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内緒の魔王くん  作者: 如月結花
第7話「ゴールデンウィークの魔王くん-中編-」
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7話目・その3

 エルが調子を取り戻してから、ボウリングは順調に進行していく。

 初心者2人からの疑問が出た際には質疑応答を行うので、あまりペースは早いとは言えないが、それを不満に思う者はいなかったので、至極順調であった。。

 質問の内容は、例えばスペアやストライクに関するものだ。

 それらは、天井から吊り下げられたモニター画面でも確認出来る変化なので、目に付き易い。

 本来は倒したピンの本数が書かれる場所に、スペアの場合は直角三角形のマーク、ストライクの場合は三角形が向かい合わせでリボンのようにも見えるマークが表示される。

 スペアは2回投げて10本倒したら付くマークで、ストライクは1回目で10本倒したら付くマークだ、と朋希は大雑把に説明した。

 点数計算に関わってくる部分は、彼らが高いスコアを狙うようなレベルでもないので、割愛している。

 ストライクを出した場合、本来1フレームで二投だが、二投目は行わない、という説明を追加するにあたって、朋希は自らストライクを出している。

『自分の名前が光ってたら投げる、って最初に言ってたけど、それで間違いないんでしょ?だったら別に一回だろうが二回だろうが気にしない。』

 …というのはリアの談であるが、リアにはそれくらいシンプルな方が分かり易いらしい。

 回が進むに連れて、初心者のエルとリアも、次第にボウリングに慣れてくる。

 具体的に言えば、エルはガターの回数が減って、徐々にピンを倒せる回数が増えた。

 三人の中では一番軽いボールを使っている上に、非力なのでスピードも乗らず、倒れる本数こそ少ないが、何とかレーン上1メートルの横幅に収まるように投げられるまでになりつつある。

 とはいえ、安定には程遠く、ボールが右に寄ったり左に寄ったりと忙しいのが現実だ。

 リアの場合ガターは殆ど無くなり、未だストライクこそ出ないものの、安定して一投目に7~8本と、スペアも狙えるようになる。

 朋希がリアに「筋が良い」と言ったのが単なるお世辞ではなかったことが分かる。

 経験者の朋希はというと、自分のペースを崩さずに、スッと投げて、サッと後退。投げたボールが戻って来たら、また直ぐ投げ始める…と、一連の動きだけ見ても、初心者組にさえ朋希がボウリングに慣れているだろうことが伝わっていた。

 スコアも一投目に8~9本倒すが普通で、スペアに関しても難しいスプリットを除けば安定して取れる上、たまにストライクも出すので、3人の中で最も点数が高い。

「我でも練習すれば、朋希のように投げられるものなのか?」

 と、エルが思わず聞いてしまう程だ。

「まぁそうだな。オレくらいのレベルになるには、あー、ちょっとやそっとの練習じゃ厳しいだろうけど…要は慣れだし、何度もやってりゃ少しずつでも上達するぜ?」

 最初の一投での変な動きに爆笑したり、運動音痴と言ったり、勢いで言い過ぎてしまったりと、エルのメンタルをボロボロにしてきたことを反省した為に言葉を選びつつだが、朋希は誤魔化さずに答える。

