第百話 狂戦士の楽園?
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
魔物の討伐やダンジョン攻略で指名される事が多い。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽい女面鷲ハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
速達便代わりに指名される事が多い。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
五体満足という条件での魔物捕獲依頼で指名される事が多い。
◇デルフィナ・フォン・アンスバッハ
今回の依頼人。
西方大陸西部の大国『リルネフ王国』の女王。
◇
──西方大陸──
『光の女神イースネス』の支配地である荒れ地の多い大陸である。
『至高天使』や女神が統治あるいは後ろ盾となっている六つの大国と、それらの国々の合間に傘下である小国が乱立し戦争が絶える事は無い。
毎日のように血が大河を成し屍の山が築き上げられているが、イースネスの器である聖女が毎日行う奇跡【饗宴の鬨】によって戦死による人口の減少は最小限に抑えられてはいる。
しかし、度重なる戦に耐えかねて他所の大陸への移住者が年々増加しており、深刻な人口流出が起きている。
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「今回の依頼人の女王サマってさ〜……どんなヒトなのかな?」
「たしか年齢はピチカさんと同じくらいで……オオカミ獣人だったハズです。約一年前、成人と共に親族を斃して即位したとかいう武闘派ですよ」
「あまり穏やかな人物ではなさそうね……」
南西大陸での“奉仕活動”を終え、次なる依頼を受けた冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』は依頼人『デルフィナ・フォン・アンスバッハ』の結婚式当日の朝、西方大陸の更に西部一帯を支配する大国──……
『リルネフ王国』の上空を飛行していた。
「結婚式の警備ってさ〜……“その結婚ちょっと待ったー!“的なのを止めてほしいってコトかな?」
「狼派狂戦士の女王の結婚式でそんな大それた事をしでかす輩がいるんでしょうか……」
「女王の結婚式ですもの。念には念を入れて……という理由だと良いのだけれど──……っと、見えて来たわ。
あれが『狼の口』というヤツね。本当にその様に見えるわね」
目下には細長い半島が西の海へ細長く伸びており、狼派狂戦士の総本山という事もあって『狼の口』と呼ばれるその半島は南北に裂けるように分かれ、連続した鋸歯状の複雑な入江が向かい合っている。
「ギザギザだね〜リアス海岸ってヤツ?」
「異世界だとそう呼ぶんですか? 結婚式場はあの辺の岡に──……血の臭いがしますね」
「……悲鳴や怒号も聞こえるわ。急ぐわよッ!」
◇
近付くほどに血の臭いは濃くなり、怒号は減り悲鳴が増える。
朝の『狼の口』は人喰い狼の様相を呈していた。
木組の柱や梁に土や藁で固めた石壁でできた暖かみのある家々は血と臓物で染まり、海にはかつて戦士だった肉塊たちが浮かんでいた。
奇妙な事に港町の住人たちは怯えたり濃すぎる血や臓物の臭いに気分を悪くしているようではあるが、逃げ惑うような様子は見せていない。
殺害されているのは全員が狼の毛皮を被った者やオオカミ獣人の軽装戦士のようで、背後から突き刺された者・正面から顔面を叩き潰された者・上半身を左右に真っ二つにされた者など多彩な死に様を晒している。
「も、もうやめてくれぇッ!」
