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内緒の魔王くん  作者: 如月結花
第6話「ゴールデンウィークの魔王くん-前編-」
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6話目・その5

 夕食後リアは、以前人間界に滞在していた時にも使用していた空き部屋へと向かう。

 そこは実質、リアの部屋として扱われており、部屋の主が不在であろうと、グラゼルの手によって常に清潔さを保たれている。

 中に入ると手慣れた動作で壁にある電気のスイッチを押し、魔法で鍵を掛けた後、ぼふっとベッドに横たわった。

 彼女の機嫌は未だ直っていない。

 空腹には逆らえなかった為、食事の席には着いたが、一言も発することなく、黙々と料理を口に運び続けた。

 そうして、早々に夕食を平らげ、今に至る。

 ベッドの上で目を瞑ると、抑え切れない怒りが込み上げて来る。

 兄の言動に、これ以上なく憤っている。

 友達を作らせようとした…というだけなら、別段怒ることではない。

 しかし今回は、そうではない。

 特定の個人と友達にならせようとした、なのだ。

 これらは似ているが、その実、意味は全く異なる。

 友達を作ってやろうなんて、余計なお世話だ。

 他人の用意したレールに乗っかって生きる人生なんか、つまらない。

 兄貴もそういう考えだったんじゃないの?

 私にはそれを押し付けるっていうの?

 心の中で、いくら問い掛けてみても、答えなど返ってくるはずもない。

 考えれば考えるほど、深みに嵌っていく気がする。

 でも今は、他の事を考えて気分を紛らわす余裕もない。

 負の螺旋に飲み込まれて行くのを感じつつも、それを自分では止められないのだ。

 止められるのは外的要因のみ。

 そして、今回もたらされたそれは、

『…リア、話がある。』

 ノックの音に続いて、扉の向こうから聞こえてきた、エルの声だった。

 彼の来訪は、予想の範疇。

 だが、リアは無言を貫き、話し合いには応じようとしない。

 これ以上、怒らせないで欲しい。

 リアの意思表示を理解出来ても、エルは話をしない訳にはいかなかった。

 例え一方通行になるとしても、構わず、魔法によって施錠された扉に向かって、話し始めた。

『…今更言ったところで、言い訳に聞こえるかもしれぬが、説明だけはさせて欲しい。』

 と、前置きを入れ、先を続ける。

『…お前に断りも入れず、朋希を連れて行くことに決めたのは、悪かった。』

 相変わらず、リアは返事を返さない。

 耳を塞げば、扉越しの声を遮断するくらい容易い。

 もしかしたら、自分の声は届いていないのかもしれない。

 そんな不安も付き纏うが、エルは、リアが聞いてくれていると信じ、閉ざされた扉に向かって語り続ける。

『我には、お前が楽しく遊べそうな場所は思い当たらなかった…だから朋希に相談した。朋希が提案してくれた場所は、我は行ったことがない故、遊び方の説明をしてやることが出来ぬ。遊び方を知らなければ、楽しむことが出来ぬのだろう…と思う。だから、だと思うが、朋希の方から付き添いを申し出てくれたのだ。』

 推測でしかない部分は、自信なさ気だったが、それが逆に、事実のみを語ろうとする誠実さである様に感じた。

 だが、リアの不満の根底は、それではないのだ。

 ベッドに横たわる少女は、いい加減うんざりする。

 何も理解していない兄に。

 そして、何も伝えようとしない自分自身にも。

 今までなら、こんなこと考えなかった。

 適当に嘘を吐いて、自分を欺いて、やり過ごしていた。

 魔法の才能のないリアは、過去に母親以外から優しくされた記憶が無い。

 魔人の大半は、魔王の娘だというにも関わらず魔法の才能のない彼女を蔑む者ばかりだった。

 だから、魔人の大半から向けられる心無い言葉から身を守る為、自分に嘘を吐き、やり過ごす方法を覚えた。

 リアを変えたのは、間違いなく茉莉の存在だった。

 人間界で一緒に過ごしたどの風景にも、魔法という力を持たない人間の茉莉は、力を持つ兄に対して、何の怯えも見せたことがない。

 それどころか、自分と兄の口喧嘩を仲裁したり、自分が魔法を使ってしまった時だって、一歩も引かずに、兄から自分を庇ってくれた。

 間近で茉莉という人間を見ている内に、無意識にだが、嘘を吐いて自分を守らなくても良いんだ、と考えるようになっていった。

 茉莉の優しさに触れ、茉莉の相手を思い遣る生き方に憧れ───そして、嘘を吐くことに慣れていたはずの少女は、嘘の吐き方を忘れてしまった。

 きっと、茉莉に出会う前のリアであれば、湧き上がる怒りにさえ、嘘を吐き通した。

 精々、怒っている事実を知らしめる為に、機嫌の悪そうな顔で、嫌味の2つや3つも言えば、落ち着いただろう。

 でも今は、それが出来ない。

 リア自身、自覚のないまま自分の内に生じた変化に戸惑っているのだ、正直なところ。

『なぁリア、我は的外れなことを言っておるかもしれぬ。否、かもしれぬ、ではなく、実際に見当違いだから、何も言ってはくれぬのだろう。だが、お前が何に対し、我に憤りを感じておるのか、分からぬのだ。…そんなことも見抜けない不甲斐ない兄と罵ってくれて構わぬ。話してはくれぬか?』

 そんなエルの言葉にも、リアは頑なに返事をしようとはしない。

 そのまま5分が過ぎた頃、

『話す気になったら出て来て欲しい…待っておる。』

 と、諦めた風に小さく息を吐きながら、エルの気配は部屋の前から遠のいて行った。

 その直ぐ後…リアは布団の上で呟く。

『…馬鹿兄貴…。』

 リアは、やるせなさを感じながら、ぎゅっと瞼を閉じた。




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