「ふむ…ならば、努力してみるか…。」

「おう、その意気だ!」

 それ以外にも時折、他愛ない会話も挟みながら、ゲームは終盤へと差し掛かる。

 そして、8フレーム目に、リアは遂にストライクを出す。

 この時ばかりはリアも、グッと拳を握って、無邪気に頬を緩ませていた。

 尤も、リアは待機場所を背にした状態であり、エルや朋希からでは、表情は読み取れなかったが。

 それでも拳を握りしめる様子は隠せていない為、よく観察すれば、喜んでいるのは分かっただろう。

 モニター画面上では、STRIKEのアルファベットを1文字ずつ表示した後、全てのピンが倒される派手なアニメーション演出が流れていた。

 アニメーションが終わり、元の画面に切り替わると、リアの名前の右側から8フレーム目の列には、ストライクを示すリボンマークが記入される。

 その段階になってから、長居し過ぎていたことに気付いたリアは、慌てて踵を返す。

「リアちゃん、ナイス!」

 と軽く右手を上げて、朋希が屈託ない笑顔で出迎えた。

『あ、うん。…どうも。』

 短く返し、リアは前を素通りして、着席する。

 そんなリアの反応は、朋希を激しく動揺させた。

 別に反応が冷たかった所為ではない。

「え、…つ、通じなかったかぁ~?…ほ、ほら、手をパァン!って、やる…やるよな?エル達の国じゃやんねーの?やるだろ!?」

 ハイタッチを求めて、感慨無さ気にスルーされたことに対し、大いなる衝撃を受けたのだ。

 だから動揺しながらエルに同意を求めるのだが、

「?…すまぬ、何を言っておるか、我も理解しかねるのだが…。」

「な、何だと…!?」

 手を振り下ろすジェスチャーを交えた説明も、エルにさえ通じず、朋希は明確なカルチャーショックを受けるのだった。

 が、そんなことでめげる訳にもいかない。

 朋希は意を決して立ち上がると、リアの目の前に立ち、にこやかに話し掛ける。

「なぁリアちゃん、ちょっと手を挙げてくれないか?」

 その言葉はエルの仲介を経てリアに伝えられ、リアは訝しみながらも一応は従い、恐る恐る掌を朋希の方に突き出す。

 朋希の脳内では、瞬間的に二通りの進め方がシミュレートされた。

 一つ目は、思いっ切り手を合わせ叩くパターン。

 これをすると、基本的にハイタッチというムーブを知らない者は、混乱あるいは逆上することもあるだろう。

 そもそも、女子相手に思いっ切り手を叩き合わせるのは、朋希としても気が引ける。

 見本を見せる意味なら相手は気兼ねなく行えるエルの方が適しているとも言えるので、リアを指名したのは人選ミスだが、そもそもエルとはハイタッチする理由がないので云々。

 二つ目は、軽く手を合わせ叩くパターン。

 これをすると、基本的にハイタッチというムーブを知らない者は、混乱あるいは逆上することもあるだろう。

 と言うのも、手に触れたいが為の浅ましい行動だと勘違いされる可能性が高い。

 つまり、どちらにしても伝わりそうにない事実を前に、しかし今更「何でもない」と言うのもおかしいので、朋希は究極の2択を迫られる結果となる。

 そして朋希は、ゆっくり右手をリアの手の前に持って行き…。

 ピタッ、と掌を合わせた。

「ぬぁああああっ!違う!!こうじゃねぇえええええっ!!」

『!??』

 更には頭を抱えて叫び出すという奇行まで演じる。

 いきなり目の前で大声を出されたリアは、ビクッと身を竦ませ、困惑しながらエルの方を見たが、エルにも朋希の行動は理解出来なかったので、目を瞑って首を横に振るだけだった。

「ご、ごめん…!何でもないんだ!忘れてくれ!!」

 言った傍から逃げるように席に戻った朋希は、暫くそのまま「うぅぅ…」と顔を伏せて唸っていた。

 これが、この日一番の、朋希の奇行だった。

『何だったの今の…?』

 混乱はしたが逆上はしていない様子のリアは、状況に付いて行けず、エルに問うのだが、

『ううむ…手をパァン!とやる…とか何とか言っておったから、恐らくリアとやりたかったのだろう、が…、正直よく分からぬ。もしかしたら、手をパァン!というのは人間界の常識なのやもしれぬ。我もまだまだ勉強不足という訳だな…。』

