逢いたい理由
「もう大丈夫だからね」
そう言って少年は着ていたコートをボクにかけてくれた。ふわふわしていて、とても暖かい。
その後ボクは少年の家に連れて行ってもらった。
「お父さん、お母さん!この子、道で捨てられてたの。家で飼ってもいい?」
「あら…どうしましょう?」
「…いいんじゃないか?但し、その子のお世話は自分でするんだよ」
「うん、分かった!ありがとう!」
それから、ボクは少年の家で飼われることになった。
ボクらはいつも一緒に遊んだ。最初のうちはまだ人への恐怖心が拭えなかったが、少年と過ごすうちにいつの間にか無くなっていた。
今思えば、ボクは殆どあいつの隣にいた。あいつと居るときは捨てられた悲しさを忘れてしまうくらい、毎日が楽しかった。
ボクが家に来て何年か経ったある日。あいつとボクは喧嘩した。ボクが勝手におやつを食べたから、あいつがすごく怒ったんだ。
そのときのボクは自分は悪くないと思っていて、反省もせずに「ちょっとくらい良いだろ」なんて考えていた。
その日の夜は、この家に来て初めてあいつと別々に寝た。
そして、ボクは久々に夢をみた。
大きな鏡がだけがある空間だった。鏡に触れると、いきなり鏡が光りだして、あまりの眩しさにボクは目を閉じてしまった。
それで…目が覚めたらボクはこの世界に居たんだ。
またあいつに会いたい。あいつに謝って、また一緒に遊びたい。ボクはあいつにずっと助けられてばっかりだった…次は、ボクがあいつを助けたい。
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「あいつに会うために元の世界に戻りたい…その思いで、ボクは諦めずに今まで生きてきたんだ」
「そうだったんだ…シアンはずっと頑張っていたんだね、凄いよ」
「いや、そんなことない。ただ必死に生きてきただけだ」
「それが凄いんだよ。諦めずに必死に頑張ることなんて、みんなが出来ることじゃないから」
「…そうか」
それにしても、シアンも鏡の光でこの世界に来たのか…鏡は元の世界に戻るヒントになるのかもしれない。
「あ、そういえばさ、この世界に来たのはどのくらい前なの?」
「さあ?100年くらい前か?」
「え、100年!?…シアンって今何歳?」
「ボクも覚えてない」
「そ、そうなんだ」
「…まあ、ボクもこんだけ色んな経験してるけど、今までずっと生きてる。だからさ、お前もそんなに気負わなくていいよ。お前は別に悪いことしてないし」
「シアン…ありがとう」
シアンの言葉が胸に染みる。
「…ちなみに、お前は向こうの世界に家族は居るのか?」
「うん、居るよ。1個下の妹が居るんだけど、妹は小さい頃から身体が弱いんだ…」
「そうか…なら早く戻ってやらないといけないな」
「うん…一緒に戻れるように、頑張ろうね!」
「ああ、そうだな」
シアンのおかげで少し前向きになれた気がする。僕が落ち込んでる場合じゃない。早く元の世界に帰らないと…!
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あれから、僕は長時間勉強する日々を過ごした。リーマ先生の補習ももちろん受けている。先生の説明は分かりやすくてとても助かった。
僕は元から頭が良いわけではないので、時間をみつけてはひたすら勉強していた。勉強が好きなわけでもない僕が、何時間も何週間も勉強するのはかなり辛かった。
学園の生徒たちには相変わらず好奇の目で見られているが、シアンの励ましの言葉もあり、思ったより頑張れていた。…もちろん、生徒たちは悪くないんだけどね。興味を持ってしまう気持ちはとても分かるし、そもそも記憶喪失なのは完全には否定できないし…
ちなみに、あれからアイビーとはずっと話していない。もうこれ以上迷惑はかけたくない…ある程度噂が落ち着いたら、直接謝りに行こう。
…もう今の時点でかなりゲームのシナリオから逸れている。僕が知る限りでは、ソラが記憶喪失の設定なんてなかった。
シナリオが変わったことが良いことなのか、悪いことなのかは分からない。
取り敢えず、僕は僕なりに努力することしか出来なかった。
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とうとう5月がやってきた。あっという間に中間テストの日がやってきてしまった。
今日こそ勉強の成果を見せる日だ。頑張ろう。そう思いながら廊下を歩いていると、1人の男子生徒に声をかけられた。
「あ、ソラ。アイビーが呼んでるよ」
ん?彼は確か…
「…そっか、じゃあ放課後屋上に来るようにアイビーに伝えておいてくれない?」
「あーいや、俺今日忙しいんだよね。アイビー、今体育館倉庫に居るらしいから。今から行こうよ」
…なんで体育館倉庫にいるの?
「そうなんだ…ありがとう。じゃあ行ってくるね」
「え、俺もついて行くよ」
「ありがとう、でも大丈夫だよ。1人で行ってくるね」
「いやいや、王子に何かあったらいけないからさ」
「…でも君、今日は忙しいんじゃなかったの?」
「ああ、いや…別に今は大丈夫だからさ」
「へえ、そっか…というかさ、僕と君、初対面だよね?」
「え、な、何言ってるんだよソラ。去年同じクラスだっただろ」
「…でも君、1年生でしょ?」




