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ベヒモスベビー討伐による功績

「急げ!女子供と老人は領主様の館へ逃げるんだ!」


「おいお前!余計な荷物は置いて行くんだ!必要最低限の物だけ持っていけ!他の人が入らなくなるだろう!」


「戦える者は街の入口へ!前衛職はギルドマスターの所に集まれ!後衛職は領主様の所に集まれ!」




「皆の衆よ!落ち着いて逃げるのだ!我々がベヒモスベビーを撃退する故焦らず確実に我が館へ迎え!」


「野郎共!今こそ冒険者たる底力を見せつける時だ!今回の討伐・撃退が成功すれば多額の報酬が支払われる!何としてでも!この街にベヒモスベビーを立ち入らせるな!」


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」



 な、何か凄い事になってる!

 案内された街に入った途端、所狭しと人が一直線に真向かいに見えるお屋敷みたいな場所に移動している。

 それと同時に街の入口では沢山の人が陣を為して待ている。

 怒号に混じって何となくの状況は掴めたけど、この人達が言っているベヒモスベビーってさっき私が倒したあれの事……?



「クローディス!レグナント!待ってくれ!」


「む?おぉ!兄上!ご無事でしたか!兄上の姿が見えないものだから心配していましたが……ご無事で何よりです!」


「トリエンタ!今までどこに行っていたんだ!?今、街の外から来たな!?ベヒモスベビーに遭遇しなかったか!?ついさっき任務を終えて帰ってきた冒険者からベヒモスベビーが現れたと報告があったから討伐隊を編成していた所なんだ!」


「そのベヒモスベビーなんだが……」


「どうかしたのか?まさか!もうすぐそこまで来ているのか!?」


「いや、違う!あ、いや違わないけど大丈夫なんだ!」


「大丈夫とはどういう事だ?」


「その、こちらの女性がベヒモスベビーを倒してくれたんだ。だからもう脅威は無い」


「は?」


「は?」


「「「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」



 あれ、えっと。何かまずい事しちゃったのかな私?



 ☆★☆★☆



「ほ、報告します!トリエンタ様の仰る通り、街より南西にしばらく進んだ場所にベヒモスベビーの死体を確認しました!」


「なんと……!」


「まさか本当にこの可憐な女性があのベヒモスベビーを……!?」


「だからもう大丈夫だ。避難命令を解いて民衆を安心させてやってくれ」


「う、うむ。そうだな。皆の者!此度の脅威はこの可憐なる女戦士の手によって取り除かれた!現時刻を持って避難命令を解く!」



 クローディスと呼ばれていた男がそう宣言すると、慌てふためいていて逃げていた人達の顔が安堵に満ち、街の入口で陣を為していた人達は歓喜の雄叫びをあげ始めた。


 この様子を見ると、私は別にまずい事をした訳じゃ無さそうだね。

 一瞬倒しちゃいけない獣を倒しちゃったのかと思ったけど、そうじゃなくて安心した。



「して。女戦士殿よ。もしよろしければ我が館に一度趣き、此度の礼をさせてもらえないだろうか?」



 折角の好意、無下にするのは申し訳ないよね。

 私もこの世界に来たばかりでまだ分からない事が多いし、この機会に色々と教えてもらえれば私もありがたい。



「はい。こちらこそ是非ともお願いします」


「おぉそれは良かった!なら兄上、申し訳ないが彼女を私達の館へ連れて行ってもらえないでしょうか?これだけの騒ぎがあったのです。未だに混乱している者もいるでしょうから私の足で脅威は去ったと伝えていきたいのです」


「おう!任せとけ!」


「ありがとうございます。後、レグナントにはベヒモスベビーの死体の回収を任せたいのだが大丈夫そうか?」


「えぇ構いませんよ。ベヒモスベビーの死体なんて何年も見とりゃせんのです。うちの職員全員が死体の回収命令はまだかまだかと地団駄を踏んでる所だったので言われなくとも回収するつもりでしたんで」