『はあ…そ、そう…。』

 益々訳の分からなさが増しただけだったので、曖昧に頷いておいた。

 ゲームの進行としてはリアが投げ終わって9フレームに移行しており、次は朋希の番なのだが、自己嫌悪中の朋希には声を掛け辛く、エル達は暫し待機した。

 5分程経ってから、それでも気落ちしたままの朋希だったが、あまり2人を待たせるのも悪いと思って、取り敢えずボールを投げに行く。

 ただ、全く集中出来ておらず、二投目で簡単なスペアを取り逃す…といったミスも発生する。

 大きな溜め息を吐きながら待機エリアへと戻って来た朋希は、入れ替わりで立ち上がったエルに、意味あり気な視線を送りつつ、口を開く。

「…なぁ、ちょっと自販機で飲み物買って来ても良いか?エル達は何か飲む?オレ、奢るからさぁ。」

 その言動から、気持ちを切り替えたいのだろう…とエルは朋希の心情を汲み取った。

『リア、飲み物は要るか?朋希が買って来てくれると言っておる。』

 エルは方向転換して、リアに話し掛ける。

『えぇ?…兄貴になら何の遠慮もしないけど、…朋希、には買って貰う理由がないし。』

『先程の奇怪な行動の…リアに対する謝罪の意味も込めておるのだろう。素直に買って貰え。』

『そっか…。ま、そういうことならお願い。』

 一度は遠慮したリアも、エルの言い分に納得した。

 謝罪の意味を込めて…とはエルの想像だが、単なる当てずっぽうでもない。

 大雑把な印象もあるが、実のところは律儀な性格をしている朋希を、良い意味で理解したつもりになって、代弁したのだ。

 エルは、今度は朋希の方に向き直ると、何気ない感じで口を開く。

「朋希、リアも欲しいと言っておる。頼めるか?」

「お、おう。…悪いな。」

 思ったよりあっさりと受け入れられたことに朋希は驚くが、直ぐにエルが気を遣ってくれたのだろうと察して謝辞を付け加えた。

「まぁ…気にするな。リアも別に、先程のは何とも思っておらぬようだしな。」

「そ、そうか…!良かったぁ…。」

 エルは一瞬、余計な気を回したかとも思ったが、朋希が安堵の声を上げるのを見て、やはり気にしていたのか…と、心の中で苦笑する。

「リアには出来ればいちごミルク。無ければ甘めの飲み物で良いであろう。我は何でも良いが、炭酸は好かぬので、炭酸以外で頼む。」

 手早くエルが注文を伝えると、

「おう、ありがとな。行って来るぜ…!」

 短く言い放ち、朋希は小走りに自動販売機まで向かって行った。

 その足取りは軽い。

 朋希を目で追いながら、エルは、朋希が無事に立ち直ってくれたのを嬉しく思う。

 そのまま友人がジュースを買って戻って来るまで動向を見守るつもりだったエルは、

『馬鹿兄貴!ボーっと突っ立ってないで、早く投げて来てよ!』

 先刻から待たされ続けていたリアが痺れを切らせて怒鳴り付けた為に、朋希の帰りを待つ間もなくゲームを進める事態に、何ともやるせない溜め息を漏らした。

 朋希がジュースを抱えてエル達のもとへ戻ったのは、エルの順番が終わり、リアが二回目を投げ始める直前だった。

「買って来たぜ。」

 と、一声掛けてから、いちごオ・レの紙パックジュースを、リアの椅子に、ちょこんと立たせる。

 続いてエルには、オレンジとリンゴのパックを、左右の手で差し出した。

「エルはどっち飲む?」

