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内緒の魔王くん  作者: 如月結花
第4話「交流の魔王くん」
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4話目・その6

 エルが朋希の協力を経て、携帯を入手した翌日。

 帰りのホームルームが終わったすぐのことである。朋希からエルの携帯に着信があった。

「もしもし?今から彼女連れて第三校舎に来てくれねー?」

 どうやら用件は、呼び出しのようだった。

「だから…彼女ではないと言っておる。それに、まだ同好会の件は話しておらぬ。」

 放課後とはいえ、まだ周りにはクラスメイトが多い為、エルは声を潜めて応対する。

「今から話して連れて来てくれりゃ良いだろー。」

 と、朋希が不満を言いたくなるのも分からなくはない。

 碌に反論も出来ないエルは、

「悪いがこちらにも都合がある。また明日にしてくれぬか。」

 事情を話せない以上、適当な言い訳を述べるしかない。

 学校で、茉莉と連絡を取れないのはやはり不便だ…と改めて思う。

 まだ携帯を買ったことを茉莉には報告しておらず、番号もアドレスも知らない。とてもじゃないが、人目が多すぎて直接誘ったりは出来ない。

「携帯買えたからって、オレの同好会に入るって言ったこと、うやむやにしようって思ってる訳じゃないだろうな?」

 朋希は当然ながら、エルの言い訳を訝しむ。

「そんなことはない。今日会う約束をしている故、その時に話すつもりだったのだ。」

 これは本当のことだ。

 実際、エルは今日、同好会に茉莉を誘おうと思っていた。

「ちっ…まぁいいや。じゃあ明日、絶対連れて来いよ?絶対だかんな?また連絡するからな?」

「う、うむ…絶対とは言い切れぬが、善処する。」

 念を押すように言う朋希に、エルは自信なさ気に返すしかない。

 本人の了承がない内に、軽々しく承諾する訳にもいかないからだ。

「あと、電話よりメールのが手軽だから、すぐメールも送っとけ。」

「分かった。」

 朋希は不機嫌になりながら付け加えるようにして言い、エルが了解すると、そこで通話を終了した。

 エルは自分の名を書き込んだメールを送信してから携帯をポケットに仕舞い、鞄に教科書と筆記用具を詰め込むと、教室を出た。




 茉莉は身支度を整えると、エルのマンションを訪れた。

 普段と同じようにグラゼルが出迎え、簡単な挨拶を交わした後、エルの部屋に通される。

 そんないつも通りの流れで、茉莉がエルの部屋に入ると、

「茉莉、ケータイを買ったぞ!」

 エルは開口一番、浮かれた様子で、見せ付けるかの如く茉莉の前にスマフォを掲げた。

「う、うん。良かったね。」

 茉莉の受け答えは淡白だったが、まるで玩具を買い与えられた子供のように、あまりにも嬉しそうなエルを見るのは茉莉としても始めてで、正直どう反応して良いのか分からなくなってしまった所為である。

