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内緒の魔王くん  作者: 如月結花
第5話「会談の魔王くん」
38/63

5話目・その5

 建物の名は、深里みさと市立図書館。

 久十里駅から大通りを挟み、ほぼ反対側に位置するこの場所は、同じく深里市営である体育館が併設された、巨大な蔵書の保管庫である。

 図書館と体育館を合算すれば約1万2千平米。その存在感は、表通りのビル郡にも引けをとらない。

 館内にある全ての本は一般開放されているが、貸し出し禁止の物も多く存在する。

 古く老朽化の進んだ物や、貴重な書物などは、直接原本を見られない代わりに、写しや纏め資料が存在していて、紙媒体だけでなくデジタル媒体も含めれば、優に300万冊以上の本が収められている。

 図書館及び体育館は、深里市に改名される以前から存在する施設であり、表通りからやや外れた位置に建つ割には、近隣住民から多く利用される。

 エル達が訪れたのは夕刻だが、館内には児童・高齢者問わず、幅広い年齢の利用者が、本を探し、また、読み耽っていた。

 倣うように、読書用スペースの長机に、適当な本を数冊持って来て、エルと茉莉は隣同士で腰を落ち着けた。

 尤も、図書館に足を運んだ目的は読書という訳ではない。

 この場の空気に自然に溶け込み、怪しまれないように、読む振りをする為だ。

〔…では話をしようか、茉莉。〕

 時間は有限である。早速エルは、本来の目的に入ろうと、心の中で茉莉を促した。

〔えーと…うん…。〕

 改まって、話をしよう、と言われるのは中々やり難かったようで、どう切り出すか迷った挙句の茉莉の第一声は、

〔………嘘吐いてた訳じゃないんだよ…?〕

 だった。

 茉莉の心は、今までに対する言い訳を述べていた。

 その中に、謝罪の気持ちが込められていることも感じた上で、エルは頷く。

〔用事って言ってたのは、敢えてアルバイトって言うようなこともないかなって思っただけで、その…隠し事とは違くて。〕

〔…うむ。〕

〔今まで用事って言ってたのに、突然アルバイトって言い直すのも何かなぁって思って、言い出すタイミングがなかったっていうか、その…。〕

〔気にしてはおらぬ。〕

 時折、本のページをパラパラと捲りながら、エルは相槌を打つ程度に留め、聞きに徹した。

〔…知られたらちょっと恥ずかしいって気持ちがあったのは事実だけど。…だって、女装で働いてる訳だから…。もし店に来たいって言われたら、やっぱり困るし…。だから敢えて自分から言いたくなかったけど、もう知られちゃったんだから、言わなかったこと、謝るしか出来ない。ごめんなさい。〕