「では、こちらを貰う。ありがとうな、朋希。」

 リンゴジュースを選んで受け取ったエルは、社交辞令的な感謝を告げた後、「それと…」と少し苦笑気味に続けた。

「勝手に先に進めてしまって悪かった。」

「いやいや、進めてて正解だぜ。待ってる必要なんか無いって。」

 変な気遣いに、朋希の方も苦笑いだ。

 相対して苦笑し合う、という妙な状況が生まれた。

 そんな奇妙な空間に、二投目を終えたリアが手早く戻って来る。

『どしたの?』

 と、状況把握が追い付かずに、目をぱちくりさせていた。

『あ、ああ…否、お前の分の飲み物は、椅子に置いてあるぞ。』

 この状況を上手く言葉に出来る気がしなかったエルは、露骨に話を逸らした。

『あぁうん、ありがと。』

 リアは訝しんだままだが、特に追及はせず、いちごオ・レを拾い上げてから椅子に座った。

 …が、次の瞬間ハッとして、慌てて立ち上がると、

『い、今のありがとっていうのは兄貴に言ったんじゃなくて朋希に言ったんだからね!?』

 別に聞かれてもいない弁明を、一呼吸の間に放った。

 リアの言い様に、エルは目を丸くしたが、数秒後には、可笑しそうに笑い始めた。

 笑い声を上げるエルの肩を、羞恥で顔を赤らめてポカポカと叩くリア…そんな心温まる(本人達以外からはそう見えるかもしれない)兄妹の交流を見て、朋希は少し癒されるのだった。

 尤も、兄妹の仲睦まじい(※朋希の主観である)遣り取りは存外に長く続いたので、その間に朋希は紙パックの口にストローを差し込み、オレンジジュースを飲み始めていたが。

 朋希が200mlサイズの、縦に細長い形状をした紙パックの中身を大方飲み終えた頃、エルとリアの方も一段落したようで、兄妹仲良く(※繰り返すが朋希の主観である)紙パックからストローを引き剥がしていた。

「そういえば、朋希。十回目は少し特殊だと言っておったな?何が違うのだ?」

 ストローを覆うビニールを破いて、取り出したストローを引き伸ばしながら、エルは思い出したように、朋希に問い掛ける。

 ちなみにその横では、エルのストローが伸びたことに驚いたリアが二度見して、自分のストローを同じく引き伸ばしていた。

「ん、あぁ。それじゃ説明するぜ。ジュース飲みながらで良いから聞いてくれ。」

 残っていたジュースを一気に飲み干してから、中身が空になった紙パックを一先ず使っていない椅子に除けながら言うと、朋希はそこで一旦台詞を区切る。

 朋希の言葉を受けて、エルがリンゴジュースのパックにストローを突き刺し、やや遅れてリアも、同様にいちごオ・レにストローを突き入れた。

 そんな2人の様子を和やかに見ながら、朋希は説明を始める。

「えーとだな。今までは、一度の順番で二回ずつ投げてただろ?それが最後になると、最大で三回投げれるんだ。」

 モニター画面に映るスコア欄と照らし合わせても、1~9フレームまではスコアを記入する為の空白が2つだったのに対し、10フレーム目では3つに増えているのが見て取れる。

 その情報は誰もが視認可能であり、朋希が口に出す前から、エルも既に、この違いには気付いていた。

 そして、10フレーム目に空白が3つ存在する理由を推測すれば、説明されるまでもなく、10フレーム目では単純に投げる回数が3回なのだろう、と捉えるのが妥当であり、それ以外に理由は思い付かない。

