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第百一話 売国女王

登場人物紹介

◇アリエラ

主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。

『殲滅女帝』の二つ名を持つ。

褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』

得意な大道芸は剣舞と火吹き。


◇ピチカ

蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽい女面鷲ハーピィ。

異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。

一級冒険者。

得意な大道芸は舞と竪琴の演奏。


◇レイメイ

魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。

白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。

魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』

得意な大道芸は軟体芸と蛇使い。


◇デルフィナ・フォン・アンスバッハ

西方大陸西部の大国『リルネフ王国』の女王。

白いオオカミの耳と尻尾が生えた白髪金瞳の少女。

愛狼『シャーナ』を毛皮にされた怨みで親族や狂戦士たちを毎日殺戮していた。

アリエラたちが魔王軍だと看破した上で呼び寄せていた。

得意な大道芸は武器ジャグリング。



「アタシ魔王軍ファンだからさー! 噂聞いてすぐにピンときたよね!」

 後退る三人の様子を見て推測が確信に変わったデルフィナは毛皮を持ったまま距離を詰めて来る。


「い、いやその……」

「……!」

「ここまで確信を持たれたら隠すだけ無駄よレイメイ。

 とりあえず魔王陛下への謁見や上奏に足る人物か見極めましょ?」


 レイメイは動揺を隠せず、ピチカはボロを出さぬよう口を噤むが何か隠そうとしている事は明らかであり、アリエラは誤魔化すのを諦めてデルフィナの話を聞いてみる事にした。


「お! 話聞いてくれるんだ!? じゃあシャーナを復活させてくれる場合に差し出すお礼の話をしよっか!

 まず『リルネフ王国』は『ノク・ノト魔王国』の属国となる事を誓います!!」


「「「──ッ!?」」」

 突然の売国宣言にアリエラたちは二の句を継げなくなった。


「お礼その2! 飛び地で領土が増えると面倒だと思うから魔王国と隣国になるまで領土を増やしてから傘下に入ります!!」


「あ、あのですね──」

 あまりの内容にレイメイが一旦落ち着かせよいとするが、デルフィナは構わずに喋り続ける。


「その3! 女神討滅の際にはアタシが最大限協力を惜しまない事を誓いますッ!! 信徒も辞めます!」

「ちょっと落ち着いて頂──」


「あとアタシも魔王軍に入りたいで〜すッ!! 女王なんか辞めるからさ! 西方大陸は魔王軍の誰が支配するの!?」


 ついに女王の座を投げ出す宣言まで飛び出たデルフィナにアリエラは渋い顔をした。


「……魔王陛下に忠誠を示そうとするのは賢明な判断だと思うけれどね……責任ある立場を軽々しく投げ出すのは陛下の不興を買うかもしれないから止めておきなさい」

(四天王の職務を放棄しておいてどの口が……!?)


「うっぐぅ〜……!」

(聖女を軽々しく辞めたピチカさんにも流れ弾が……!) 


「あ、いやいやもちろん戦士じゃない国民の権利や安全は約束して貰った上でね!?」

 必死になるあまり女王という立場に対して投げやりになり過ぎていたデルフィナは慌てて国民の保障の話を始める。


「それに……領土を増やすと言っても、リルネフで最精鋭の狼派狂戦士(ウールヴへジン)はあのザマでしょう? 戦力が足りないのではなくて?」

 アリエラはいくら強いとはいえデルフィナ一人に蹂躙されていた狂戦士たちに不安を覚えた。


「それは大丈夫! 狂戦士じゃなくたって優秀な戦士はいっぱい居るからね! 国防はバッチリだよ!