 茉莉の、申し訳ない、と思う気持ちは、充分過ぎる程、エルに共有される。

 心の共有という魔法により、嘘を吐いても互いに分かってしまう前提があるにせよ、嘘偽りを混ぜることなく、素直に気持ちを曝け出していた。

 だからという訳ではないが、エルも真摯に茉莉に向き合う。

〔茉莉が話したくないと思うことを、無理に聞き出すつもりはない。今回はそういう、話したくない内容だっただけであろう?〕

〔まぁ、うん…そう、だね。魔王くんに、ウェイトレスで猫耳な格好なんて、見られるの恥ずかしいと思ってたし。実際恥ずかしかったんだから…。〕

 思い出しながら、茉莉の内は恥じらいの気持ちで一杯になる。

〔奇抜だとは思ったが、可愛らしくて似合っておったのにな。〕

 エルが率直な感想を伝えた途端、

〔~~~~ッ!〕

 茉莉からは、動揺、羞恥、驚喜、そしてもう一つ、ふわふわとした捉えようのない感情が入り混じり、言葉を伴わず流れ込む。

〔ん?〕

 混ざり合った不可思議な感情が何を意味するのかを解せないエルは、疑問を覚える。

 だが、茉莉自体に不自然さはない。

 頬を真っ赤に染めて暫く唸っていた以外は。

 だからエルは、意味を取り違えた。

〔…悪い。何か変なことを言ってしまったようだな。〕

〔う、え、う…そ、そんなことないけど!〕

 詰まりながら、冷静さを欠いた頭で茉莉は返す。

〔………大丈夫か、茉莉?〕

〔だ、大丈夫。う、うん、大丈夫だよ。〕

 心配するエルに頷いてみせる茉莉だが、依然として複数の感情が混在し、落ち着いているとは到底言えない。

〔少し深呼吸してはどうだ?〕

〔ん、そうする…。〕

 深い呼吸を繰り返し、その度に、茉莉から流れ込ていた感情は、徐々に小さくなっていく。

 その頃には、エルが理解し得なかった感情も消え失せていた。

〔…もう、大丈夫。なんか、ごめんね。ちょっと自分でもよく分からなくて…。それに、心配させちゃったみたいで…。〕

 実を言うと、茉莉自身も、先刻の感情の名前を知らなかった。

 気にならない訳ではなかったが、エルも今は思考の外に追い遣り、話を先に進める。

〔気にするでない。アルバイトを隠しておったことも、もう気にするな。我にも茉莉に話しておらぬことはある。魔界でのことも、全てを話した訳ではない。友だからといって、何もかもを話す必要などない。そうであろう?〕

〔…うん。ありがとう。〕

 心の共有で、言いたいことは正確に伝わる。

 すっかり落ち着きを取り戻した茉莉は、エルの言葉を噛み締めながら、肯定と感謝を示し、

〔じゃあ、これにてボクの言い訳タイムは終わりっ!付き合ってくれてありがとう。〕

 と、笑みを浮かべる。

〔友としては付き合わざるを得ない。〕

 釣られるようにエルも、冗談めいた物言いをしながら微笑する。

〔あはは。それで…今日はこの後どうしよっか?まだ帰るにはちょっと早い時間だけど。〕

〔ああ、茉莉。我からも話…というか、相談があるのだが。〕

〔あ、うん。どうしたの?〕

〔…昨日、我の曾祖母と言っていた、詩鶴の話を聞いて、思うところがあってな。〕

 エルの表情、そして、何より心情から、真剣な話であるのは明瞭だった。

〔うん。〕

 今度は茉莉が静かに相槌を打つ番だ。

 エルとの違いは、本のページが丸っきり進んでいないという点に尽きる。

〔茉莉は昨日、あのように言ってくれたが、茉莉のように朋希も、覚悟は決めてくれるだろうか。〕

 言葉には、不安の色が付き纏う。

〔我自身が覚悟しなければいけないのは分かっておるし、覚悟もしておる…つもりだ。だが、相手にも別れる覚悟を強いらなければならぬなら、我は友を作るべきではなかったのだろうか?〕

 迷っている。自分が正しいのか、間違っているのか。

 エルの、自分では決め兼ねる答えを欲する渇望が、茉莉には痛切に伝わった。

〔そんなこと言わないでよ。ボクには、ちゃんとした答えなんてあげれないかもしれないけど…ボクは魔王くんと友達になれて良かったと思ってるし、朋希くんだって、きっとそうだよ。〕

 友達になったことが間違いだなんて、考えて欲しくない。

 茉莉の切な願いは、心の声と成って、エルに突き刺さる。

〔いつか別れが待ってるから…だなんて考えてたら、誰とも関われないよ。楽しい時間だって、失くなっちゃう。魔王くんは人間ボクたちの世界で、誰とも関わらない、つまらない生活を送るつもりだったの…?〕