「キャハハハハッ!! ほーら勇ましく戦わなくっちゃ復活できなくなっちゃうよォ〜!? 腰抜けッ!」
そんな港町で両手の指を切断され戦意を喪失している戦士に対し、鈍い輝きを放つ黄銅の剣を振るう白いオオカミの耳と尻尾が生えた獣人の少女の笑い声と罵声が響いた。
狼の毛皮を身に付けず、スカートを引き裂いた純白の花嫁衣装は返り血で穢れているが、所々が荒々しく跳ねた白髪の頭には百合の紋章や抽象化された遠吠えする狼の意匠が施された冠を載せている。
少女が『デルフィナ・フォン・アンスバッハ』なのか、それとも結婚式に乱入した狂人なのかは不明だが、戦意を喪失している者にまで攻撃を振るう少女をアリエラとレイメイは素早く止めにかかる。
「止しなさいッ!」
「〈屠絲魘縛〉ッ────!? いい剣ですね」
とりあえず話をしようとするアリエラに対し、初手から武器を破壊しようとしたレイメイだったが、糸を巻き付けられた少女の剣は切断される事無く、レイメイと少女は膠着状態に陥った。
「万能黄銅だからね! そっちこそこの糸って輝鋼銀でしょ!? すごいね!」
少女は目の前の戦士に対する殺意は一向に収めないが、攻撃の邪魔をするレイメイには一切殺意を感じさせない明るい声で話しかける。
「……デルフィナ・フォン・アンスバッハ陛下で間違い有りませんこと?」
アリエラは何故か味方であろう狼派狂戦士たちを殺戮しているという点に目を瞑れば依頼人と一致する要素の多い少女に質問を投げかけた。
「そうだよ! そっちは……もしかして『パリピ☆愚連隊』かな!? 来てくれたんだ!」
短く肯定した少女──もとい、女王デルフィナは金色の瞳を爛々と輝かせ、アリエラたちの特徴を確認すると剣を下ろして敵意が無い事を示す。
「一応……遅刻はしていないハズなのですけれどね」
「……謀反ですか? 狼派狂戦士同士のように見えますが」
「コイツら謀反なんてできるほど勇敢じゃないよ! アタシが結婚式の準備で忙しくしてる隙に国外逃亡しようとしてたからさ! 処刑してたんだ! だから戦意がどうとかは関係無いよ! 刑罰だからね!」
デルフィナは明るいがどこか狂気染みた目付きで戦意を失った相手を攻撃する正当性を主張するためアリエラたちに向き直り、攻撃していた戦士を完全に視界から外した。
「クッ……!」
その瞬間、デルフィナに襲われていた戦士は指の傷を庇いながら逃げ出す──
「それッ!」「おりゃッ!」
「んグぉッ……!」
──が、建物の隙間から出て来たもう二人のデルフィナに短槍で脇腹を突かれ、片手鎚で頭を殴り潰される。
「攻撃の寸前まで気配を感じませんでした……」
「……三つ子ではないですわよね?」
「キャハハハハ! 違う違う! 魔力で作った分身だよ〜」
「あーし上から見てたケド急に出てきてたよ!」
アリエラとレイメイが突然現れた複数のデルフィナに面食らっていると、怖がって上空を飛んでいたピチカが降りて来た。
「やっと降りて来ましたか……」
「ピチカ。そういう生態なのは分かるけれど、いい加減慣れなさい」
「ゴメンゴメン……」
「お〜……現生種の女面鷲って初めて見たよー! 剥製よりもカワイイね!」
「ギャヒィッ!?」
デルフィナの発言に恐怖したピチカは再び飛び上がろうとしたが、レイメイに脚を掴まれ阻止される。
「あまり驚かせないでくれますか。すぐに逃げちゃうんですから……」
「キャハハハハ! ごめんね!」
「……それで依頼の“結婚式の警備”はどうなさるんですの?」
「んギャヒィ……たしかに式どころじゃないよね」
「あー……さっき新郎も殴り殺しちゃったし、婚約破棄って事で式の警備は中止かな! 式自体が無くなったからね!」
「……!? 新郎も国外逃亡をしたんですの?」