 ──それに……『()()()使()()()()()()()()()……今が動き時だよ」

 

 デルフィナの言葉に三人──特にアリエラが強く反応する。


「……! 数日前に太陽が消失した件と関係が?」

「もちろん! 【神の如き者(ミカエル)】様──あ、もう敬称は付けなくていいか。【神の如き者(ミカエル)】が殺られて神業(チートスキル)を取られたんだって! 後、【神の煌輝(ウリエル)】も大怪我したって聞いたよ!」


「やっぱり女神になんかあったんだ!」

「犯人は……ワタクシによく似た獣人?」

「アリエラさ──……(いや、『ネフェラリエラの姉』については冒険者ギルドにも共有済みだから問題は無いか……)」


 レイメイは一瞬止めようとしたが、最早隠すような情報ではなかった事を思い出して口を閉じた。


「らしいよ。【神の言葉(ガブリエル)】が触れ回ってた。

 名前は『ネフェル』だって! 冒険者ギルドの手配リストにも載ってたよ! アリエラさんのお姉さんなんでしょ?」


 デルフィナは『パリピ☆愚連隊』を呼び寄せるために通い詰めていた冒険者ギルドで仕入れた情報を開示する。


「まあ……強さの再現が半端な紛い物よ。『導師ゲダ』とやらの腕前も大した事──……そうだわ。周囲の血溜まりを始末しておかなくちゃ。『ゲダの指』が突然転移して来たら厄介だわ」

「あッ! たしかに! 今アイツら転移し放題じゃん!」

「吸える分は私が吸っておきましょうか」


 『ゲダの指』構成員に2回も転移で逃げられた『パリピ☆愚連隊』は()()()も考慮し、狂戦士たちの血溜まりの処理へ向かおうとした。


 ──が、デルフィナは笑ってそれを止める。


「キャハハハハ! 大丈夫大丈夫! さすがに女神が着陸する場所に『ゲダの指』なんか来ないって! 

 あ、そうだ! 皆で直接女神に会って話聞こっか!? 夕方には来るからさっ!」


 

 ◇



「まぶしい〜ッ!」

「う゛ーッ……!」


 同日、夕暮れ刻──。

 血みどろのイースネス教会の前庭は昏くなるどころか、常人では目を開けていられないほどの眩い光が降り注ぎ、ピチカはサングラスや日除け帽を装備して教会内に避難して頭から白布を被ったレイメイを翼腕で庇っていた。


 一方、陽光に強い耐性を持つアリエラとデルフィナは特に対策も取らずに外で仁王立ちをして女神イースネスを迎える体勢に入っていた。

 信徒を辞めるとはいえ、さすがに血塗れの破れた花嫁衣装では失礼であろうという事でデルフィナは頭にシャーナの毛皮を被り、鞣し革や白い毛皮で各部を守る戦士としての正装に着替えた。


「いや〜ピチカちゃんの神業(チートスキル)便利だね!」

「そうね……アナタ毛皮を装備するのね? シャーナの話からして嫌いなのだと思っていたのだけれど」


「そのつもりが無いシャーナを毛皮にされたから怒っただけで毛皮自体は寧ろ好きだよ!」

「そう……ならワタクシもあまり気を遣わなくて良さそうね」


 デルフィナの話を聴いてから毛皮を身に付けないようにしようと思っていたアリエラは軽く胸を撫で下ろす。


「いいよ、気なんて遣わなくて! アリエラさんは将来的にはアタシの上司になるんだしさ!」

「だから気を遣わないという理由には──(カッ!)……来たわね」



 二人が喋っている間にも太陽は地表に迫り、アリエラが少し鬱陶しそうに手で陽光を遮ると、一際強く翠の閃光が輝いた後に太陽は消失し周囲は夜になった。


「ガふーッ……!?」「はヒュッ……ハッ……」

「ゴぶッ……」「ゴボッ……かハッ……」

 その直後、周囲の血溜まりは死体へ戻り漂い始めていた腐臭も収まり、奇跡【饗宴の鬨】によって復活した狂戦士たちは鼻腔や喉に詰まった血や吐瀉物に咽せて咳き込みながら起き上がる。


