第百五十一話「架橋課の、日々」
照合の日から、季節が二つ巡った。
俺は架橋課で、縁を繋げる仕事を続けている。折衝課は、もうない。縁を折る機関は、役目を終えた。今は繋げる側にいる。窓のある部屋で、朝の光の角度で時間がわかる。三年間、蛍光灯の白しか知らなかった目には、まだ少しまぶしい。
川瀬さんは会社で働いている。週3日だった出社は、週4日になった。二人で休みの日に出かける。いつもの部屋でコーヒーを飲む。この頃の濃さは、俺がちょうどいいと感じる濃さより、ほんの少しだけ濃い。「眠そうな顔をしているので」と彼女は言う。俺の眠りの浅い週を、彼女はコーヒーの濃さで先に知っている。穏やかな日々だった。穏やかとは、毎日選び直しても壊れないということだ。それを、季節二つ分、確かめてきた。
◇
架橋課の仕事は、折衝課と逆だ。PAIRが高い確率を出したペアを、引き合わせる。ただ最近、おかしなことが続いていた。
「また外れたぞ」と桐生が言った。「85%が、会ったら全然ダメだった。今月これで三件目だ。逆に、こっちの62%は初回で成立してる」
「推薦が、ずれてきているんですか」
「ずれてるっていうか——変わってきてる。前はもっと確率通りだった。85%は、八割五分の顔をしてた。最近は、確率と結果が合わない案件が増えた」
俺はその案件のデータを見た。確かに、推薦の並びが以前と違う。確率の高さだけで選んでいない。何か別の基準が、混じり始めている。
「桐生さん。PAIRが、変わってきていませんか」
「お前もそう思うか。架橋課でも噂になってる。PAIRが何か、企んでるんじゃないかって」
企む。機械が。照合のあと、鶴田が言っていた。PAIRは縁を探している、と。その探し方が、また変わってきているのかもしれない。
◇
その日の夕方、鶴田から連絡が来た。久しぶりだった。
「相談したいことがあります。私の、研究のことで」
鶴田はいま、PAIRの異常を研究する専任になっている。折衝課がなくなったとき、そう決まった。月に一度、報告の連絡が来る。数字と、グラフと、短い所見。いつも通りなら、それで済む。
「いいですよ。いつものところで」
「いえ。今日は、私の研究室に来てもらえますか。見せたいものがあるので」
鶴田が、自分の部屋に人を呼ぶ。初めてのことだった。
◇
仕事を終えて、鶴田の研究室に向かった。
保守課の奥の、小さな部屋だった。窓があった。川沿いの、枯れ木が見える窓。鶴田はずっと、窓のある席にいる人だった。高いところから、下を流れるものを見ている人。
ノックをすると、三秒後に扉が開いた。訪ねる側と迎える側が、いつもと逆だった。
部屋に入ると、鶴田が端末の前に座っていた。腕には、いつもの心拍計。机の端に、A4の束。癖は、変わっていない。
「来ました。見せたいものって、何ですか」
鶴田は俺を見た。いつもより、顔が硬かった。心拍計に一度だけ目を落として、戻した。
「……私のことです」
次話「鶴田の、データ」




