見張り塔
翌日、あれだけの死者が出たというのに、次の日ルケントへ向かう冒険者はたくさんいた。
もちろん復讐や義憤のために参加する人間もたくさんいる。しかしそれ以上に、パーティーメンバーの死は実際に起こる現実の一つなのだ。彼らとしても、そんなことで立ち止まるわけにはいかないのだろう。
アイルはイアンの元に挨拶に行き、言った。「今日はよろしくお願いします」
イアンは頷いた。
総勢50名を超えるパーティーがルケントへ出発した。大半の人間が復讐に燃え、殺気に漲っていた。しかし今回は既知りと安全確保をした作戦行動を取ることになった。新市街に湧いている雑魚のゴブリンども一掃すると、橋に冒険者たちがずらりと並んで待機した。不覚さえを取られなければ、別に青月が赤錆といったゴブリンたちがベテラン冒険者たちにとって強力な相手というわけではないのだ。
主力が橋を渡った後、アイルはもう一度旧市街をぐるりと回って取りこぼしがないか確認した。
そしてアイルは、ルケントでは最も高くそびえ立つ教会の尖塔に登った。そして屋根の庇に取り付くと、屋根の上へと這い上がった。その場所からはルケントの様子が一面見渡すことができた。
アイルは塔の上からイアンに合図を送ると、屋根に体を伏せた。そしてしばらくした後、また顔を出し手をあげた。イアンは手を振りOKの合図を送った。これで、アイルが体を出さない限り、下から見つかることはない。
アイルはゴブリンたちの侵入を待った。しかし、話を聞く限りでは、強力なゴブリンは強い冒険者たちがいる環境では前線に出てこないという。昼間のうちは期待薄だろう。
やがて怒れる冒険者たちによって、ルケント旧市街のゴブリンは一掃された。彼らはそのまま新市街の門を出て、ルケントへ帰還した。
やがて夜になった。アイルは屋根から僅かに顔を出し地面を観察していた。彼は何かの気配を感じた。1匹のゴブリンが、新市街の真ん中から突如出現した。
(やはり地下道がある)アイルはそう思った。あれはその1匹のゴブリンを観察していた。ゴブリンは、特に上空に目を向けることもなく、地面に転がる死体をひっくり返したりして観察していた。その時、アイルは目の端に階段を降りてくる別のゴブリンをとらえた。ゴブリンの降りてきた階段の先は、この場所からは影になっていて観察できなかった。
アイルはゴブリンの湧き場所に当たりをつけて、それとは反対側の壁から地面に降りた。
”前”アイルは気配を消し去った。
そして2階建ての建物の屋上に登ると、屋上から屋上へと音もなく飛び移り、ゴブリンたちの頭上に迫った。そこではすでに4匹のゴブリンが、互いに道の言語で話を交わしていた。彼はそれらを無視して、さらに奥へと建物を2つ飛び越えた。
その時、アイルの目に1つの暗渠が目に留まった。その暗渠には汚い水がたまり、汚物の匂いがするので、おそらくゴブリンどもの排泄場だろうと思われていた暗渠だ。
しかし、その暗渠のすぐ脇の道にはゴブリンの足跡があった。アイルは頭を下げ、ほんの少しだけ顔を出しながら暗渠を覗き込んだ。しばらく待つと、暗渠の水面が揺れ動いた。アイルは目を見張った。やがて、その暗渠の中から何かがぽこりと水面に突き出で、やがてすぐにゴブリンの全身が現になった。
(これは偽装だ)アイルは思った。やつらは地下道を便所に偽装してるんだ。
やがてゴブリンがひたひたと水の垂れる音を立てながらその場から去ると、アイルはその場から離れ東の城門からルケントを去った。
「出入り口を見つけただと」ゴールが声を荒げて言った
「ええ、見つけました」アイルは言った。
「他の誰に話した!!!」
「いえ 斥候班の他には誰にも……」
「そいつらはほかの誰かに話したか?」
「わかりません。もうトグマ達には話したかも……」
「よくわかった」ゴールはそう言い、隣に立つ秘書に言った。「義勇兵団並びに冒険者全員に対し、いますぐ招集をかけろ」
1時間後、斥候班とイアンの仲間が事務所に集められた。すでにゴールや団長の他、先生そして翁がギルドの奥の部屋で待っていた。
「皆聞いてくれ。ついにルケントのゴブリンが使う侵入ルートを確認した」ゴールが言った。「明日の朝出発し、ルケントを真の意味で制圧する」
義勇兵たちは、ざわめいた。「そのルートはどこなんだ」
「アイル、話せ」ゴールが言った。
「北の城壁際の、川の手前にある暗渠です。ゴブリンたちが便所につかっている場所の奥です」
「あそこか」義勇兵の誰かが言った。
「別にお前たちを疑ってるわけじゃないが……」ゴールはそこで言葉を一旦切り、続けた「ローラント内部にはアスタロトに絆された裏切り者がいる。だからこの情報が奴らに漏れる前に、叩き潰したい。明日の朝、ルケントに突入しゴブリンども皆殺しにする」ゴールはアイルをみて、言った。
「アイルはご苦労だったな。お前たちはもう休んでいい」
「僕らも参加します」
「いやだめだ。お前たちは仲間を失っているだろう。編成をやり直すまでは攻略に参加することは許さない。
「だが俺たちの仲間が殺されたんだぞ。復讐しないと気がすまねえ」トグマが言った
「いやダメだ。なぜならお前たちは弱い。青月や赤錆と闘って、今度は勝てるという保証はない」
「しかし、囮が必要なのでは?あそこに強い冒険者たちが集まったら赤錆達は出てきません」
「確かにそうだが……」
「今日中に仲間を探していきます。それを見て僕らが参加するか否か決めてください