「そうか。少々苦しい作業になるとは思うがよろしく頼んだぞ」


「了解でさぁ!」



 なんだかあれだけ凄い騒ぎになってたのに、自体が解決したとなると凄い冷静に事後処理を行ってるな。

 元々こういう自体によく遭遇していたのかも知れないね。



「よし。それじゃ俺達の屋敷に案内するから付いて来てくれるか?」


「分かりました」



 ☆★☆★☆



 トリエンタさんに案内されたお屋敷は街に入った時に1番最初に見えたあの大きな建物で、街の人が逃げて行っていた場所だった。

 こうして近くでみるとかなり大きめのお屋敷だね。

 流石にお城とまではいかないけど、それなりの広さと大きさがある立派なものだ。



「ここが応接室になるから少しの間待っていてもらえるか?少し着替えてきたいんだ」


「分かりました」


「悪いな。適当にそこら辺の椅子にでも座っていてくれ」



 そういうとトリエンタさんは部屋から出て行ってしまった。

 ……そう言えばトリエンタさんはあのクローディスさんから兄上と呼ばれていたな。

 そしてクローディスさんが多分この街の領主でこのお屋敷の主。

 ならこのお屋敷はトリエンタさんの家でもあるのかな?


 そんな事を考えているうちにトリエンタさんが着替えを終えて部屋に帰ってきた。



「わざわざ来てもらったのに待たせてしまって申し訳ないな」


「いえ。別に何か急ぎの用事があるわけでも無いので構いません。それよりも……」


「ん?どうかしたか?」


「なんか、だいぶ印象変わりましたね」



 着替える前のトリエンタさんは悪く言えば野盗のような、良く言えばラフな格好で遊びに出かけたおじさんみたいな服装でなんとなく小物臭が漂っていた。

 けど、今のトリエンタさんは白と青を基調にした礼服に身を包み、先程とは打って変わってまるで貴族のような気品溢れる印象を抱く。

 ……服装が違うだけでこんなにも変わるものなんだね。



「あー……俺はあんまりこういう服装は好きじゃ無いんだがよ、屋敷に居る間は身なりをキチンとしとかないとクローディスの奴がうるさいんだ。『お屋敷の中でぐらい身なりを整えて下さい!』ってな」


「……ちょっと思ったのですが、トリエンタさんとクローディスさんは兄弟なのですか?」


「あぁ。三つ歳が離れて、俺が兄でクローディスが弟だ。よく気づいたな」


「お二人の会話からしてそうなのかなって」


「はっは!なるほどな。そう言えば俺もクローディスもまだ名を名乗ってなかったがそれも会話から察したんだな?」


「はい」


「流石、ベヒモスベビーを倒す戦士だ。細かい所までちゃんと見聞きしている」


「いえ、そんな」



 これぐらい当たり前の事なのに、そんな言われ方をすると褒められてるみたいでむず痒いな。



「まぁだが、命と街の恩人に未だに名を名乗って無かったのは礼に反するな。……改めまして、俺はトリエンタ。この街の領主の補佐をしている」


「私はティルファと申します。世界を自由に旅をしている旅人です」



 そう言えば神様のおじいちゃんから私の立ち位置を聞いてなかったけど適当にぼかしておけば大丈夫だよね?どこの国で生まれてどこから来たとか言われても何も分からないし。



「流浪の旅人か。いいねぇ!俺もこんな身分じゃなかったら世界を渡り歩いて自由に過ごしたいんだがな!

 まぁそうは言っても結構自由気ままにあっちこっちふらふらしているんだがな!はっはっは!」


「あまり自由に外に出る事は出来ないんですか?」


「そうだなぁ。一応は領主補佐って肩書きがあるし、代々この街を治めてきた一族の子孫でもあるからな。流石にご先祖様が守ってきた土地を捨ててまで世界を渡り歩きたいとは思わないな」



