6話目・その4
市バスで30分かけて、扇原から久十里に戻って来た時には、とうに15時を回っていた。
まだ陽が高く、普通なら帰路に着くような時間ではないが、朋希は調査結果を纏めておきたい(帰りのバスの中でも何やら手帳にメモを残していたが)らしく、また、エルにしても現地で歩き回って疲れた身体は休息を求めていた。
そんな風に、二人の意見が一致した為、そのまま駅で別れるに帰結した。
別れの挨拶をした後、両手に駄菓子の沢山詰まったビニール袋を下げて、揚々と去って行く朋希の背中を見送ってから、エルも自分の生活するマンションに向かって歩み出した。
家に帰り着いたエルは、執事グラゼル・アルエインに帰宅の報告を告げるのも忘れ、自室のベッドに倒れ込む。
尤も、報告義務を課されている訳でもないので、怠ったとしても言及されたりはしない。
暫く目を瞑っている内に、意識が遠のいていく感覚がエルを襲う。
相当疲れていたらしい…と、自分でも分かった。
素直に己の欲求に従い、エルは意識を手放した。
直後、ガチャ…と部屋の扉が開く音が聞こえ、エルの眠りは妨げられる。
それが眠りに就いた直後だったのか、幾らか時間が経った後だったのかは、この時のエルには知覚する術がない。
身体のだるさは残っている為、出来れば身動きを取りたくない、という考えだけが脳を支配していた。
ベットに倒れ込んだままの、うつ伏せ状態であり、正直身体を起こすのも面倒だった。
部屋に入ってきた人物が自分の横に立ち、寝姿を見下ろす気配を感じても尚、態勢を整えるといった考えには至らなかった。
しかし、いつまで経っても気配の主が諦めて立ち去らないので、仕方なく此方から声を掛けることを選んだ。
「もう夕食の時間になったのか?悪いが疲れておるのだ、もう少し───」
と、執事のグラゼルであろう人物に声を掛けながら、次第に違和感に気付き、エルは素早く身体を起こす。
グラゼルならば、必ずドアを開く前にノックをし、一声掛ける。
エルからの返事がなければ、無断で部屋に入りはしない。
もし急ぎの用があるのなら、その限りではないが、その場合であれば、今の瞬間にもエルを起こそうとしないのは変だ。
つまり、隣に居る者がグラゼルであるはずがない。
ならば誰なのだ…と、急いで顔を向ける。
その目に映ったのは、
『何やってんの、兄貴?』
兄の挙動不審を前に、きょとんとした表情を見せる妹───リア・メルシェ・ラヴィニール・ド・サタンの姿だった。
『何故お前が居るのだ、リア…!?』
エルは反射的に、魔人語で叫んでいた。
『遊びに来たんだけど?』
と、答えたリアの方が、何故エルがそんなに驚いているのか、と疑問形になってしまう。
リアが魔界へ帰ったのは、つい2週間前の出来事である。
余りにも早すぎる再来に、驚かれない理由がないと思うのだが、リアはそこまで気が回らないらしい。
エルは先刻まで寝ていた(時間の経過が分からない為、本当に寝たのかは定かではないが)こともあり、もしかして、これは夢なのではないか?…と考える。
前回リアが人間界へやって来た際にも、似たような遣り取りを交わしたことを覚えていて、既視感を感じたのも理由だ。
目の前の光景が夢なのか現実なのか、それを確かめる方法を必死に思い返し、エルは恐る恐る手を伸ばし、リアの左頬に右手をあてて、
『えっ…ちょっ…何…!?』
リアが狼狽えるのもお構いなしに、
『っ…!?』
軽く抓ってみた。
すると当然のように、怒りと困惑の込もった平手打ちが返って来て、
『ぐっ…!』
エルは短い悲鳴を上げ、同時にリアの頬から速やかに手を引いた。
そして、その行動…というより、はたかれた痛みによって、これが現実であると認識したのだった。
『な、ななっ、何してんのさ馬鹿兄貴!?』