デルフィナは警備において自身と同様に最重要人物であろう新郎の殺害についてあっけらかんと言ってのけ、ついでのように今回の依頼の中止を告げた。
「いやァ弱そうだったから殴ってみたら死んじゃった!」
「えぇ……狂戦士の大陸なら普通なんですかね?」
「まあ、自分より弱い相手と番うのは嫌よね……」
「じゃあ依頼はキャンセルかぁ〜」
依頼が中止となり、ピチカは残念なようなホッとしたような気持ちで組合へ向かおうとしたところ、レイメイが周囲を訝しげに見回す。
「ところで……多くないですか? 国外逃亡犯が」
辺りの戦士らしい格好をしている者は老若男女問わず惨殺されており、逃亡犯がいくらなんでも多過ぎるとレイメイは感じた。
「今日は国外逃亡の現行犯で処刑しただけで戦士を皆殺しにするのは成人してから毎日やってるからね! もう皆いちいち気にしないよっ!」
デルフィナはあっさりと恐ろしい事を述べ、武器に付着した血を戦士たちの身につけている服や外套で拭い始める。
「……何故そんな事をしているのか訊いても?」
「何故って……狂戦士の伝統がどうとか強さがなんだってゴチャゴチャうるさいクセに弱いんだもん」
「いくら【饗宴の鬨】で毎日復活するといっても、やり過ぎると復活できなくなって戦力が減りますよ?」
「あ〜……がんばって戦ったら死んでも復活できる奇跡だっけ?」
太陽として毎日飛び回る『光の女神イースネス』の器たる戦乙女の聖女が西方大陸に着陸する際、その日勇敢に戦った戦士が宴に興じるために傷や死を覆す奇跡【饗宴の鬨】であるが、逃げたり降参した者には効果を発揮しなくなってしまうため、レイメイはデルフィナに苦言を呈した。
「いやいや! 復活させないために1年以上かけて心折ってたんだから! ……でも今更だけど、刑死なら一発で復活不能にできるからさっさとテキトーな罪被せて処分しとけば良かったな〜! キャハハッ!」
……が、デルフィナは単なる行き過ぎた訓練や刑罰ではなく、敢えて復活できないようにしているという。
その言葉には明るい声色とは真逆の強い憎悪が感じられた。
「キャハハハハ……はぁ……あ、そうだ! 警備以外にもやって欲しい事があるから式場まで一緒に来てくれるかな?」
「「「…………」」」
笑い疲れて脱力するデルフィナに一行は嫌な予感がしたが、とりあえずは大人しく結婚式場に着いて行く事にしたのだった。
◇
「お腹空いてたらその辺の料理食べていいよ! 捨てたらもったいないからね!」
結婚式場として使用される予定だった小高い岡の小さなイースネス教会や芝生もまた戦士たちの血と臓物で穢れ、何事も無いのは多数ある長机に並べられたご馳走だけである。
「う〜ん……大丈夫で〜す……」
ピチカは血の滴る生肉も平気で食べられるためか吐き気を催すような事は無かったが、さすがに食欲の湧く光景だとは思えずデルフィナの厚意は辞退した。
「……それよりやって欲しい事というのは何ですの? 女王陛下」
「敬語なんか使わなくていいよ〜? デルフィナって呼んで! あ、そこに転がってる下顎が無いのが新郎になる予定だったヤツだよ!」
「ギャヒィッ……エグ〜い……」
年齢も体格もデルフィナの一回りも有る屈強な狼派狂戦士の男の惨殺体を一瞥しながら一行は教会の中へ進む。
内部は血で穢されはおらず、頑丈な石造のアーチ構造の最奥の壁にはめ込まれた『光の女神イースネス』を描いた見事な色絵硝子からは柔らかな光が降り注いでいる。
その光に照らされた主祭壇の上に鎮座する交差した三本槍を象った大きなイースネスの聖印には、立派な白狼の毛皮が掛けられていた。
デルフィナはその毛皮を回収して丁寧に畳むと、アリエラに差し出す。
「やって欲しい事っていうのはね……この子の復活だよ!」