「茉莉の番号とアドレスを教えて欲しい。」

「あ、うん。」

 エルに連絡先の交換を求められると、茉莉も携帯を取り出し、自分の電話番号とアドレスが表示されている画面を見せた。

 それをエルは間違わないよう確認しながら打ち込む。

 試しにメールを送り、ワン切りもして、無事に茉莉の電話帳にもエルの情報が追加された。

 まだまだ動作はぎこちないが、エルが着実に携帯の機能を使いこなしていることに、茉莉は感心した。

「それで、少し話があるのだが…。」

 互いの電話帳への登録が終わった途端、エルは真面目に切り出した。

 茉莉は頷いて、話の先を促す。

「実は携帯を買うにあたって、協力してくれた者がおるのだが…その人物の作る同好会に入ることになってな。話すと長くなるが、聞いてくれるか?」

「ん、大丈夫だよ。」

「そうか、では………」

 と、エルは茉莉の同意を得て、三日前の喫茶店で茉莉と別れた後から、昨日携帯を入手するまでの経緯を説明し始めた。

 携帯を買う条件として、グラゼルが茉莉以外に友達を作れと言ったこと。

 友達を作る為に部活の見学をして回っていたこと。

 結局入りたいと思う部活は見つからなかったが、そんな折、声をかけてくる人物がいたこと。

 その人物───藤原 朋希が作る同好会に入る代わりに、友達になれと言ったこと。

 携帯電話を手に入れる為、朋希に協力を求めたこと。

 結果、朋希を友として扱っていなかったこと。

 朋希はそんな自分を友と言い、熱心にグラゼルを説得してくれたこと。

 その時初めて、自ら朋希と友になりたいと感じたこと。

「…ということがあった。」

 エルはそんな風に語りを締め括る。

「色々大変だったんだね…ごめんね、力になれなくて。」

 黙って聞いていた茉莉は、話が終わると、己の力不足を嘆く。

 しかし、それとは別の感情も、茉莉の中に生じていた。

 今まで感じたことがない、心の痛み。

 茉莉にこの情動の意味、そして理由は分からない

 知らない感情が自分の中を埋め尽くしていく不快感を感じつつも、茉莉は至って平静を装う。

 何の為か?エルに知られたくないからだ。

 これが醜い感情だということを、茉莉は本能的に理解している。

 そんな茉莉の内情を露知らず、

「いや、そんなことはないぞ。我が悩んでいたのを察して相談に乗ってくれようとしたではないか。それに、茉莉からは部活というヒントを貰った。茉莉があの時、それを口にしなければ、我は今日この時、携帯を手には出来ておらぬ。だから、今回も我は茉莉に助けられておるのだ。」

 照れくさそうにエルは言う。

「そう言ってくれると有り難いけど…。」

 けど、もっと直接的に手助けしてあげたかった…というのが茉莉の本音だ。

 例え、エルがグラゼルと交わした取り決めが、茉莉が直接どうこう出来るような内容でなかったとしても。

 時間の許す限り部活見学に付き添う、とか。やろうと思えばもう少し何か自分にもできることがあったのではないか、と感じてしまう。

 茉莉の中では、先ほどの感情が、更に強くなったように思う。

 それに比例し、頭の中は不明瞭になっていく。

「まぁ、解決はしたのだ。もし力になりたいというなら、茉莉は我が携帯を持ったことを素直に喜んで欲しい。」

 友の気落ちを悟ったエルは、この話を早々に終わらせ、何とか普段通りの元気を取り戻させようと、言葉を捻り出す。

 しかし、エルの気遣いも、結局今の茉莉の不鮮明な頭では処理し切れなかった。

 喜んで欲しい、とエルが言ったから、それに最大限の努力で応じようと茉莉は試みて、暫し考える仕草をした後、

「えへへ、これでいつでもお話出来るね、魔王くん♪」

 と、凄く可愛らしい声と笑顔を作り、その後、

「…こ、これで良い?」

 流石に恥ずかしくなったのだろう、頬を朱に染めた。

 直後、茉莉の感情は圧倒的な羞恥で上書きされ、如何に自分の行動がおかしかったかを認識すると、頭が沸騰しそうになる。

「う、うむ…良い…のではないか?」

 対して、予想斜め上の返しを受けたエルは、困惑しながら曖昧に頷く。

 否、それだけではない。あまりに茉莉が可愛かったものだから、一瞬、見惚れてしまったことで動揺したのだ。

 互いに気恥ずかしさで、長く沈黙が部屋の中を占有する。

 空気に耐え兼ねたエルは、兎に角何かしらの話題を欲し、

「そ、そうだ!一つ相談があるのだが!」

 と、今思い付いたように声を大にし、互いの頭が思考停止状態に陥っている状況下で、

「先程の話で、その…同好会に、入ることになった、と言ったが…!ま、茉莉も…良ければ入っては、くれぬか…!」

 ある意味今日の本題とも呼ぶべき話───超常現象解明同好会への誘いを切り出す。

「あ…う、うん…!その…人、足りない…んだったよね…!」

 茉莉からの返答は、確かそんな話を聞いた気がする、という曖昧でぎこちないものだった。

「そう、そうなのだ!もし同好会が出来れば、部室は好きに使って良いと言われておる!そうすれば、学校内で人目を気にせずに………済む、場所が出来る!茉莉もそう言っていたではないか!」