 しかし、たったそれだけの変化であれば、“特殊”などという表現を用いたりはせず、説明を後回しにもしないはずだ。

 そういう想像もあり、説明を注意深く聞いていたエルは、朋希の言い方に少しの引っ掛かりを感じて、

「最大で…?」

 と、腑に落ちない点を復唱する。

「そう。“最大で”三回だ。」

 朋希は、突っ込まれることを前提にしていたらしく、最大で、の部分を強調しつつ、大きく頷きながら答えた。

「…まぁ、ちょっと分かり難いかもしれねぇけどな。」

 と、苦笑気味に付け加えてから、先を続ける。

「三回目を投げる条件は、二回目までにピンを全部倒すこと。つまり、最初にストライクを出すか二回目でスペアを出した場合に、三回目まで投げれるってことだ。」

「ふむ…なるほどな。」

 確かに若干分かり難いルールだ、と思うエルだが、理解はすることが出来た。

 朋希もエルが一先ずは理解してくれたことで、少し安心した。

「ちなみに、三回連続ストライク、なんてのも可能だぜ?最後なんだし、エルも狙ってみたらどうだ?」

 と、備考も加えて、エルを煽ったりもしたが。

「無茶を言うな…。」

 未だ一度もストライクを出していないエルには、かなりの無茶振りに聞こえる。

「はははっ。まぁ…オレはサクッと投げてくるから、その間にリアちゃんにも説明頼むわ。」

 朋希は笑いながら立ち上がり、アプローチへと進んで行った。

 エルは、理解した事柄を自分の中で噛み砕いてから、リアに説明を行うのだが、

『………兄貴の説明はよく分かんなかったけど、結局は自分の名前が光ってれば自分の番なんでしょ?だったら二回も三回も一緒じゃん?』

 よく分からなかったらしいエルの説明は、ほぼスルーされていた。

 だが、確かにリアの言う通りである。

 難しい事は考えず、リアは最初から、それだけ覚えれば問題はない、と割り切っている。

 いっそ清々しい程の初志貫徹っぷりであるが、シンプルながらも正しい覚え方であり、むしろ一番分かり易い判別方法だとも言える。

 エルは難しく考える質であり、ルールも細かく理解しようとしていた為、リアの発想には驚かされた。

『ああ…うむ!その通りだ…!流石リアは、よく分かっておるな…!』

 大仰に褒めるエルの、らしからぬ行動に、リアは眉を顰めた。

『…何なの兄貴、気持ち悪っ…。』

 と、辛辣な返しをするのだが、ボソッと口走っただけなので、エルの耳に届かなかったのは幸いだったかもしれない。

『おお、朋希はどうやら三投目に入っておるようだな!』

『あぁ…うん。』

 そんな兄妹の会話を背に、朋希は綺麗なスイングで三投目を投げた。

 朋希が投げ終えて待機場所に戻って来ると、次はエルの出番だ。

 何故かスッキリした表情でレーンに向かおうとするエルを、朋希は少なからず不審がりながらも、すれ違い様にはしっかりとエールを送る。

「が、頑張れよーエル。」

「うむ、任せておけ…!」

 と、やはり何故か自信満々に胸を張って返事するエルが、こう言ってはなんだが、凄く不審だと思う朋希だった。

 何か良い攻略法でも思い付いたんだろうか?…と考え直して見守る朋希だったが、エルの一投目が端のピンを1本倒しただけに終わった為、微妙そうな表情に早変わりする。

 続けての二投目、奇跡的にエルの投げたボールは、ド真ん中へと転がった。

 しかし、倒れたのは8本であり、三投目を投げる条件を満たすことは出来なかった。

 それでもエルは満足気に戻って来たので、朋希は何と声を掛けて良いのか迷った挙句、

「お、惜しかったな…!?」

 この場に於いて一番相応しいであろう言葉を捻り出す。

 だが、エル自身は結果に満足していたらしく、妙に誇らしげに、首を横に振る。

「否、充分だ。」

 と、一言を添えて。

 謎の充足感を得たエルが、白椅子の背もたれに身を預けた直後に席を立ったリアは、入れ替わりでボールリターンへと向かう。

 そして最後の締め括りに二投目でスペアを取り、三投目に8本を倒して、1ゲームが終了したのである。

 最終スコアはモニターに、トモキ131、エル59、リア108と表示された。

「しかし、すげーなぁリアちゃんは!スコア3桁行ってんじゃん!エルにはスコアで倍ぐらい差があるし、初めてでそれだけ出来れば上等だよ!」

 ゲーム終了して直ぐに自分の席で残りのイチゴオ・レを飲み始めたリアに、朋希は興奮気味に感想を告げる。

 それを聞くと、リアは途端に調子に乗り始める。

『まぁね!でも、私と兄貴を比べちゃうと、兄貴が惨めになるだろうからやめてあげてよぅ?…っていうかさ、兄貴も兄貴で、何でこんなのが出来ないの?魔法より簡単じゃん?』