「あー……結構復活しちゃったね……ほらほら負け犬共ォ! さっさと復活できなかったヤツらの死体片しといて! 女神サマに失礼でしょー!?」

 デルフィナは復活後も上手く立ち上がれずにいる狂戦士を蹴飛ばして追い払った。


 月と星の光に照らされる丘には二頭の巨大な白狼が引く戦車に乗る日焼けした白髪白瞳の戦乙女『光の女神イースネス』が居り、側にはアリエラが初めて遭遇した時の半数に減った『至高天使』が護衛として控えている。


 デルフィナからの情報通り、女神の右手側に控えていたハズの赫い獅子獣人【神の如き者(ミカエル)】は居なくなっており、魔人化した巨人牛(ミノタウロス)の【神の煌輝(ウリエル)】の鳩尾には拳のような形の火傷があり、そこを中心に全身にヒビ割れたような傷跡が残っていた。


 アリエラとデルフィナに気付いた女神イースネスは戦車に乗ったまま目線を向けて口を開く。



【……! お前は──


「“お前はネフェル……!? 今度は何の用だ!!”

……と女神がお尋ねだ!」


──全然違う。【神の言葉(ガブリエル)】黙っていろ】


「はッ! 失礼致しましたッ!」

 女神の左手側に控え、言葉を代弁しようとした藍色のワシ鳥人の女【神の言葉(ガブリエル)】は頭を下げて口を閉じた。


【改めて……『最後の女王ネフェラリエラ』だな?】

 イースネスは確信を持った声色でアリエラに問いかける。


「「「「……? ……!?」」」」

「【神の雷霆(ラミエル)】を殺ったあの……!?」

 女神の言葉で『至高天使』たちも思い出したようだが、既に死んだと聞いている存在がアンデッド化したワケというでもなく目の前に居る事に驚いているようだ。


「さすがは女神といったところかしらね。二千年経った今でも憶えているだなんて……」

「……!? アリエラさんってそうなの!?」


 事情を知らなければ不可解な情報を耳にしたデルフィナが詰め寄るが、アリエラはそれを手で制してイースネスとの会話を続けた。


「その辺りは後で話すわ……。

 ……姉上モドキが随分ご迷惑をかけたようね?」

 

 やや挑発的とも受け取れるアリエラの言葉に五柱の『至高天使』たちが殺気立つが、イースネスは特に気にした様子も無く応対する。


【気にするな。負けた方が悪い。神業(チートスキル)を得ておきながら誰も彼も弱過ぎる……ふん……】

「「「「「ッ……」」」」」


 イースネスの短い溜息に『至高天使』たちは何か言おうとしたが、結局口を閉じて首を垂れた。


【さて……今日は女王デルフィナの婚礼に祝福を授ける予定だったが──

 

「“参列者が悉く殺戮されているのは何事だ?”

 ……と女神がお尋ねだ! ……ですよね?」


──……ああ、うん……】

 話題が変わるや否や代弁を再開した【神の言葉(ガブリエル)】の問いかけにイースネスは伏目がちに肯定して口を閉じた。


「(女神の方と話したいんだけどな……)

