第百四話 海賊狩り
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
夏が始まると魔力が活性化する。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽい女面鷲ハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
夏が始まると海に行きたくなる。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
チートスキル【神の呪毒】を取得した。
夏が始まると少し氣が弱まる。
◇デルフィナ・フォン・アンスバッハ
西方大陸西部の大国『リルネフ王国』の女王。
白いオオカミの耳と尻尾が生えた白髪金瞳の少女。
愛狼『シャーナ』を毛皮にされた怨みで親族や狂戦士たちを毎日殺戮していた。
表向きはアリエラたちの雇い主として行動を共にしている。
夏が始まると海賊狩りを始める。
◇
「よォし……野郎共、行くぞォ!!」
「「「おォおオオォッ!!!」」」
西方大陸南部の大海原──……。
陸には山賊行為で身を立てる狂戦士が跋扈するならば、海には当然の如く海賊──略奪者が跋扈している。
帆と櫂を併用した長い舟三隻は気候に恵まれなくとも最低限の機動力を担保されるが、良い風に恵まれた本日は獲物と見定めた白い船に急接近。
木の板ではなく大王烏賊の甲骨を加工したものを組み合わせた美しい貝殻のような船体、巨大な飛竜の翼膜を利用した帆、船首と竜骨は本物の真竜の骨が使用されている立派な船。
船の格は相手が上だが、三隻という数の有利が略奪者たちの気を大きくさせた。
──させてしまった。
冷静であれば白い船の櫂の漕ぎ手が全員同じ容姿である事の奇妙さに気付けた事だろう。
──────────
「キャハハハハッ! 良い度胸だね〜アタシたち相手に海賊なんて! どうする? 復活に賭けて戦って死ぬか……それとも大人しく降伏する?」
略奪者たちを瞬く間に殺戮したデルフィナは、腰を抜かした事で生き延びた者たちへ降伏勧告をする。
「こ、降伏するッ……! もももッ……もう足を洗うから勘弁してくれぇ……!」
この男は略奪者たちの中では下から数えた方が早い下っ端であったが、頭領や各船長・斬り込み隊長などはその蛮勇が祟って真っ先にデルフィナに斃されてしまったため、仕方なく震える声で答えた。
「キャハハッ! そんなん期待してないって! 気が変わる前に生き残り集めて陸に逃げなよ! あ、食糧はアタシたちが貰ってくね!」
大勢のデルフィナたちは三隻の船から保存食や酒・調味料などが入った樽を奪うと、元いた白い船に帰って行く。
「やたら荷物が少ないと思ったら……なるほど、こうやって調達するアテがあったワケですね」
「あー……そっか、飛んで来てくれたからみんなこの辺の海通って来てないんだよね! ここらの海域は艦隊でも組まなきゃほぼ確実に海賊が出るからね! 奪り放題だよ!」
「一応、護衛の名目で同行しているのだから外交に関係無い荒事はワタクシたちに任せて欲しいのだけれどね」
「キャハハ! ゴメンゴメン」
「アリエラさんに任せたら全部粉々になるじゃないですか」
「あのくらいの海賊なら冒険者やる前から退治してたからあーしに任せてよ☆」
「珍しいわね。ピチカが荒事に乗り気だなんて」
「あーし勝てる相手には強いよ☆」
「威張る事じゃないですよ……」
「キャハハハハ!」
「フフ……そういう事ならお手並み拝見と行きましょうか」
デルフィナには船旅の間、操船に専念して貰う事となった。
◇
(えッげつねェ戦い方すンなァ……)
それからしばらく、乗る白い船が通る海域の底──……。
案の定、別の海賊に襲撃された一行。
林立する珊瑚の中からそれを見上げる壮年のサメ魚人の男の姿があった。
そのサメ魚人の男は海中で活動するために衣服は最低限の腰布程度だが、手足には戦利品である金銀財宝を過剰に身に付けている。
“戦利品”とは言っても男のそれは海上で行われているような海賊行為によって得た財ではなく、海賊行為や海難事故によって沈んだ船や荷物の引き揚げ作業によって得た物である。
(ワザと殺さねェようにやってンのかァ? 泳ぐの上手ェな、あの鳥人……ン? 鳥人かァ?)