〔…否。〕

〔なら、友達を作るのがダメなんてこと、絶対ないよ。一人で居る時間って、辛いだけなんだから…。〕

〔…うむ。〕

 他者と関わらずに過ごした孤独な時間を、二人はよく知っていた。

 それぞれの心の中には、当時の記憶が蘇る。

 瞬時に、映像が高速再生されるように、彼らの寂寞せきばくなイメージは溶け合った。

 辛さは二乗され、心の内を埋め尽くす。

〔…思い出すのって、嫌な記憶ことの方が多いよね…。〕

 でも…と、茉莉が続けたのは、

〔漠然とだけど、良い記憶っていうのも、確かにちゃんと残ってるんだ…鮮明には思い出せないだけで。〕

 別の誰かによって、自分が救われたことを、同時に思い出したからだ。

〔…ああ、そうだな。〕

 エルにしても、同じだ。

 孤独の痛みを取り払ったのは、他者の存在だった。

〔もし一生会えなくなるとしても、魔王くんとの思い出は残るよ。魔王くんと一緒に見た景色を忘れたとしても、魔王くんと一緒に居たっていうことだけは、絶対忘れない。嬉しいことも楽しいことも、辛いことも悲しいことも、色々あるかもだけど…この先、ボクと魔王くんが友達で在り続ける限り、全部思い出として残っていく記憶だよ。最後には、全部引っくるめて、友達になれて良かったって、素敵な出会いだったって言えるなら、それが一番良いはずだよね。〕

 茉莉が語った思いは、純粋な虚偽。

 折角、仲の良い友達になれたのだから、離れ離れになどなりたくはない。

 本心は、只それだけ。

 敢えて隠そうとしたのは、エルの負担にはなりたくない、と考えた故だ。

 そうした思惑すらも、心を共有する魔法の前では、簡単に暴かれてしまう。

 だがエルは、茉莉の言葉が嘘だと知り得ても、口を挟まない。…否、挟めない。

〔我は、今この瞬間も、茉莉と友になれて良かったと思っておる。〕

 と、大真面目に返すだけだ。

 先の言葉が嘘だと、偽りだと、否定する程、野暮ではない。

〔そう思ってくれてるなら嬉しいな。〕

 初めての出会いの日からずっと、茉莉は、エルと友達になれて良かったと思っている。

 秘密を晒して、それでも自分と友達でいてくれるエルと友達になれて、良かったと思わない訳がない。

〔感謝する、茉莉。〕

 秘密を共有した日からずっと、エルは、茉莉が友達であることに感謝している。

 何より、心を共有する魔法を使って、それでも自分に対して変わらない配慮を示してくれる茉莉と友になれて、良かったと思わない訳がない。

 互いが互いを必要な友人と認め、共有された思いは昇華される。

〔ボクはいつまでも魔王くんの友達でいたいって、思ってるよ。〕

〔我もそう思う。〕

〔うん、すごく伝わってる。でも感情まで伝わっちゃうのはやっぱりちょっと恥ずかしいかなって…。魔法これ、そろそろ終わりにしない?………ん、あれ?魔王くん?………魔王くーん!〕

