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内緒の魔王くん  作者: 如月結花
第5話「会談の魔王くん」
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5話目・その8

 学校で長谷川と話を終えたエルは、学生服姿のまま、深里市立図書館へと立ち寄った。

 元々本を読むのは好きだった為、先日茉莉に連れられて訪れたこの場所の、蔵書の多さに興味を惹かれたのだ。

 魔界から持ってきた本は、とうの昔に読み終わっていた。

 学校の図書館に興味がない訳ではなかったが、規模が小さく、何より、自分が学校の中で噂になっているようなので、なるべく学校内で人目に付く場所には留まりたくないという理由から敬遠していた。

 深里市立図書館には、一般に有名な読み物から専門書まで、多岐にわたるジャンルが一通り揃っているので、全てを網羅するまで飽きることもないだろう。

 人間界への知識を深める場の一つとして、充分過ぎるほどの利用価値がある。

 読むだけでなく借りられるのも、エルとしては有り難い。

 読書はなるべく一人で集中したいので、エルにとってマンションの自室が、人間界で一番読書に適した空間なのだ。

 この日エルは学生証を提示し、貸出用の図書カードを作ると、借りられる限界の10冊まで本を選んだ。

 期限は2週間らしいが、一日一冊読むとしても、4日余る。

 何より明日から連休に入る為、一日一冊計算というのも少なすぎる。

 下手をすると一日で借りた10冊を読んでしまう可能性まである。

 休日に利用する場合は、図書館で読み漁り、読み途中になった分だけを借りて帰る方が良さそうだとエルは考える。

 いくら自宅が読書に適すとはいえ、マンションと図書館を1日に何往復もしたくはないのだ。

 ゴールデンウィーク中は、恐らく深里市立図書館に通い詰めることになるだろう。

 それ程にエルは、図書館という公共の施設に価値を見出したのだった。

 早速借りた本を手に、帰路に着くが、図書館を発って5分もしない内に、エルの心は後悔で満たされた。

 学校の教科書に加えて10冊の本を鞄に詰め込んだ結果、とても鞄が重い。

 やはり次からは、読みかけの本だけを借りて帰るのが正解だ…と改めて思うのだった。




 エルがやっとの思いで自宅に帰り着き、体力回復を待った後、本を読み耽っている頃…夏川 茉莉は買い物を終え、考えた作戦に従い料理を作り始めていた。

 先ずカレーの具材となる玉葱、人参、じゃがいも、鶏肉を丁度良い大きさに切り、鍋に油を敷いて炒めた後、水を入れる。

 今日の夕食はカレーではない。これは明日と明後日の夕食になる。

 具材を煮込む時間は、短くても20~30分。途中でアクを取ったりはするが、待つには短くない時間が掛かる。

 その待ち時間の間に、今日の夕食となるべき、餃子、野菜炒め、中華スープ作りを開始する。

 更に、後日使うことになるほうれん草を茹で、冷凍しておく。

 作戦とは要するに、今日の内に3日分の夕食を作る、及び出来る範囲での仕込みをしてしまおう、というだけで、実際のところ作戦と呼べる程、大層なものではない。

 それでも、本人は完璧な作戦だと信じている。

 明日から連勤となる6日間の内、2日分をカレーで消化し、残り4日。

 なるべく時間を掛けずに作れる献立を熟考した。

 今日は、餃子、野菜炒め、中華スープ。

 明日は、カレー。今日作るので、明日は何も作らなくて良くなる。

 明後日は、カツカレー。2日続けてだと文句を言われそうなので、豚カツを付けることで誤魔化そうという魂胆だ。

 明々後日は、たらこクリームパスタ、ハムときゅうりのサラダ。パスタは既成品のソースを使うと文句を言われるので、簡単に作れるたらこクリームソース。ハムときゅうりは千切りにするだけで、早い。

 次の日は、豚肉と千キャベツの生姜焼き丼。丼物はそれ一品で済む為、楽なのだ。

 その次は、鮭のムニエル、ほうれん草とベーコンのバター炒め、コンソメスープ。ムニエルはあまり時間も掛からず作れて、ほうれん草を今日の内に茹でて冷凍しておけば短縮になる。

 残る1日は、チャーハン。学校があるというのを盾に、最終日は簡単に終わらせる。

 きっと問題はないだろう、問題はないはずだ。

 自分に言い聞かせながら茉莉が夕食を作っている頃、藤原 朋希は明日の準備を終えた。

 何度も鞄をひっくり返して荷物を確認し、着ていく服も決めて、前日の内に全ての用意を済ませ、気合充分な様子だ。

 同好会としての活動の第一歩となるのだから、気合が入るのも当然かもしれないが。

 そして、同好会という単語が頭にチラついた瞬間、エルが一緒に付いて来ることを、すっかり忘れていたことを思い出す。

 そういえば、待ち合わせ場所、時間の話も全くしていない。

 エルから催促のメールが入っていることもない。

 この時間であれば電話の方が早いだろうと、朋希は、既に目覚まし代わりに枕元にセットしていた携帯を拾い上げ、エル宛てに電話をかける。

 自室にて集中して本を読んでいたエルは、静寂の中、突然鳴り響いた携帯の着信音に驚き、ビクッと身体を揺らした。

 スマフォのディスプレイには、トモキと表示されていて、それを見た瞬間、明日会う約束をしていたことを思い出し、素早く通話の枠をタッチした。

 電話がなければ、恐らくそのまま忘れていただろう。

「おう、エル。明日の集合場所と時間なんだけどさ、朝10時に久十里駅の外で大丈夫か?」

 着信に応えるなり、朋希は返事を待たず用件を述べる。

「…ああ、問題ない。」

 エルは答えたが、

「否、待て。」

 と、直ぐ様、制止を入れる。

「ん?どうした?久十里駅知らないのか?」

 不審そうに朋希は問う。

「場所は知っておるが。………電車に乗るのか?」

 明らかに不満そうな感情が隠せていない声で、エルは言う。

「あ?電車苦手なのか?」

「そ、そんなことはないぞ。我に苦手なものなどない。」

 強がるエルだが、バレバレである。

「あ、そう。」

 短く応える朋希の言い方からも、全く信用していないのが読み取れる。

「でも安心しろよ、電車じゃ行けねぇから。市バス使う予定だ。」

「そうか。では…よく分からぬが任せる。」

 聞き慣れない、市バス、という言葉だが、移動手段なのだろうという想像は付く。

 どんな移動方法なのか判断も出来ない故、エルは朋希に一任した。

「分かった。じゃあ、また明日、10時な。」

「うむ…また明日。」

 特に無駄話もなく、通話は終了した。

 睡眠不足にならない為、今日は本を読むのは程々にしようと思うエルだった。




 翌日、世間一般にゴールデンウィークと称される連休の、1日目。

 エルは待ち合わせの時間に間に合うよう、家を出る。

 向かった先は、久十里駅。

 駅の外に、既に朋希の姿があった。

「おう、おはよう、エル。」

「うむ、おはようだ、朋希。」

 挨拶を交わし、朋希から市バスというものの説明を受けながら、到着時刻を待つ。

 10時15分…バスがロータリーに入り、彼らはバスに乗り込む。

 こうして、エルの短くも長いゴールデンウィークが始まるのだった。

第5話・完

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