咄嗟に反撃してしまったものの、リアにはエルの奇行が理解出来ず、落ち着きを失ったままだ。
『否…悪かったな。夢でないことを確かめようと思って、な…。』
『何それ!訳分かんない!?』
謝罪と表明を行うエルだが、全然伝わる気配が無かったので、
『…寝ぼけておったのだ。』
と、簡潔に申し述べることにした。
その甲斐あってか、
『………ま、まぁ、寝ぼけてたなら、うん…。しょうがないから許したげる。』
流石に深くは突っ込まれず、許しも得ることが出来た。
勿論、受けたダメージはエルの方が深いが、どう考えても自業自得なので不満を漏らすのは筋違いであるし、むしろリアの機嫌を損ねずに済んだことを喜ぶべきだろう。
兎も角、こうしてリアが現実に人間界へやって来た事実を受け入れたのだった。
だが、そうなると、気になる点が幾つか有る。
エルは確認の意味を込めて、やんわりとした口調で問う。
『クソ親父に許可を取ってから来たのであろうな?』
2週間前、リアの見送りと称し、魔界へ一時帰省したエルは、彼らの父親である魔王と交渉し、今後リアがいつでも人間界に遊びに来られる環境を整えたが、一々許可を取るのが煩わしいというリアの気持ちも透けていたので、また無断で来た可能性が捨て切れなかった。
『追い返されても嫌だし、ちゃんと人間界に行くって言ってから来たに決まってんじゃん。』
『それならば良い。』
リアが素直に従っていたようで、エルは安心する。
『それに、今回は兄貴の連休が終わるまでだからさ。今日から暫く、学校は休みなんでしょ?』
『ふむ…そういうことか。』
もう一つ気になっていた点は、リアの方から言い出してくれたので、手間が省けた。
グラゼルが定期的に魔界に現状を報告していることを知っているエルは、その情報がリアの耳に入ったのだろう、と納得すると、
『もう人間界の言葉は覚えたのか?』
と、更なる疑問点を続けて放つ。
興味本位での質問だったが、リアは呆れた風に、
『そんな早く覚えれる訳ないじゃん。馬鹿なの?』
辛辣な台詞を伴って、ジト目を向ける。
『………はぁ。』
妹の刺々しい返しに、エルは溜め息を吐く。
別にリアの険な態度が、今更悲しくなったのではない。
確かに馬鹿な質問だったかもしれない、と認めた故の溜め息だった。
話題を振るという意味では、先の質問は、別段おかしくはないだろうが、余りにも現実味がなさ過ぎた。
日本語を覚えるのと同時進行で中学生レベルまでの勉強を行っていたとはいえ、エルでさえ日本語をある程度話せるようになるまでに1ヶ月は掛かっていたのだから、碌に勉強をした試しのないリアが、その半分の期間で話せるようになるなど到底あり得ない。
恐らく勉強が捗らず、リアにとっては触れられたくない話題だったのだろう…という想像が欠けており、思慮が足りなかったと言える。
次に人間界に来る時までに、人間界の言葉を覚えてくる…と自ら宣言したのを、よもや忘れてはいないはずだ。
それを完遂せずして、再び人間界にやって来た事に、多少なりとも背徳感を感じているのだろう。
遠回しにでも突っ込まれれば、毒の一つでも吐きたくなる気持ちは、十二分に理解出来るのだ。
リアは開き直っているように見えるが、プライドを傷付けられたくないだけだ。
その辺りを特に考えずに、話を振ってしまった訳だから、馬鹿と罵られても仕方がない。
だが、単に謝るだけでは、エルとしては面白くないのも事実であり、
『そうかそうか。お前、そんなに我に会いたかったのか。そういうのを人間界の言葉でブラコンと言うのだぞ?一つ勉強になったな?』
お返しとばかりに、少しからかってやろうという気になった。
それを聞いたリアは、すかさず、
『はぁ!?べっ、別に兄貴に会いに来た訳じゃないし!私は茉莉姉ぇに会いに来たんだしっ!変な勘違いしないでよね!!?』