 茉莉が終わりにしたいと告げた途端、エルと茉莉の間に繋がれた見えない魔法の糸は、その効力を失った。

 共有する人物の何れかが終わらせたいという意思を持つと、魔法で繋がった見えない糸は途切れてしまう。

 茉莉がエルにそう聞かされたのは、その後、深里市立図書館を出て直ぐのことだった。




 エルが茉莉と別れ自宅へ戻ると、帰宅時間を見計らったかのように、グラゼルが夕食を作り終えたところだった。

「帰ったぞ、グラゼル。」

 リビングに入ってエルが声をかけると、

「お帰りなさいませ、エル様。直ぐにお食事になさいますか?」

 台所に立つグラゼルから、恭しい礼が返ってきた。

「うむ。では頂くとしよう。」

 洗面所に向かい、手洗いを済ませ、再びエルがリビングに戻ると、長机の上には料理が並べられていた。

 グラゼルの用意する食事は毎日、手の込んだ物が多い。

 何をおいても、品目数が多い。

 朝食はパンに具材を載せたり挟んだりする簡易な物だが、用意された具材は必ず数種類ある。

 昼食…週に5日はお弁当になるが、彩りのバランスも考えられ、おかず一品一品に一手間加えられており、出来合いの冷凍食品は一切使われない。

 夕食に至っては、コース料理の如く、前菜からデザート皿まで用意されている。

 この日の夕食も相変わらず、食卓に五種もの食器が並び、加えて冷蔵庫の中ではデザートが待機していた。

 エルは席に着き、早速目の前の食事に手を付け始める。

 2センチ程の厚みにスライスしたフランスパンの片側に大蒜を擦り、オーブンで焼き上げたガーリックトースト。

 レタスとオニオンスライスを混ぜ敷いた上に生ハムを載せ、赤と黄のパプリカを散らし、綺麗に4分割されたミニトマトが四隅に並べられたサラダ。

 人参、玉葱、大根、キャベツ、ベーコンブロックを5ミリ角に刻み、コンソメで煮込んだスープ。

 塩コショウを振ったサーモンに小麦粉を付け、バターで表面をパリッと焼いたムニエル。

 下味を付けた鶏モモ肉を丸ごとフライパンで焼き、溢れた肉汁でマッシュルームと、さっと湯通しして皮を剥いてから細かく刻んだプチトマトを炒め、ウスターソース、ケチャップ、水、砂糖、塩を混ぜて煮詰め、それを上からかけたチキンステーキ。

 それらを食し終えた後のデザートには、甘みを抑えた自作のコーヒーゼリーに生クリームを垂らし、食べる直前にバニラアイスを添えて完成するデザートグラス。

 完食すると、淹れたての紅茶が運ばれて来る。

 1皿ごとの量は然程多くないにせよ、これだけの食事を用意するのに、決して少なくない時間が掛かる。

 魔界と人間界では、食材も台所も、勝手が違う。

 それでも日々、エルに飽きを感じさせず、多種多彩なメニューを作り続けられるのは、ひとえにグラゼルの努力の賜物と言える。

 食事一つ取っても、魔界の執事は、魔王の息子を、仕える主君である以上に大事に扱っている。

 大事に思っているからこそ、グラゼルはエルに、人間である茉莉とは関係を解消するように何度も繰り返し、詩鶴に引き合わせる等、説得する努力を怠らないのも、エルは分かっている。