 学校内で人目を気にせず()()()()()()()()…と、言葉に出すのが、何だか恥ずかしくなって、エルは止めた。

「そ、そうだね…!でも、ボク…えと…あ、あんまり活動には、参加出来そうにない、かも…!」

 一緒の同好会なら、むしろ入りたい、くらいの気持ちは茉莉にも有ったが、用事が入る頻度が高く、部活や同好会に所属するのは躊躇われる。

「それは…問題ない!参加するかしないかは、自由に決めて構わぬらしいからな…!」

 と、エルが、朋希から言われていたことも伝えても、もし通常の思考状態であれば、茉莉は恐らく同好会に入ることを断っていただろう。

 だが、現在は異常である為、

「じゃ、じゃあ…入っちゃおう…かな…!」

 考える素振りもなく二つ返事をしてしまう。

「う、うむ!そうしてくれ!」

 こうして、第三者から見れば滑稽だったであろう遣り取りは、終幕へと辿り着く。

 ただ、お互いに会話内容が頭に入っているかは、定かではない。

 話題が尽き、再び無言空間が訪れようとした時、若干の平静さを取り戻した二人は、身体の熱を冷まそうと、どちらからともなく外出を提案していた。

 街へ出た後では、先刻の長きに渡る沈黙を、暗黙の了解的に一切言及しないことで、普段通りの穏やかな時間が成立したのだった。




「エル様…そういえば、明後日は、茉莉殿のご都合は付きましたでしょうか?」

 エルが本日の夕食を美味しく平らげた後、グラゼルは問いかけた。

「ん?………明後日?」

「もしやお忘れですか…?」

 疑問で返すエルを、グラゼルは険しい表情を浮かべ見やる。

「日曜日、茉莉殿に、お話があるとお伝えして頂くよう、願いしたはずですが…。」

 そう言われると、そんなことを言われたような気もする。

 友達作りに根を詰めている内、エルはすっかり忘れてしまっていたのだ。

「そ、そうであったな!忘れていた訳ではないぞ!ただ、聞くタイミングを逃したというか、だな…!」

 言い訳をするエルに、グラゼルは静かに疑いの眼差しを向けた。

 そんな執事の視線に耐え切れなくなったエルは、

「………す、すぐに確認を取る…。」

 と、目を逸らしながら小声で呟くと、直ぐにポケットからスマフォを取り出して、茉莉にメールを送った。

 携帯を買ったのだから、今までのように帰り際に次の約束を取り付けなくても問題ないだろう、と今回は茉莉の予定を知り得なかったのだ。

 茉莉からの返信は、思ったより早かった。

 日曜日は用事がある、という感じの割と手短な返信だ。

 それをグラゼルに伝えると、

「左様でございますか…。出来れば茉莉殿にも立ち会って頂きたかったのですが、致し方ありませんな…。」

 改まって話があると言った割には、茉莉が来られないのが些事であるような、奇妙な対応が返ってくるのだった。

 茉莉に対してまたテストを課すなり、別れるよう説得するなり、それとも何か重大な事態が待ち受けているのではないか…と気構えをしたが、グラゼルの言い様を聞くに、どうやら違ったようで、エルとしては少しばかり拍子抜けである。

「エル様におかれましては忘れずに、ご予定を開けておいて下さいませ。」

 完全に忘れていたことへの当て付けのように念を押すグラゼル。

「…分かった。」

 自分の落ち度である為、何も言い返せず、苦い顔をしながらエルは了承する。

「それにしても…茉莉殿は休日はお忙しいようですな。エル様は用事に関して、何か聞いておられるのですか?」

 と、グラゼルは思い付いたように、そんな発言をした。

「否…茉莉は用事としか言わぬ。聞き出すようなものでもないであろう。」

 思い返してみれば、茉莉とは休日には滅多に一緒に過ごさない。

 例外的に、日曜日に遊園地に行ったことがあったが、それ以外の土日は、基本的に茉莉に用事が入っていたように思う。

 だから土日は、一人で街に繰り出すのが最近の常だった。

 勿論、茉莉の用事が何なのかは微塵も気にならない訳ではない。

 単に話したくない様子というのもあり、決してエルの方からは聞いたりしないだけなのだ。

 そんなエルの考え方に、グラゼルは意見を差し挟むように口を開く。

「いけませんエル様、それは浮気の兆候ですぞ…。やはり人間の娘などとは、きっぱり別れた方が───」

 と、最早日常風景の一部になりつつある、グラゼルの突拍子もない話が始まった。

 エルは結局、面倒になって、執事の話を右から左に聞き流した。




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