顔を真っ赤にして捲し立てる。
照れ隠しなのは明らかだったが、面と向かって指摘するのは止めておいた。
最終的にエルが折れなければ、いつまで経っても終わらなくなってしまうからだ。
円満に終わりを迎えさせる為にも、
『違うのか。それは残念だ。勘違いして悪かった。』
淡々とした口調でだが、ついでに謝罪も済ませておく。
『…ん、分かれば良い。』
リアは、まだ少し頬を赤らめさせ、そっぽを向きながらだったが、文句を言わずに、エルに同調した。
話題を引き摺られたくない、という意識の方が勝ったのだろう。
だが…と、エルが続けて口を開くと、折角手打ちにしてあげたのに未だ引っ張る気なの?と言いたげに、不満顔をするリア。
当然エルにもそんな気はなく、
『生憎、茉莉は連休中は忙しいらしい。我も会う予定はない。』
茉莉に会いに来た、という部分だけを拾って、茉莉の現状を伝えておこうと思った次第だ。
ゴールデンウィーク中に一度くらいは、茉莉のアルバイト先に顔を出すつもりだが、アポイントメントがないという意味で、会う予定がない、なので嘘ではない。
本当は店には朋希を誘おうと考えていたが、リアを連れて行く方が、茉莉も喜ぶだろう…という思いが頭を過ぎる。
というか、扇原で内心をぶち撒けた後の朋希を、何気ない顔で誘える程、エルは図太い神経を持ち合わせていない。
そんな風に思考が別方向へ向かおうとしていたが、
『そっか…残念。』
露骨に気落ちした様子を見せるリアを見て、エルの頭は、現実方向へと修正された。
慰めの言葉でも掛けてやろうか、と思っていると、リアは直ぐに寂しさを振り払うように、
『じゃあ兄貴がどっか連れてってよ。この前の…えっと、ユーエンチみたいなとこ!』
と、明るく言い放つ。
だがエルは、リアの発言に好い顔はしなかった。
遊園地…リアが茉莉に魔法を使い、副作用で肉体変化を起こしてしまった場所である。
にも関わらず、当事者の彼女が、反省しているのか分からないような言い方をした為だ。
だからエルとしては、
『リア…。』
お前は反省しておるのか?…と、問い質そうと思った。
ただ、エルの言葉が続くことはなかった。
自分の名を呼ぶ声のトーンで察したのであろうリアが、
『反省はしてるよ…。でもそれ以上に、楽しかったんだからしょうがないじゃん。』
と、先に発したからだ。
そんなリアの、ばつの悪そうな素振りを見せられてしまっては、エルからは何も言えない。
『そうか。』
優しい声色で、容認する以外ないのである。
『それにさ、茉莉姉ぇが、いつか、また3人でユーエンチ行こうって言ってたじゃん。まぁ茉莉姉ぇがいないから、今回はユーエンチは我慢するけど。』
『そうであったな。』
リアは決して、有耶無耶にしようとした訳ではない。
自身の過ちを忘れたりもしない。
失敗して、反省して、そして、成長しているのだから。
『…だから、ユーエンチの代わりになるくらいの、楽しい場所連れてってよ?』
成長の片鱗は見えている。
自覚はないのかもしれないが、リアがエルに見せる態度は、これまでより軟化していた。
些細な変化ではあるが、人の成長は、そういった些細な変化の積み重ねなのだ。
そして、少しずつ成長している妹の期待には、応えてやるしかないのだ、兄としては。
とはいえ、リアの望む解答が、咄嗟に浮かばないのも現状である。
『うーむ…。』
と、首を捻るエルだが、知識がないのだから、いくら考えても答えが出る訳がなかった。
次にリアが来る時までに、人間界に詳しくなっておく…と、堂々と宣言していたエルではあるが、流石にこれ程早く遊びに来るとは予期しなかったのである。
しかし、やはりというか、妹を落胆させたくない気持ちもあり、今取れる最善の手を尽くすことにする。
