演じるということ
「…ソラの評価を下げなさい。今回みたいに閉じ込めても、何をしてもいいから。分かったわね?」
私はセーズにそう言い放った。
「…は、はい。」
青ざめた顔でセーズは帰っていった。
はあ、ほんと困る。これじゃソラの攻略進まないじゃん。
というか、そもそもなんでソラは記憶喪失になったの?ゲームではそんな設定なかったのに…私としては好都合だけど。
取り敢えずソラの評価を下げて、困っているところを慰めようとしてるけど…
早くレグルス様を攻略したいのに、ソラでこんなに時間がかかるなんて思ってなかった。
まあ、ソラは3年生にならないと好感度が変動しないキャラクターだし、攻略難易度が高めではある。
あんなに大好きだったゲームの世界に来れたんだ…レグルス様と結ばれるために早くソラを攻略しないと。
…ひとつだけ簡単に彼を攻略する方法がある。それは、禁忌魔術を使う方法だ。
この魔法を使えばどんな人間でも好きなように操れる。だが、これは相手にかなりのダメージを与えることになる。しかも、これを使ったことが誰かにバレると必ずバットエンド行きになる。
「でも所詮ゲームの世界なんだし。ちょっとくらい良いよね…」
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え、どういうこと…?
僕を閉じ込めろと指示してたのはお姉様だったのか?でも、セーズくんはルイス先輩だと言っていたよな?
もう訳が分からない。
…取り敢えず早く帰って寝よう。後回しにするべきじゃないとは分かっているけど、今日はテストで疲れ切って頭が回らない。
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次の日、学校に登校すると、職員室の前で大勢の生徒が集まっていた。…どうやらテストの結果が張り出されているようだ。
僕が来たと気が付いた瞬間、みんなが静まり返った。視線は全員僕の方に向いている。
…テストを受けていたときより緊張するかもしれない。
僕は恐る恐る張り出してある紙を見た。
2学年第1位は…
「ソラ・アイリス・ノワール」
僕だ…僕の名前だ。僕が1位を取ったんだ。
自己採点したときから1位は取れるだろうと思っていたけど…いざ目の前にするとぐっとくるものがある。僕は1年間勉強してきた人達に勝てたんだ…
「う、嘘だろ、マジで1位取ってる…」
この前、僕の教室に来た男子生徒たちだ。いつから居たんだろう?全然気が付かなかった…
「ま、まだ俺らは認めないからな」
そう言って彼らはどこかへ行ってしまった。確かに、僕が逆の立場なら信じられないかも…
「ソラ!」
「わあっ!?」
急に背後から誰かに抱きつかれた。
「ソラ、1位おめでとう!」
「え、アイビー!?」
「お前、良くやったな!」
「あ、ありがとう」
そのとき、1人の生徒が拍手をした。2人、3人とその音はどんどん大きくなっていき、やがて嵐のような拍手になった。
「ソラくん、おめでとう!」
たくさんの人が僕を祝ってくれている。正直、学年1位くらいじゃ他人の評価は変わらないと思っていたけど、ここまで影響力があるとは…
「みんな、ありがとう…!」
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僕はアイビーと一緒に教室まで歩いていた。
「…アイビー、本当にごめんなさい」
「え?なにが?」
「僕の噂のせいで居心地悪くさせちゃったから…」
「ああ、なんだそんなことか。俺は全然気にしてないよ」
「…え、アイビー怒ってないの?」
「当たり前だろ、怒ってないよ。もしかして、俺が全く話しかけなかったから怒ってると思った?」
「俺は勉強の邪魔にならないように話しかけなかっただけだよ。テストさえなかったら、直ぐに話しかけてたよ」
「そうだったんだ…ごめん心配かけて。でも、まだ僕は完全に名誉挽回したわけじゃないから迷惑をかけてしまうと思う。だから…」
「もー、迷惑かけるなんて気にすんなよ!俺らの仲だろ?」
「アイビー…」
「俺ら、今までずっと一緒に居ただろ?」
きっとアイビーはソラとすごした思い出があるから、情が湧いているんだろう…
「…うん、そうだね」
僕はこの世界でソラを演じきろう。ソラのことが好きな人のために。
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そういえば、気になっていたことがあったんだよね。
「ねえアイビー、この学園に白髪の子って居る?」
「ああ、居るにはいるけど…珍しいよな」
「名前とかわかる?」
「2年生の人なら分かるけど?」
あの子は生徒会の体験に来てたし、多分1年生だよね。
「1年生にも白髪の子居るよね?」
「ん?ああ、俺この前その子に話しかけられたわ」
「え、うそ!なんて言われたの?」
「ソラ先輩って生徒会所属なんですか?みたいなこと聞かれたと思う。その子の名前はわかんないけど」
「そっか…教えてくれてありがとう」
ソラについて聞いてるということは…ソラと関わりがあったってこと?
実は、あの子だけ僕が暗記した全校生徒の名簿集に名前が書かれていなかったのだ。何故かは分からないけど…
「ソラはその子と知り合いなのか?」
「いや、違うよ。喋ったこともないし、名前も知らないし…まあ僕が記憶ないだけかもしれないけど」
「そうか…」
「でもまあ、アイビーでも分からないなら、もういいかな」
「お前がそうするならいいけど…でもさ、なんか気になるんならお前の記憶を取り戻す鍵になるかも知れないんじゃないの?」
「…確かにそうかもね」
僕はそもそも記憶なんてない別人だけど…でも、なにかの情報を得られる可能性はあるだろう。帰れる手がかりを知るためには色々な情報が必要になるしな。
「大丈夫、お前ならきっと記憶を取り戻せるよ」
「…うん、ありがとう」
…アイビーごめんね。僕はソラじゃないんだ。