 案外こう見えて義理堅い人なのかも知れない。

 第一印象からすると色んな事に無頓着そうに感じていたけど、芯の部分ではしっかりしているのだろう。



「ご自身が生まれた土地とご先祖様を大切になさっているんですね」


「よせ!そんな柄にも無い言葉を投げかけないでくれ。くすぐったくてしょうがねぇ!」



 あ、照れてる。



「でも本当の事じゃないですか?」


「止めろ止めろ!」


「あははっ」


「ったく」



 トリエンタさんと少し砕けた会話が出来るようになってきた所でコンコン、と扉をノックする音が聞こえた。



「どうぞ。お。やっときたか。お疲れさん」


「兄上もお疲れ様です」



 ノックをしたのはクローディスさんだった。

 先程クローディスさんが着ていたのは鎧だったのに対し、今はトリエンタさんと同じような白と青を基調にした服を着ている。

 多分あの服装が正装なんだろうな。


 トリエンタさんに軽く挨拶をすると、そのまま私の前に来たので座ったままでは失礼かと思い立ち上がる。



「初めまして。私はクローディス。この街の領主をしている者です」


「私はティルファと申します。世界を自由に旅をしている者です」



自己紹介はトリエンタさんの時と同じ言葉で済ませる。



「今回のベヒモスベビーの討伐の件、もしもあなたが討伐して下さらなかったらかなりの数の死傷者が出ていたと思われます。街を代表して、領主であるこのクローディスが代わりお礼を申し上げます。本当にありがとうございました」


「そんなに頭を下げないで下さい。私としてもたまたま私の力量で倒せる魔物だっただけなので。それに領主ともあろう方が一般人に頭を下げたのでは矜恃と威厳にも関わるでしょうし」


「いえ。街を危険に晒す事なく、1人の怪我人さえも出さず、ましてやあのベヒモスベビーを単騎で討伐出来るだけの力を持つ方に対して領主であると言うことだけで敬意を払わない程愚かではありません。お気持ちだけはありがたく受け取っておきます。今回は本当に、ありがとうございました」



 ここまで丁寧にお礼を言われると嬉しさよりも戸惑いと気恥ずかしさが込み上げてくる。

 誰かと戦って褒められる事はあっても、感謝をされる事なんてなかったもんね。

 それも私より倍は年上そうな人にさ。



「えっと、その、私なんかの力で役に立てて良かったです。あんまり感謝をされ慣れて無いので良ければ頭を上げてもらえると助かります」


「ごめんなさい。そうだったのですね。過ぎる感謝は非礼に値します。ご無礼をどうぞお許し下さい」



 そう言ってやっと頭を上げたかと思うと今度は謝罪の意味で頭を下げるクローディスさん。

 えぇ……



「おい。クローディス。そんなやたらめったら頭を下げるんじゃねぇよ。ティルファちゃん困惑して固まってるじゃねぇか」


「え……?あ!」


「悪いな。普段はしっかりしてるんだが、こういう時になると変にかしこまり過ぎる奴なんだ。大目に見てやってくれ」


「あ、はい!」



 相手の事をよく気にする良い人柄の持ち主なんだろうな。こういう人は信頼出来るし好感が持てる。



「あはは……お恥ずかしい所を見せてしまいました。……ごほん。それでは話が逸れてしまいましたが本題に入らせて頂きます。今回のベヒモスベビーの討伐によるティルファさんのこの街での功績は計り知れないものがあります。そこで恩賞の授与を執り行いたいのですがよろしいでしょうか?」


「恩賞が頂けるのですか?」


「勿論です。あなたの功績によって救われた命は数知れません。それなりの物は用意させて頂くつもりです」



 褒賞ってどれくらいのものなんだろう。

 よく考えたら私この世界のお金とか衣服を何も持って無いんだよね。

 ある程度の金銭を貰えたら凄いありがたいかも。



「恩賞の授与、ありがたくお受けさせて頂きます」


「お受け頂きありがとうございます。ただ手続き等がある為授与に関しては後日という事になるのでよろしければ本日はこの屋敷にお泊り下さい。勝手が効くように屋敷の者にも伝えておきますので」


「宿泊先まで用意して下さるなんて……何から何からまでありがとうございます」


「これぐらいはさせて貰わないと領主の名が廃りますからね。何か不便がありましたら近くにいる者に声をおかけ下さい。屋敷への出入りも自由にして頂いて結構なので」


「分かりました」


「一応私は3階にある自室に居ますので私に直接用がある時はそちらの方へお越し下さい」


「ん?お前はもう外には出ないのか?」


「はい。今回の件で方々に協力要請を出していましたのでそれに関する書類の作成とベヒモスベビーの討伐報告を王都にしなければならないので」


「そうか。なら俺も手伝おう」


「助かります」


「よし。それじゃティルファちゃん。部屋に案内するから後は適当にくつろいでいてくれ」


「分かりました」



 そうしてトリエンタさんが私を部屋へと案内してくれるとそのまま仕事に行ってしまった。

 夜更けまではまだまだ時間はあるし、少し街中でも見て回ってこようかな?

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