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内緒の魔王くん  作者: 如月結花
第7話「ゴールデンウィークの魔王くん-中編-」
54/63

7話目・その6

 エル達がボウリングに行った日から3日後の、ゴールデンウィーク5日目。

 この日エルは、ようやく重い腰(物理的な意味で)を上げて、茉莉の働く店に足を運ぶことを決めた。

 筋肉痛により3日目・4日目を殆どベッドの上で過ごしたエルだったが、日を追う毎に徐々に筋肉痛は緩和されて、5日目の今日には身体が少し楽になっていたのだ。

 お風呂でゆったりと湯船に浸かって筋肉の張りを揉み解したり、お風呂上がりにも軽いストレッチをしたり、と地道に回復に努めたのも、多少は影響があったのだろう。

 それでも完全に治った訳ではないが、酷使された右腕以外は、軽い違和感を覚える程度にまで落ち着いていた。

 なので、ようやく外出を決心したのである。

 エルは朝食の席に着くや否や、手で口元を押さえて欠伸を噛み殺しながらソファーに座っていたリアに話を切り出す。

『午後から茉莉に会いに行くか、リア?』

『ふぇっ、ほんと!?行く行く!』

 リアは、ふぇっと可愛く声を鳴らしたが、欠伸交じりに声を発した所為であり、決して萌えキャラに転向した訳ではない。

『失礼ながら口を挟ませて頂きますが、茉莉殿のご迷惑になるのではございませんか?』

 と、ちゃっかりグラゼルも、エルの言葉には反応していた。

 グラゼルが口出しした意図は、極力茉莉をエルと会わせたくないからだ、というのは見え透いている。

 であればエルは、茉莉が絡んだ時だけ正常な判断を失う執事の進言を、そのまま受け入れることはしなかった。

『グラゼル、その辺りは弁えておる。なるべく迷惑にならぬように振る舞えば問題は無かろう?』

 朝食の皿を配膳するグラゼルを見ながら、エルは面倒そうな顔で返す。

 ちなみに朝食は、バターロール、スクランブルエッグ、ソーセージ、フライドポテト、一口大のサニーレタスとトマトにマヨネーズが添えられて一皿に纏められたプレートだ。

『会いに行くこと自体が迷惑になるとは、お考えにならないのでございましょうか?』

 速やかに配膳を終えたグラゼルは、食事の邪魔にならないように壁際に立ち退いてから、尚もエルに食い下がる姿勢を見せる。

『別に冷やかしに行く訳ではない。ちゃんと客として行くのだ。迷惑がられるとは思えぬがな。』

 仏頂面で受け流すと、エルはバターロールを手で千切って口に放り込んだ。

 茉莉の話題が出た場合に彼ら主従が対立するのは、当人達にとっては日常茶飯事である。

 しかし、その光景が日常の一部と化していない者の目から見ると、グラゼルの出過ぎた物言いには、疑問を感じる部分もある。

『っていうかさ、グラゼルは何でそんなに茉莉姉ぇのこと目の敵にしてんの?』

 と、リアは、皿の上のソーセージをフォークで突き刺しながら、今更とも言える質問を投げ掛ける。

 その質問に対しグラゼルは、

『人間の恋人など、魔王様の息子であらせられるエル様には、相応しくありませぬ!人間の娘にうつつを抜かすなど、あってはならないのでございます!』

 ずいっと一歩踏み出して、力強く言い切った。

『まぁ次の魔王は実質、兄貴なんだし、そりゃ当然かー…。』

 リアはグラゼルの言いたいことを、的確に読み取っていたが、面白味のある答えではなかった為か、少し冷めたような声で言葉を返していた。

『左様でございますとも!リア様にも是非、エル様と茉莉殿を別れさせる説得をして頂ければと…!』

『えぇ?私は茉莉姉ぇのこと好きだし、そんなことしないよ。』

 グラゼルは更に一歩踏み込んで協力を求めたが、リアは淡々と断った。

 リアは過去に一度だけグラゼルの計画に協力したことがあったが、それはリアが茉莉と仲良くなる以前の話だ。

 現在のリアは茉莉を姉のように慕っているので、リアに協力を求めるのは容易ではないだろう…とは、グラゼルにも分かっていたので、断られても特に落胆することはない。

 否、それどころか、諦め悪くリアを味方に引き込もうと画策すらしていたのだ。

『茉莉殿の為を思うのであれば、むしろ今の内に別れさせる方が、傷は浅くて済むのですぞ!エル様が魔界に帰られる時になって、茉莉殿に余計に辛い思いをさせるのは、リア様としても思うところがあるのではございませんか?』