行動すると決めたら、その後は迷うこともなかった。
『少し待っておれ。』
と、エルはリアに向けて短く言い放つと、ポケットから携帯電話を取り出し、電話を掛ける。
その際に、ディスプレイに表示された現在の時刻が目に入り、3時間程は寝ていたらしい事実を知るが、今はどうでも良かった。
そんなことよりも、電話を掛けた相手が、直ぐに出てくれることを願う。
然して、その願いは3コールで通じた。
「おう、どうした?」
「朋希、突然で悪いのだが、この辺りで遊ぶ場所はあるか?歩いて行ける距離で。」
声が聞こえると、エルは社交辞令的な詫びを一言入れてから、直ぐに本題に入る。
朋希とは一悶着あったとはいえ、別れに際して、雰囲気は普段と変わらなかった。
だから、大丈夫だろうと判断し、今回は朋希を頼ることにした。
「何なんだ一体?誰と行くんだ?」
朋希は訳が分からないといった風に聞き返す。
その声に、エルを煙たがるような意思は見られない。
エルには他に茉莉以外に親しい人物はいない、というのは朋希も知る所である。だからこその疑問だ。
「帰ったら妹が家に上がり込んでいてな…。遊べる場所に連れて行け、と。」
「お前妹いたのか。」
「まぁな。…我は遊べる場所を殆ど知らぬ故、教えて貰えぬか、と。」
エルは先を急ぐように、端的に答えていく。
「妹ちゃんは、どんな子?運動が得意か苦手か、それによって教える場所が変わるけど。」
「身体を動かすのは好きな方だ。」
「じゃあそうだなぁ、定番だけどボウリングは?」
「ボールを転がしてピンを倒して合計を競う遊びか…。」
ボウリング、と聞いて、瞬時に頭の中で思い当たった知識を引っ張り出すエルだが、
「お前の知識って、絶対、偏見入ってるよな。」
と、朋希には笑われてしまい、
「やったことがないのだから、仕方がないであろう…!」
ムッとして、僅かに語気を強めた。
別にエルを怒らせるつもりはなかった朋希は、
「悪い悪い。」
形ばかりの謝罪を告げると、続いて、
「…んー、じゃあオレも付いてくか?」
ボウリングに対するエルの知識の欠如を考慮した結果、そう提案するに至った。
日本人は、ボウリングを少なくとも一度は遊んだことがある者が殆どだ。
仮に未経験だとしても、大抵は周りが経験者で、遊び方を教えてくれる。
もし、遊び方を知らない者達だけでボウリングに行った場合、楽しめるのだろうか?…と心配になったのが、朋希が危惧する大部分だった。
そしてエルにしても、朋希がわざわざ付き添いを提案するくらいなので、しっかりとルールを知らなければ楽しめない遊びなのだろう、という発想は浮かんで来る。
尤も、クラスメイトの某男子のように、妹を紹介して貰う口実作りのつもりなら、その限りではないが、それを疑わない程度には、今のエルは朋希のことを、友人として信頼している。
だから、
「良いのか?」
と、朋希の申し出を好意的に受け止め、
「今日は色々迷惑掛けちまったし…その詫びだ。勿論、迷惑じゃなけりゃ…だけど。」
「迷惑などあるものか。有り難い。早速だが、行くのは明日で構わぬか?」
結局、約束を取り付けていた。
「おう、じゃあ明日な。てきとーな時間にエルん家行くわ。」
「了解した。」
それから交互に別れを告げて、通話は終了し、エルは一息ついた。
直後、
『何を一人で喋ってたの?』
首を傾げながら、リアはエルに尋ねる。
側で見ていても電話という概念は理解出来なかったらしい。
『ふっ…これはケータイと言ってな、離れた相手と会話が出来るのだ。』
不敵に笑いながら、エルは高々と、自らのスマフォを掲げた。
『ま、まじで!?』
リアは驚きの表情を浮かべ、興奮気味に、
『それ魔界に持って帰っても良いかな!?』
純粋な願望を表に出す。
