第62話 紹介
八月九日
静子様が退院されてから一週間が過ぎた。
一日の半分はベッドに横になっていらっしゃる。
今日は体調が良さそうだ。安静にと言われているにもかかわらず、静子様は午後からトクさんの家に菓子折を持って私と共にお礼にうかがう。
気にしなくていいのにとトクさんは笑った。けれど静子様はひたすら頭を下げていた。
末廣家の一件以降はなにごともなく過ごしている。
静子様は手術の痕をウィッグという名のかつらでお隠しになっている。
時々痛むらしいが、八月の終わりには職場に復帰されるらしい。顔色がよくくつろがれているところを見計らって、静子様の前で正座をした。
「静子様、お話がございます」
「どうしたの、改まって」
「実は静子様とお会いしたいという殿方がおります」
「私に?」
びっくりしたような顔をされてから、少し考えこむ。
「でも、今はいいわ」
「なぜでございますか。せっかく殿方とお会いできる機会が巡ってきたというのに」
静子様は一瞬だけ顔を歪ませた。やはりどこかお心に影を背負われている。
「少し宜しいですか」
立ち上がり、静子様に全意識を集中させた。
「え、なに?」
ご先祖様の祟りに気づけなかった。ならば今度は気づけるようにしよう。一目見ただけでわかるほどの力はまだなくても、ひとつひとつ丁寧に探っていけばきっと私にだってわかる。
血液に癒着していた邪悪なエネルギーはもうどこにもない。
体の中のどこにもない。大己貴様と少彦名様の澄んだ気だけが若干混ざっている。
全てを確認したあとで、五條天神社の神様がたから聞かされたこと、静子様が意識を失われてからのこと、入院されている間私がしていたことなどを話した。
お体に障るだろうと考えて、秘薬を頂いたこと以外は口にはしていなかった。
「そんな祟りが・・・・・・私の血に?」
「はい。でも浄化されております」
「ああ。私が入院していたときもしたあとも、千福には色々あったのね。だから、代わりにトクさんが病院に来て下さっていたのね」
「はい。祟りは大己貴様と少彦名様の秘薬で恐らく全て消滅しております。その祟りが静子様および静子様ご家族を苦しめていたのかと。ですがそれはもうありません。安心して前を向いて歩いて行かれます。このご縁はきっと、神様からの授かり物かと思います」
リビングの隅にあるホルダー型の鞄掛けに、出雲大社分祠で買ったお守りが目に入った。
静子様も私の視線に釣られて赤いお守りを見つめ、深く考え出したようだ。
「お相手はとても誠実でよいかたでした。静子様は私がいるだけで幸せと言って下さいましたが、静子様には人間同士で幸せになれるお相手が必要かと存じます。それに祟りが消滅したならば、あとは幸せになるだけです」
私は頭を下げた。