 ならば、グラゼルが、魔人は人間とは関わるべきではない、と思っているのかというと、それは少し違うらしい。

 人間の恋人がいることが問題のようなのだ。

 丁度1週間前のグラゼルの発言からも、それは読み取れる。

 あの時のエルは、別の目的の所為もあって然程気にならなかったが、グラゼルが友達を作ることに対し、どのように考えているのか、この機会に知っておきたいと思った。

「グラゼルは何故、我に友を作らせようとした?」

 紅茶を飲み、一息付くと、エルは直球で切り出した。

「はて、そのようなこと、致しましたか?」

 質問が唐突だった為、本気で見当が付かない様子のグラゼルは首を捻る。

 流石に言葉足らずであったことを反省し、エルは、今度はちゃんと伝わるように、改めて問う。

「携帯電話を買う条件として、友達を増やせと言ったであろう?」

 具体的に挙げられれば思い当たったようで、グラゼルはポンと軽く掌を手で叩くと、

「そうですな…人生経験というやつでございましょうか。エル様にはもう少し、他人と関わり、関わった方々から、様々を学んで頂きたいと思っておりますので。」

 従者は問われれば応じるのが仕事…とばかりに、端的に述べるグラゼル。

 それを受けエルは、

「そうか。我がかつて、友だと思っていた者に裏切られたことを知りながら、それでもお前は、我が友人を作ることを肯定するのだな?」

 深里市立図書館にて、茉莉と共有したであろう記憶───心の傷を、敢えて自ら言葉に出す。

 過去、エルが裏切られたと感じる出来事は、グラゼルにも心当たりがある。

 それから暫くの間、食事の時間以外は自室に引き篭り、何かに取り憑かれたように独り、本を読み漁っていたエルを、グラゼルは知っている。

 しかし、それでもグラゼルの答えは変わらない。

「逆に人間であればこそ、エル様の身分を知り得ないからこそ、対等な関係を築ける…と思っております。」

 知った上でこそグラゼルは、エルに本当の意味で友達と呼べる存在を得て欲しかったのだ。

 そんな執事の思いを、エルは正しく受け止め、

「ああ、よく分かった。」

 と、深く頷いた。

 今回それを質問するに至ったのは、詩鶴の話がきっかけだろう、というのは想像に難くない。

 ただ、単純にそれだけではないと気付き、グラゼルは、最も有り得そうだと判断した問いを口にする。

「朋希殿と喧嘩でもなさいましたか?」

「否、そういう訳ではない。…近々、喧嘩することになるかもしれぬがな。」

 エルは真剣な表情を崩し、冗談めかしく言う。

 グラゼルは、そんなエルの急激な変わり様に少々驚き、そして喜ばしくも思ったが、

「その様子では、吹っ切れたのでございますね。」

 あくまで冷静に、礼儀正しく応対した。

「我にとってはもう、あれは過去の話で済んでおるのだから、当然だ。」

「失礼致しました。」

 思い出したい過去でないことには違いない。

 しかし、他者と関わりに依ってか、時間が解決したのか、今現在のエルにとっては、再び塞ぎ込む理由でもなくなっていた。

 人間の茉莉や朋希と関係を得た結果というなら、それは幸いだろう…とグラゼルは思う。

 それと同時に、

「そうそう、失礼ついでにお聞きしますが、やはり茉莉殿とはお別れにはならないのでございますか?」

 恋人という認識にある茉莉に対しては、いつも通り別れさせることに務める。

 そんなグラゼルが何だか可笑しくて、

「別れる気などないっ…!」

 エルの口元にはふと、自然な笑みが浮かんだ。

「残念ですな。」

 グラゼルは肩を竦める仕草をしながら返す。

 内心は、それ程簡単に心変わりすることはないだろう、と予想していた為、台詞とは裏腹に残念がる表情など見せない。

「もう一つ聞いておくが。」

「何でございましょう?」

 何ともやり難い、見透かしたような執事にも、エルは特に腹を立てることもせず、先を続ける。

 それが彼らの、今まで通りの主従関係だから、だ。

「茉莉が魔法の存在を知っておるかもしれぬと、まだ疑っておるのか?詩鶴にそれを探らせようとした訳ではなかったのか?」

「ふむ?何故そうお思いに?」

 エルの疑問を肯定するでも否定するでもなく、グラゼルは質問を返す。

「以前お前が茉莉の記憶を覗こうとした時に我が止めたこと、お前は納得しておるのかと、ふと思ったのだ。」

「勿論エル様の仰ることに納得したからこそ、人間的な解決法を今も探っている訳でございますが。」

 答えるグラゼルの言い方は、皮肉のようにも聞こえた。

 しかし、茉莉が関わる話には、総じてそのような言い方を選ぶ為、慣れてしまったエルは気にしたりはしない。

「そうか。我が魔界に帰ることになれば、お前にとって都合が良いのではないかと思ったが?」

 魔界へ帰れば自然と茉莉と決別することになり、魔法を公に使えない、魔人にとって不便な環境で暮らすことを強いられる必要もなくなる。

 頭の回転の早いグラゼルなら、思い付かない手段ではないのだ。

「それはエル様の考え過ぎでございます。」

 毅然と、しかし、やんわりと、諭すような口調で、グラゼルは続ける。

「私はあくまで見張り役、兼、お世話係。エル様の勉学の邪魔をするつもりはございませんよ。」

 グラゼルは決して、人間界が嫌いな訳ではない。

 だからという訳ではないが、エルを積極的に魔界に帰そうとする意思は、この先も持たないのだろう。

「ふむ。」

 エルは納得したようで、すっきりした表情で紅茶を飲み干した。




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