自在に海中を泳ぎ回っては海上に飛び出し、敢えて殺さずに身体の一部を咬みちぎっては海に吐き捨てている翼を持つ鳥人と思しき影に違和感を覚えた。
鳥人ならば背中から生えているハズの翼は肩から生え両腕と一体化しているように見え、時折魔術か何かで瞬間装備する蒼玉の大曲剣をわざわざ鳥脚で握って海賊たちが乗る舟の底を斬って浸水させている。
(女面鷲……かァ? なんで西方大陸付近にいるンダ?
もしかするト──いや、まさかナ…………一応追ってみるかァ……?)
何か思う所があったサメ魚人の男は海賊が落とした金目の物を拾って浮きと運搬用の縄が付いた宝箱を引っ張って白い船を尾行し始めた。
◇
それから数日、レイメイが海賊たちに神業【神の呪毒】を試したところ血反吐や内臓を吐き出す大惨事となったため、それ以降はアリエラが〈暴嵐帝〉で巻き起こした嵐で襲い来る海賊を次々と転覆させて航行を続けた。
そんな一行の視界に今度は立派な帆船を先頭にした三隻の艦隊が姿を現し、砲撃を開始する。
「おっ! ありゃ私掠船だね。リルネフ王国傘下のヤツじゃなさそうだし、今までの漁師や戦士崩れの小遣い稼ぎより手ごたえ有るよ〜!」
「あ〜……シリャクセン……ね。ハイハイ」
「……国家からの許可を得て敵国や海賊に対する略奪行為を認められた船の事ですよ」
「王下七◯海みたいなコト?」
「よくわかりませんが多分そうです。
護衛依頼の最中ですし組合所属の冒険者としては交戦しても問題無いハズです」
「よ〜ッし……アタシも──」
今までよりも規模の大きな敵にデルフィナは剣を抜いて臨戦体勢に入るが、牙が生えたツチブタ獣人の黄金髑髏を被ったアリエラが手に持った新月刀で制する。
「『パリピ☆愚連隊』だけで充分よ。船を守っていて頂戴」
「一人一隻ですね」
「ギャヒィ〜……早く終わったら手伝ってね?」
ピチカだけは渋々といった様子で身体に密着した紺色の水着に着替えて海中から攻め込み、他二人は跳躍して船を大きく揺らしながら私掠船の艦隊に直接乗り込んで戦闘を始めた。
「ちぇ〜……じゃあアタシは海中から尾けて来てるヤツと遊ぼうかな〜? 出て来〜い! 戦ぎ穿っちゃうぞ〜?」
置いて行かれたデルフィナは暇そうに海面を覗き、万能黄銅の片手剣を短槍に変形させて魔力を込めて脅しをかける。
(ゲッ……バレてやがル! 敵意は有りませんヨ〜……)
サメ魚人の男は白い船から離れて興味の対象であるピチカが向かった私掠船の下に泳いだ。
「ありゃ……逃げた──……うひゃー! アリエラさん派手にやってるな〜」
逃げた気配にすぐさま興味を失ったデルフィナはアリエラが乗り込んだ旗艦の私掠船が大爆発する様子を楽しそうに眺め始める。
レイメイが乗り込んだ船は対象的に不気味な程に静まり返り、迎撃の怒声や他の船を援護しようとする動きも一切見られず、風や波に揺られるがままとなっている。
一方、ピチカは船底や舵を大曲剣で斬り裂いて航行不能状態に陥らせていた。
(よーし、後は沈めば──……ゲッ……! そりゃ魚人の船員くらいいるかぁ……)
船が沈めば半ば戦闘不能にできるかと目論んでいたピチカであったが、船の異変に気付いた複数の魚人が怒りの形相で海へ飛び込み、武器を持って包囲し襲いかかって来る。
ピチカは魚人の混相であり一級冒険者でもあるとはいえ、相手は純粋な魚人である上に私掠船の乗組員になれる程度には実力もあるため、包囲されれば優位に立ち回るというワケにもいかず、徐々に攻撃が掠り始めた。
(アァ!? アイツら大勢で卑怯ナ!)