 前半は朋希に、後半はエルに向けて。

 リアは意地の悪い笑みを浮かべ、上から目線で兄のことを心底愉しそうに皮肉った。

 今日初めてボウリングをやってみた彼らのスコア差は一目瞭然。

 それが分かった上で、リアは兄の威厳を貶めているのだ。

『お、おい、リア…!魔法がどうとか言うでない!』

 他に言い返せそうな部分も無かったので、エルは取り敢えず、そこだけ言い返した。

『あ、ごめんねぇ兄貴!でも他には何も言い返さないの?ねぇ?ねぇ?』

 リアには謝る気など、これっぽっちもなく、実にわざとらしい言い方で応える。

『くっ…!』

 それでも、やはりエルは何も言い返せず、押し黙ってしまう。

 ろくに反論の術を持たないエルを眺めて愉悦に浸るリア、という構図が完成した瞬間であった。

 リアが調子に乗った原因は、朋希が手放しで褒めた故ではあるが、恨むのはお門違いである。

 このままでは、兄としてのプライドがズタボロのボロ雑巾のようになってしまうので、何とかしようと思うが、最早、後の祭だ。

 だが、それも仕方がないのだろう…と、エルは神妙に、この状況を受け止める。

 何故なら、リアの言っていた言葉を思い出したからだ。

 魔法では、リアはエルには敵わない。運動能力では、エルはリアには敵わない。けれど、それで対等だ、と。

 魔法を使うことを禁止されている人間世界はリアの領分なのだから、自分の立場が弱いのは仕方がないのだ…と、受け入れたのだ。

 そう思ってしまえば、嫌味を聞き流す程度は、耐えられる。

 しかしながら、エルの忍耐力は、そこまで長続きする訳ではなく、

「さて…朋希。これからどうする?時間もまだあるし、別の場所にでも行くか?」

 エルは状況を改善する為に、いち早く朋希に次の展望を聞くことに切り替える。

 備え付けのモニター画面の前に場所を移していた朋希は、エルの問い掛けを耳にすると振り向いて、何言ってんだお前…という顔をした。

「はぁ?何言ってんだお前…今のは準備運動だろ。ようやく肩が温まってきたところだぜ?」

 否、実際に口に出して言った。

「…は?も、もしや、まだボウリングを続ける気なのか…!?」

 狼狽えたのはエルの方だ。

 実を言うとエルの腕は相当なダメージを負っていて、既に筋肉痛になり始めていた。

 だが、そんなことはお構いなしに、朋希は有無を言わさぬ態度で迫る。

「決まってんだろ!誰が1ゲームで満足するかよ!な、リアちゃんもそうだよな!!」

『………?』

 朋希が言って暫く待っても、リアは首を傾げるだけで、明確な返事が返って来ない。

 その理由に気付いた朋希の行動は早かった。

「おい、訳せよエル!!都合が悪くなったら訳さない気かよ!!」

 と、エルの服の襟元をひっ掴んで、問い詰める態勢を取ったのだ。

「い、否っ!それはっ…!」

 伝わっていない原因を考えれば、それしかないのだから、言い逃れは不可能である。

「良いから訳せよ馬鹿野郎!!」

 逆らえず、エルは渋々リアに伝えるが、問うまでもなく、答えは決まり切っていた。

『うん!もっかいやる!』

 それからエルは、もう1ゲーム付き合わされ、遂に腕は限界を迎える。

 椅子の上でぐったりする彼の姿は、物理的な意味でズタボロのボロ雑巾のようだった。

 哀愁を漂わせ、エルは後に、こう語る。

「ボウリングというスポーツは、我の想像を遥かに越えて難しく、厳しいものであった…。」

 と。

 厳しい…というのは勿論、体力的に、である。




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