『あー…んん…。』

 そう言われてしまうと、グラゼルの言い分も正しいように思えてしまって、心が揺れるリアだった。

 食事を進めながら傍観していたエルだが、敵が増えると面倒なので、グラゼルが食い下がるのであれば、流石に見過ごせない。

『茉莉は我と別れることになっても後悔はせぬと言ってくれておる。グラゼル、お前もその場に居っただろう、リアに変なことを吹き込むな。リアも、グラゼルの言うことを真に受けるな。』

 既に答えの出終わった事柄に関して、素知らぬフリを貫いて、尚且つ説得材料に使おうとするグラゼルのやり口に腹が立ったのもあり、エルの言い方は苛立ちを纏わせたものだった。

『…ふーん?』

 リアは冷たい視線でグラゼルを一瞥するが、それ以上何を言うでもなく、朝食を進めることに専念し始めた。

『…コホン。エル様が一言、別れる、と仰って下されば、それで済む話なのですぞ!』

 わざとらしく咳払いをしてから、勢いで誤魔化そうとするグラゼルだったが、誤魔化されるはずもないのである。

『何度も言っておるだろう。茉莉と別れるつもりなどは無い。』

『別れるつもりがないと仰いましたな…!?やはりエル様は茉莉殿を置いて魔界には帰ることなど出来ず、人間界に留まる意思がお有りなのですな!?このグラゼル、そのようなこと決して許しませんぞ!!』

 グラゼルの暴走(無論、茉莉に関係する事柄のみだが)には慣れたとはいえ、エルは突っ込む気力も失せて、朝から深い溜め息を吐かされるのだった。

 一方、執事の暴走に慣れていないリアにしても、初めは驚きもしたが、エルが人間界に留まる…というあたりで、そんなのある訳ないじゃん、とでも言いたげに呆れ顔をしていた。

 朝にそんな会話が繰り広げられた日の午後。

 なるべく迷惑にならないように、との配慮によって、人の多そうな時間帯を避けて、出発を13時半頃と決めたエルとリアは、朝食が終わった後から其々それぞれ自室にて暇を潰した。

 エルは図書館から借りてきた本を読み進め、リアも彼女にしては珍しく魔界から持ち込んだ本を読み返していた。

 13時25分、セットしておいた携帯電話のアラームが鳴ると、エルは読みかけの本に栞を挟んでから、リアの部屋へと足を向ける。

 ドアの前に立つとノックをして、続け様に声を掛ける。

『準備は出来ておるか、リア?』

『う、うん!』

 久々に茉莉と会うからなのか、部屋の中からは緊張気味の声が返って来た。

『では早く出て来い。行くぞ。』

 と言われて、エルに急かされるようにドアを開いたリアは、ヒラヒラ部分の多い黒のゴスロリ服に身を包んでいた。

『ねぇ…変じゃない?』

『…うむ、おかしくはない。似合っておるぞ。』

 不安そうに聞くリアに、エルは少し返答に困るが、似合うか否かだけを判断し、率直に告げることにした。

 人間の格好として考えれば浮いてはいるのだが、リアは周りの視線に頓着したりはせず、茉莉に変だと思われないか、という部分だけが心配なのだ。

 それを的確に読み取ったエルの返しは、リアの緊張を緩和させる役には立ったのだろう。

『…良かった。変な格好で茉莉姉ぇに会いたくないしね!』

 リアはホッと息を吐いて、気持ちを切り替えるように言いながら、エルの右横に並んだ。

『じゃあ、行こっか、兄貴!』

 と、笑みを見せたリアは先んじて一歩踏み出すと、エルの右腕を掴んで、急かすようにグイグイと引っ張った。

 微笑ましい兄妹の遣り取りに見えるかもしれないが、リアがわざわざそんなことをしたのには別の理由がある。

『ーーーっ!』

 それはつまり、エルにしてみれば、ボウリングの際に最も酷使した右腕を引っ張られたということであり、右腕の筋肉痛が治り切っていないエルは、声にならない悲鳴を上げたのだ。

『あっ、ごめんごめん。まだ筋肉痛治ってないんだっけ?…ぷぷっ。』

『お、お前…わざと…!』

 妹の容赦ない仕打ちに対して、エルは完全に無防備を晒しており、痛みを堪えながら睨み付けるのが精一杯だった。

『ほら、何してんの?早く行こうよ兄貴ぃ?茉莉姉ぇが待ってるんだからさぁ~?』

『お、おい!止めっ…!ぐぅぅ…リア!止めぬかっ…!!』

 エルが動かないと見るや、愉しそうに何度も右腕を引っ張ってくるリアに、まともな抗議を浴びせる暇も無く、エルは追い立てられるようにマンションを出発したのだ。

 この時エルは、リアを誘ったことを後悔したものだが…誘わずに後でバレてしまうと、もっと酷いことをされたかもしれないので、誘って正解だったのだ…と、自分に何度も言い聞かせたという。

第7話・完

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