それを海底から見ていたサメ魚人の男は傍観して居られず、弾丸のような速度で泳いで私掠船員の一人に拳を叩き込む。
「ごボォッ……!?」
ザラついた鮫肌の拳で突然殴られた私掠船員は体表を削られながら船底にめり込んだ。
(だれ!? まあ味方っぽいしいいか! くらえッ!)
一瞬戸惑ったピチカであったが、即座に切り替えて大曲剣を振って斬り付ける。
「ジャアァアア゛ア゛ア゛ッ!!」
血の匂いで興奮した様子のサメ魚人の男が反撃も顧みずに大いに奮闘した事も手伝い、私掠船艦隊は半ば沈没しかけた一隻の甲板に残った者たちを除いて全滅したのであった。
◇
「な〜んだ小国の私掠船だったかぁ〜……まあ、いっか! アタシの船に手ェ出した事は問題にするから飼い主に“リルネフ王国の属州になるか、滅ぶか選べ“って伝えてね! 後で書状も渡すから!」
私掠船に乗り込んだデルフィナは生き残りの船員たちを連座させ、片手剣を弄びながら用件だけ伝えると興味を失ったように踵を返し自分の白い船に戻る。
「あ、デルぽよ話終わったの〜?」
ピチカはアリエラから治癒魔術を受けながら翼腕を振ってデルフィナを迎えた。
「うん! 生き残りの船員が結構居たからね! アリエラさんとレイメイちゃんは殺し過ぎだよ〜……交渉できなくなっちゃうじゃん」
炎と鮮血で紅く染まる二隻の私掠船に一瞬視線を遣ったデルフィナは呆れたように二人を見る。
「問答無用で襲って来たからつい……」
「面目無いです……」
「も〜……──で、そっちのおじさんは何者? ずっと尾けてたよね? 敵意が無いのは分かるけど……」
小声もそこそこにデルフィナはピチカと並んで治療を受けているサメ魚人の男に話しかけた。
「あ、俺は『クレイス』ッて者ダ。引き揚げで飯を食ってるもンだから立派な船を見かけたら付いて行っちまうクセがあってナ。そンで見てたら危なそうだったンでつい……気を悪くしたらすまンナ。ギャハハッ!」
サメ魚人の男『クレイス』は語尾が跳ね上がる特徴的な喋り方で捲し立てるように言い訳をする。
嘘は言っていないのだが、無意識にピチカへ向いてしまっている視線や漂う血の匂いでアリエラとレイメイは何かを察した。
「いやぁクレイスさんのおかげで大ケガせずに済んだしマジ感謝ってカンジ☆ ありがとね!」
「そ、そうかァ? なら張り切った甲斐があるっモンだな! ギャハハハハッ!」
「よし……ピチカは治療完了よ。デルフィナと戦利品の整理をしておいて頂戴」
「オッケー! 回復サンキュー! デルぽよ樽開けてー☆」
「よし来た! 大漁大漁〜♪」
ピチカはアリエラの指示に素直に従い、デルフィナと樽を開封し始める。
するとアリエラは治療を続けつつ、ピチカには聞こえないように小声でクレイスに話しかけ始めた。
「……あの年頃のハーピィに何か心当たりでも有って?」
「う……バレてたカ……じゃあ、あの子は俺の──いやそうとも限らないかァ?」
「いえ、今二人の血を嗅ぎ比べましたが、かなり近い血縁ですよ。
……ちなみにネコ獣人の娘さんとかいませんか?」
レイメイは以前顔合わせをした際にピチカと似ていると思っていたソーニャの事を話題に出す。
「……! ソーニャとも知り合いなのカ!?」
「あー……似てると思ってたんですよね」
