↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛フラグ管理局折衝課 〜成立確率11%の彼女を折りに行くたび、なぜか俺との縁が育っていく〜  作者: よるの 余白
「複数の100%」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
85/103

第八十五話「川瀬さんが、照合を待っている」

 川瀬奈緒の部屋に上がった。照合の件を、報告した。


「課長の承認が、必要なんです。折衝課の責任者なので」


「承認、してくれそうですか」


「難しいかもしれません。課長は、これまでPAIRの異常をずっと隠してきました。照合は、それを表に出す行為なので」


 川瀬奈緒は、カップを持った。両手で包む、いつもの持ち方だった。


   ◇


「私、課長さんに一度、会っていますよね。介入継続の説明のとき。面白い人でした。何も言わないけど、全部知っている顔をしていて。あの人、たぶん私たちのこと、わかってますよね」


「わかっている、というのは」


「照合しなくても、答えを知っている顔でした。私が待合室で見た、あの人の顔。何かをずっと見てきた人の顔でした。たくさんのものを見て、たくさんのことを言わずにきた人の顔」


 川瀬奈緒は、人を見る目があった。3年間、田村を見続けた人だ。一度会っただけの課長の顔から、彼女は何かを読み取っていた。


   ◇


 課長は、照合しなくても答えを知っている。設立当初のERROR。課長だけが開ける領域。課長は、最初の100%を見ているのかもしれない。見ていて、ずっと、言わずにきたのかもしれない。


 川瀬奈緒は、それを一度会っただけで感じ取った。俺は三年、同じ部署にいて、気づかなかった。毎日同じ部屋で督促を受けて、課長の顔を何百回も見てきたのに。近すぎると、見えないものがある。彼女は遠くから来たから、見えたのかもしれない。折られる側から見た折衝課が、俺の見ていた折衝課と、まるで違っていたように。


「もし、課長が承認しなかったら、照合はできません」と俺は言った。「年度末まで、あと約30日です。それを過ぎると、監査領域が閉じて、1年照合できなくなります」


「それと、本部監査部から照合の予定を確かめる照会が来ています。差出人は、榊という人です。課長は『本部には俺が答える』とだけ言いました」


「答えるって、承認するということですか」


「わかりません。断るとも、言いませんでした」


 川瀬奈緒は、少し笑った。


「私も、行きます。課長さんに、もう一度会いに行きます。私からも、お願いします。照合してほしいって」


「川瀬さんが、ですか」


「はい。折衝さん一人に、背負わせたくないので。これは、二人のことなので」


 二人のこと。その言葉を、川瀬奈緒はもう何度か使っていた。最初は、俺が一方的に折りに来る案件だった。担当者と対象者。一人と、もう一人。それが、いつのまにか「二人のこと」になっていた。照合も、課長への願いも、彼女は「二人で」と言う。背負うものを、半分こにしようとしていた。折られる側だった人が、いつのまにか、隣に立つ人になっていた。


   ◇


 帰り道、駅のホームで、川瀬奈緒の言葉を思い出した。照合しなくても、答えを知っている顔。


 俺は、その顔をまだ一度も、まっすぐ見たことがない気がした。課長はずっと答えを知る側にいて、俺はずっと、答えを知らない側にいた。立場が、似ていた。折る側と折られる側が似ていたように。鶴田が見る側で、俺が見られる側だったように。この制度の中で、人はいつも、知る者と知らない者に分かれていた。俺はずっと、知らない方にいた。明日からは、知る方へ行こうとしていた。電車が来た。今日も、一本、見送った。



次話「出た答えは、消せない」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。