表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛フラグ管理局折衝課 〜成立確率11%の彼女を折りに行くたび、なぜか俺との縁が育っていく〜  作者: よるの 余白


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/19

第一話「成立確率11%の彼女は、俺を待っていた」


 俺の仕事は、恋愛を折ることだ。


 成立確率の低い恋を見つけて、終わらせる方向へ誘導する。社内では「調整」と呼ぶ。終わらせる、とは書かない。誰も、その言葉を使いたがらない。


 今日の案件は、11%。


 低い。低いが、0ではない。


 書類の備考欄には、短い追記があった。


 前任二名、介入未完了。


 俺は端末を閉じた。胸ポケットには、配属初日に渡された介入完了スタンプが入っている。案件を終えたとき、書類の「介入完了」欄に押すものだ。


 ただ、システム上の処理はテキストで完了する。スタンプは区切りの儀式でしかない。押さなくても、誰も困らない。


 困っているのは、たぶん俺だけだ。


 312件担当して、俺は一度も押したことがない。


   ◇


 マンションのエントランスで、インターホンを押した。


 ここに来る途中、閉校した小学校の跡地を通った。今は資材置き場だ。「本校は2064年3月をもって閉校いたしました」という看板が、まだそのままになっていた。


 三秒後、扉が開いた。


「また来たんですか」


「初めてお伺いします。恋管折衝課の——」


「三回目です」


 扉が、大きく開いた。


 川瀬奈緒。29歳。PAIR算出スコア11%。


 前任二人が来て、二人とも折れなかった案件。


 書類には、そこまでしか書いていなかった。


   ◇


 部屋に上がった。


 整頓された本棚。小さなテーブル。窓際の観葉植物。その向こうに、公園が見えた。ブランコが一つ、誰もいないまま風に揺れていた。


 そして、テーブルの上には二人分のコーヒーがもう用意されていた。


「座ってください」と川瀬奈緒は言った。「どうせ長くなるので」


「長くなると、なぜわかるんですか」


「二人、長くなりました」


「三人目も、そうなると」


「違うんですか」


 答えられなかった。


 俺は手順どおり、介入の趣旨を説明した。2068年、合計特殊出生率は0.5を記録した。AIシステムPAIRが、全国民の行動ログと感情データを解析する。成立確率30%以下の恋愛には、折衝課が介入する。


 成立しない縁を早期に整理し、次の縁に向かう支援をする。


 終わらせる、とは言わない。


 調整、と言う。


 川瀬奈緒は最後まで黙って聞いた。カップを両手で包んでいる。その指先だけが、少し白かった。


「11%って、失敗する確率じゃないですよね」


「はい」


「成功する確率です」


「そうとも言えます」


「11%は、0%じゃないので」


 手順書に、この返しへの対応は書いていない。


   ◇


 帰り際、胸ポケットに手を入れた。


 スタンプを取り出す。書類の「介入完了」欄に近づける。


 押せない。


 理由は、わからない。


 胸ポケットにしまった。


「また来るんですか」と、玄関で川瀬奈緒が聞いた。


「継続案件になります」


「業務なんですね」


「はい」


「でも、コーヒーは次も置いておきます」


「なぜですか」


「三人目だから、ではなくて。あなたが、ほとんど飲まなかったので」


 彼女はそう言って、二つのカップを下げた。一つは、俺がほとんど口をつけていないものだった。


 その一言を、なぜか帰り道までずっと考えていた。


   ◇


 恋管に戻ると、デスクに今週の割当が届いていた。


 一番上に、見覚えのある名前があった。


 川瀬奈緒。次回訪問——来週。


 その下で、自分の端末が通知を出していた。配属当初からの癖で、自分のPAIRデータを開く。


 スコア欄には、今日も同じ文字が出ていた。


 ERROR


 理由は、わからない。


 11%の案件を折りに行った日も、俺だけは、数字にならなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