そんなリアの、人間世界へ向けられる興味を、嬉しく思う反面、次に残酷な真実を告げなければならないのは、少々心苦しかった。
『がっかりさせるようで悪いが、これを魔界へ持ち帰っても使えはせぬ。これは人間界でしか使えぬのだ。』
魔界にまで電波が通じるはずがないのだから。
それを聞いたリアは、明らかに落胆した。
『そっか…ま、そうだよね。』
もし、魔界でも携帯電話の使用が可能なのであれば、リアは魔界に居ながら、茉莉と話す術を手に入れることが出来たのだ。
或いは、魔界に於いて、遠く離れた友人と、心ゆくまで語り合いたかったのかもしれない。
どちらにせよ、人間界でのみ使える代物だと知れば、手に入れた後の使い道など、妄想の産物に成り下がってしまう。
『で、誰と話してたの?茉莉姉ぇ?』
気持ちを切り替えるように、リアはエルに先を促した。
自分を待たせてまで、エルが話したい相手など、茉莉しかいないだろう…と思ったのだが、リアの予想は外れていた。
存在を知らないのだから、当然だ。
『朋希と言う、最近出来た友人だ。』
エルは、先に紹介しておく意味で、そう告げた。
『そう。』
リアは無感情に、短く応じる。
茉莉じゃないなら興味はない、とでも言いた気だったが、リアが殆ど他人に興味を示さない事を知っているので、エルは特に気にせず、言葉を続ける。
『その朋希が明日、遊ぶ場所に連れて行ってくれる、と。』
『………。』
そう言った瞬間、リアは黙り込む。
彼女の沈黙が拒絶の意思表示なのは分かっていても、エルは何とか了承させようと努める。
『お前が、あまり他人に心を開こうとせぬのは分かっておるが、朋希なら大丈夫だ。我が保証する。直ぐに打ち解けられる。』
会えば、恐らくリアも朋希が気に入ってくれるだろう…と、願望に近い理由ではあるにせよ、エルはそう思っている。
実際に顔を合わせて、それでも気に入らない様ならば、その時は諦めるが、リアにとっても、友達を増やす良い機会だろう、と。
魔人の、まして魔王の血統である兄妹には、魔界に於いて対等な友達関係を作るのは難しい。
グラゼルが考えていたように、エルも、リアに人間界で対等な関係の友人を作って欲しいと願う。
そして、朋希ならば、魔王になると宣言したエルを、面白い奴だと評した朋希ならば、リアとも自分と同様に、友達関係を築けるだろうと確信する。
…が、そんなエルの思惑に、
『別に私、人間の友達が欲しいなんて思ってない。そういうの、ほんと迷惑。』
リアは賛同するどころか、先程よりも明確な拒絶を表す。
今までのリアであれば、怒るにしても、喚き散らすだけだった。
こんな苦痛に満ちた表情を浮かべたりしなかった。
だから、普段とはまるで違う怒りを向けられ、エルは困惑する。
『あ、ああ…。我も、無理に朋希と友人になれと言っておる訳では…。』
取り繕い、本気で怒る妹の顔色を窺う。
我はそこまで、気に障る事を言ったか?…と。
『…言ってんじゃん。』
リアがそう吐き捨てた直後、部屋のドアがノックされた。
『失礼致します。夕食の準備が………と、整いました。』
そう言いながらドアを開いたグラゼルの身体を押し退け、リアが部屋から出て行った為、機嫌を損ねてしまった理由を聞くタイミングを逸してしまう。
否、エルには、自分の何がリアを怒らせたのか、見当が付かず、追い掛けられなかったのだ。
「これはこれは…リア様は相当お怒りのご様子ですな。」
「お前にも、そう見えるか、グラゼル…。」
執事は非難めいた口調で零し、主は情けなく呟いた。
第三者の出現は、前向きな発想をすれば、冷静に考えを纏められる時間が得られた、とも言える。
食事が終わったら、もう一度リアと話をしよう…と決め、エルは重い足取りで、食事の席へと向かうのだった。