 ちょっと攻撃してみたら皆死んじゃいました! だから婚礼は中止で! あとついでにアタシ棄教を宣しまァす!! お世話になりました!」


 質問に答えついでに勢いよく宣言された棄教には女神イースネスすら一瞬呆気に取られたが、また【神の言葉(ガブリエル)】に代弁される前にデルフィナへの質問を続ける。


【そうか……次の『勇者』に指名しようかと思っていんだが……一応理由を訊いても?】

「信仰に値する恩恵が無いから! そんなんだから年々信徒が減ってるんだよ!」


「「「「「──ッ!!」」」」」

 棄教どころか女神に対する無礼な物言いには『至高天使』たちも黙ってはおらず、瞬時に各々が光輪(ヘイロー)と六翼を生成して構えた。


「あ、怒った! キャハハッ!」

「勘弁して頂戴……ワタクシにそのつもりは──……まあ戦り合うなら『至高天使』の何人かは道連れにさせて頂きますけれど」


 笑うデルフィナとそれを諌めようとするようでいて戦意を完全には隠そうとしないアリエラの背後から白い手が伸び来たり、二人の両肩を掴んで制止する。


「二人とも何やってるんですか!」

「やめときなってマジで!! すいませ〜ん……あーしら戦る気無いんで……マジで!」


 教会から出て来たレイメイとピチカが必死に『至高天使』と争いになる事を食い止めようとすると、イースネスは興味を失ったように視線を逸らして口を開いた。


【ならば……互いに用は無いな。解散】

「し、しかし女神よ!」


「…………」

 戦車から降りようとするイースネスを『至高天使』たちが止めようとする中、レイメイはその中の一柱である【神の呪毒(サマエル)】を凝視している。


「メイメイ……? どったの?」

「アリエラさん……止めた身で頼むのもなんですが……あの【神の呪毒(サマエル)】の心臓を回収できませんか?」

「欲しいのなら自分で決闘を挑んで奪いなさい。呪符は剥がしてあげるから」


 不要な敵意を買いたくないので自然と会話は小声にはなっているが、近くにいるデルフィナにはもちろん聞こえており、女神イースネスや『至高天使』も不穏な気配を感じているのか解散せず様子を窺っている。


「せっかく(バト)らずに済みそうなんだから止めなよメイメイ〜……」

「なになに? レイメイちゃん神業(チートスキル)欲しいの? アタシが奪ってきてあげよっか?」


 すかさずデルフィナが目を爛々と輝かせながら会話に混ざってくる。


「……いいんですか?」

「うん! 良い手土産になるし、アタシの戦闘能力のアピールにもなるし、女神信仰を辞める何よりの証拠にもなる……一石三鳥だよ!

 更に言えば【神の呪毒(サマエル)】が死んだら後ろ盾(ケツモチ)してる国を切り取り易くなるからね! 決めたッ! アタシが()るッ!!」


 返事を待たずしてデルフィナは万能黄銅(オリハルコン)の分厚い片手剣を素振りしながら歩み出す。


「仲間にするなら、話を聴くように躾けなくてはね……」

「協力的なのは有り難いんですけどね……」

「女王サマだからあんなカンジなのかな?」


「ワタクシだって元女王だけれど話はちゃんと聴くでしょう? 性格の問題よ」

「「ん? う〜ん……」」


 レイメイとピチカはアリエラの言葉に首をひねりつつデルフィナを見送った。



「というワケで『至高天使【神の呪毒(サマエル)】』よッ!!

『デルフィナ・フォン・アンスバッハ』の名に於いて──……その心臓、貰い受けるッ!」


 デルフィナは剣の切先を“蛇率が極端に高く全身に赤黒い鱗が生えた蛇人”の至高天使【神の呪毒(サマエル)】へ向け、堂々たる戦線布告をする。


「シュルルルッ…………(ビリビリッ)女神よ。受けて宜しいですか?」

 舌舐めずりする【神の呪毒(サマエル)】は一応女神に問いかけながらも既に巻外衣(ヒマティオン)を鋭い爪で引き裂き、急所を鎖帷子で最低限守り各部に投擲短剣を装備した軽装戦士の出立ちに着替えている。


【無論だ。どちらかが死ぬまで戦れ】

 声色に変化は無いが、少し興が乗ってきたのかイースネスは口角を僅かに吊り上げながら決闘を認めた。


◇勇者

女神から魔王討伐のために特別な恩寵を与えられた英雄の総称。

ある程度の制限はあるが、死亡しても蘇ることができ、女神の支配領域での一部略奪行為の容認などの特権が得られる。

『傲慢の魔王レフィクル』やその配下に挑んだ勇者は皆悉く返り討ちに遭ってしまったため、近年では指名されても断ってしまう者がほとんどである。

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