「これはもうほぼ確定ね……それでアナタはどうしたいのかしら?」
治療を終えたアリエラは視線を患部からクレイスの瞳に移した。
「“どうしたい”かァ……あの子は父親についてナンか言ってたかイ?」
「サメ魚人である事以外は特に何も言ってませんでしたが……」
「そっかァ……じゃあ『アマリア』──あの子の母親は元気にしてるカ?」
「……あの子が幼い頃に亡くなったと聴いているわ」
「ッ……そうかァ……。ソーニャとは仲良いのカ?」
「ええ。すぐに意気投合していたわ」
アリエラは南西大陸ですぐに打ち解けていたピチカとソーニャの事を思い出す。
「ア〜……じゃあ俺ン事は今度ソーニャから伝えるように頼んどくワ……あの子からしたら十何年も放っとかれて急に父親面されてもウザいだろうしナ」
そう言うとクレイスは名残惜しくなる前に別れるべく、自分の荷物を持って船から降りようとした。
──が、当然それを見たピチカは戦利品漁りを中断して駆け寄る。
「あれ、もう帰っちゃうの〜?」
「ン……ああ、ケガも治して貰ったしナ! 縁があったらまた──あ、そうダ…………コレやるヨ! そンじゃまたナッ!」
クレイスは自分の宝箱を漁って大粒の真珠が付いた髪留めを投げ渡すと海へ潜って姿を消してしまった。
「あ、ありがとー! 行っちゃった……」
「そそっかしいおじさんだったね〜」
「ね〜……。ねぇところでアーちゃん、メイメイ」
ピチカはクレイスが立てた波の残滓が収まると、アリエラとレイメイに視線を向ける。
「なあに?」
「なんですか?」
「クレイスさんってあーしのパパだったりする?」
問いかける形ではあるが、ピチカの声には確信めいたものが感じられた。
「──! 聞こえてましたか?」
「いや? でもサメ魚人だしなんとなくそうかなって」
「え……行かせてよかったの?」
「話がしたいなら連れ戻しましょうか?」
「あ、大丈夫大丈夫! ハーピィってそもそもパパは育児に参加させないスタイルだから“へぇ〜あのヒトがパパなんだ〜”ってのと“髪飾りもらえてラッキー☆”くらいの感想しか出ないよ」
「結構ドライなんだね〜」
「ならあまり気を遣わずにさっさと暴露しておけば良かったですかね」
「まあ、向こうは少し重く捉えているようだしいずれソーニャ伝いに何か接触を図ってくるのではないかしら」
「……? なんでソーにゃん?」
「クレイスさんはソーニャさんの父親でもあります。つまり──」
「ピチカとソーニャは異母姉妹よ」
「マジで!? ソーにゃんと!?」
「アリエラさんセリフ盗らないでください」
「ねぇ〜……魔王軍だけで盛り上がんないでよ〜……ソーニャって誰〜?」
「ゴメンゴメン! ソーにゃんはねぇ──……」
一行は内輪話に拗ねるデルフィナにソーニャの事を話してやりつつ、再び海賊を狩りながら陸地を目指して航路を進むのであった。
◇クレイス
魚率が高めのサメ魚人。38歳。西方大陸出身。
ピチカとソーニャの実父。
ソーニャの母と死別後に中央大陸南部でピチカの母アマリアと恋仲になるが7日ほどでケンカ別れした。
一級冒険者であるが、現在は半ば引退状態でサルベージ作業で稼いでいる。
ソーニャが魔王軍に所属している事は知らず、待遇の良い雇い主がいると聞かされている。




