖女に労いの言葉をかけると、イースネスの僅かに放っていた光は消え、器はただの戦乙女に戻った。
「んぁ……あ〜……今日はなんだか少し長くありませんでした? 何か問題でもありました?」
女神との記憶は共有していないのか、聖女のワルキューレは寝ぼけ眼に周囲を見回す。
「聖女殿ッ! お疲れ様ですッ! 先程【神の呪毒】が討たれましたッ!」
「えッ!? 【神の如き者】に続いてまたですか!?」
「斃したのはあちらの女王デルフィナでございます」
「女王が!? なぜいきなりそんな──」
聖女がデルフィナに顔を向けると、デルフィナは明るく手を振った。
「アタシが殺やりましたー! あとアタシ信徒辞めたんで! キャハハハハッ!」
悪びれる様子も無く棄教宣言をするデルフィナの笑い声が聖女の頭を揺さぶる。
「え、えぇ……? 一体何が……う〜ん……」
「聖女殿ッ!? ええい要らん心労をかけおって……! 【神の霊薬】! 介抱を!」
「任されたッ」
「「……!」」
押し寄せる訃報や凶報に卒倒した聖女に『至高天使』たちが一斉に駆け寄り、デルフィナを睨み付ける。
「キャハハ! まるで悪者──いや、聖女サマ煽ったのはやり過ぎたかな……? 後で謝っといて!
んじゃ今度こそ解散ね! アタシらは明日から外遊に出かけるから早く寝よう!」
デルフィナは聖女に対してだけは少しだけ申し訳無さそうな態度を見せ、両手でアリエラとレイメイと肩を組み、逃げようとしたピチカの首根っこを優しく掴んだ。
「ギャヒィ〜!」
「……ワタクシたちも?」
「いやちょっとそれは──……」
強引に決まった外遊への同行にアリエラとレイメイは異を唱えようとしたが、デルフィナの小声の耳打ちに遮られる。
「もちろん外交部分はアタシの責任でやるって……それにさっきも言ったけど、南部と東部の後ろ盾やってた『至高天使』がオチて混乱してる今が切り取り時なんだよ。だから……ねッ?
それに……敗けた方が悪いとはいえ、『至高天使』の神業奪っちゃったから一ヶ所に留まるのは居心地悪いでしょ? 親睦を深めるって意味も込めて一緒に行こッ?」
デルフィナの口調は柔らかいが、肩を組む両手にはジワジワと力が込められて行き、逃がす気は無いという意志を感じさせる。
「強引ね全く……」
「神業を貰った手前、断り辛いですね……どうしましょうリーダー」
「こんな時だけリーダー扱いするんだから〜……でも女王サマの言う事もその通りだし……一緒に行こっか☆」
「やったー!! でも“女王サマ”とかじゃなくてもっと砕けた感じで呼んでいいよ!」
「ホント!? じゃあ『デルぽよ』って呼ぶね☆」
((((“デルぽよ”!?))))
砕けた呼び方を提案したデルフィナ自身も出所の分からない“ぽよ”に困惑するのだった。
◇ 戦乙女
『光の女神イースネス』が完全適合する器を見つけるために創りだされた種族。
人間基準で十代半ば〜二十歳前後の容姿で、頭・背中・腰から翼が生えた女性のみの種族であり、不老である。
皆一様に武芸に秀でていたが、大昔に冥府より顕現した魔王たちとの戦いでその殆どが死亡している。