復活魔法の依頼に一瞬面食らったアリエラは差し出された毛皮を受け取ると、軽く毛を撫でて品質を確かめる。
「……立派な毛並みね」
「でしょ!? 名前は『シャーナ』! 女の子だよ!」
「一応訊いておきたいんですが……亡者としてではなく、生物としての復活が望みですか?」
「アンデッドは最終手段かな!」
「……となると、少し厳しいかしらね」
「そうですね……状態が良いとはいえ、毛皮だけとなると……」
「その……イヤだったら答えなくていいんだケド……シャーナちゃんはなんで死んじゃったの? 老衰とかだと復活ムリって聞くケド」
復活魔法に詳しくないピチカは、アリエラとレイメイの反応に段々と表情を暗くして行くデルフィナに恐る恐る毛皮となった白狼シャーナの死因を尋ねた。
するとデルフィナはゆっくりとアリエラからシャーナの毛皮を取り返して抱き締めながら口を開く。
「……シャーナはアタシが5歳の頃に拾って育ててね〜どこに行くのも一緒で血の繋がった兄弟姉妹よりも仲が良い妹だったんだ〜……」
シャーナの毛皮を広げたデルフィナは遠い目をして過去を懐かしんだ。
「へぇ〜」
(血の繋がった兄弟姉妹だからこそ信用ならないのが王族の嫌な所よね……)
「血縁を超えた絆ですか……良いですね」
ピチカは無難な相槌を打ち、アリエラは同じく戦闘民族の王族生まれとして共感し、レイメイは“血の繋がった兄弟姉妹よりも仲が良い”という部分が琴線に触れたのか何やら感じ入っている様子である。
「でしょ!?
……でも1年ちょっと前、アタシが15歳になる誕生日の朝にシャーナが毛皮にされちゃっててさぁ〜……!」
「「「……!」」」
過去の話の急展開と共にデルフィナの言葉には怒気が込められて行く。
「ほら狼派狂戦士ってさ、なんか狼の毛皮被ってるじゃん? シャーナをその毛皮にしたんだってさ……アタシはオオカミ獣人なんだからそんなの被んなくてよくない!?
アイツら頭おかしいよッッッ!!!」
(まあ狂戦士ですし……)
……とレイメイは思ったが、口には出さないようにした。
「……んで、シャーナの毛皮を受け取ったアタシを皆が祝ってきたところまでは憶えてるんだけど──……気が付いたらもう血の海でさ〜……憶えてないけどアタシが先王に勝ったから女王就任ってワケ!」
デルフィナはシャーナの毛皮と社交ダンスでも踊るように戯けながら血生臭い思い出を語り続ける。
「……この大陸で毎日発動する復活の奇跡【饗宴の鬨】は戦いによる傷や死を帳消しにできるハズなのにシャーナは生き返らなかった……多分いつもの調子で撫でて貰えると思ってたシャーナを殺して皮を剥いだんだろーね!
だからアタシもこの国の狂戦士を皆殺しにしてやるんだ! シャーナの仇討ちだよ! あ、子供は殺してないから安心してね!
で、話戻すけど毛皮だけじゃ復活が難しいって言ってもさ──……
魔王陛下ならできるでしょ!? 紹介してよ!」
「「「…… え っ ?」」」
アリエラたちはデルフィナの言葉に後退る。
「異常に強い巨人の『黄金のフィアラル』
全身鎧で中身が不明の剣士『神竜剣のクリーム』
髑髏模様の翅が生えた『付け火のベル』
そして南方系獅子獣人の『爆心地のアリエラ』
……魔王軍四天王なんでしょ? だから今回依頼を出して呼んだんだよ! 他の三人には断られちゃったけど『パリピ☆愚連隊』は来てくれて良かった!!」
「……!」
早々に正体がバレる事は幾度もあったが、そもそもバレた状態が初対面になるのはアリエラにも初の体験であった。
◇ 万能黄銅
希少金属の一種。
加工の容易さ、鋼を上回る強度、安定して高い伝導率を誇る。
至剛金や輝鋼銀と比べると強度は若干劣るが、埋蔵量が多く安価で手に入りやすいため、武具や機械部品など様々な物に活用されている。




