第41話 安倍晴明様
自分の周囲にいる、ヤエさんと咲さん、美穂さんのところだけ飛ばされないようになんとかごく限定的に結界を張る。
限定的になら、私の結界も効いた。
翔君の時よりも風は遙かに強度を増している。
屋敷の者が皆飛ばされて天井にも穴が開き、その天井さえ竜巻に飲み込まれて粉々に吹き飛んでいく。
自分でも驚くほどの威力だったが、またまた怒りで制御ができなくなっている。
他の何羽かの天狗達も羽を広げてはいるものの、コントロールがきかないのかくるくると弧を描きながら吹き飛ばされていく。
「小娘がなにを!」
大天狗が立ち上がりうちわを扇ぐ。うちわの風がこちらへ来る。
まずい。
なんとか集中して結界を強化させた。風をやませればただで帰してはもらえない。
いや、もともと帰す気などないのだろうけれど。
そう思うと風は益々強くなった。大天狗も少しだけ浮くが、あまり堪えていない様子
だ。
他の天狗達は風に負けないように上手く羽を使って動きつつ私たちを捕まえようと必死になる。
私はまだ風しか使えない。他に使えるものはないだろうか。大天狗を素手で持ち上げることはできるものの、対峙などできない。どこかに投げつける? あまり意味がなさそうだ。他は。
私の通力を注いで自在に動かせるもの。考えるが、三人をうちわの風で飛ばされないようにさせるのに必死でまとまらない。気を緩めると飛んでいってしまう。
どうしよう。
そのときだった。
私の浴衣の袖に、人型の白い紙が意思を持っているかのように貼りついた。風の影響をまるで受けていない。これはなんだろう。もしかして――もしかすると。
一度、冷静になって風をやませてみた。木くずや石くずが空から落ちてくるので、三人のそばへ行って即座に立方体の結界を張って守った。
そうして気配がして振り返ると、黒い衣冠姿に黒い冠を被った男性が立っていた。手には笏を持っている。
「那智山の天狗はその昔封印したはずであるが、なぜまだ天狗がおるのか」
ゆっくりとした口調で、その男性は言った。場が混乱した中で天狗達が降りてくる。
瞬時に本物の安倍晴明様だとわかった。漂う雰囲気が独特でありながら透き通ってい
る。
確か、京都には晴明様の祀られている晴明神社があった。けれど私は行ったことがな
いしご縁もない。なにかを感じてやって来て下さったのだろうか。
「お前も狐か」
大天狗が言った。
「聞いているのはこちらである。この娘達になにをするつもりであるのか。どうやらまた悪さをしていると見受けられる」
大天狗が首につけていた数珠を外した。なにか術を仕掛けるつもりかもしれない。しかしそれより速く晴明様は式神を使って大天狗やその場にいる天狗達の動きを封じる。
心が震えた。晴明様がただ手を動かすだけで天狗達は苦しんでいる。
見れば見るほど立ち居振る舞いが美しい。天狗は大天狗を含め、少しも身動きがとれずにいる。
「くそ。縛りがきつい・・・・・・」
大天狗は鬼のような形相で晴明様を睨んでいる。だが晴明様は全く意に介さず、人型の式を宙に浮かしたまま止めると私を振り返った。
「再び風を起こせるか。この屋敷を吹き飛ばせるほどの」
「はい」
今度は意識して竜巻を起こした。晴明様がおられる安心感でコントロールも上手くできたので三十秒もしないうちに、屋敷は全て吹き飛んでいった。
夜空には満天の星が見え、周囲は木々で覆われていた。山の深いところにいるのだ。
風がやむと晴明様はすぐに笏を動かす。
天狗達の集まっているところに大きな穴が開き、その場にいた全員の天狗が落ちていく。
「この野郎!」
大天狗が叫ぶが、意に反してか穴の中へと落ちる。羽で飛ぼうとしても重力で押さえつけられているかのように皆、穴の中から這い上がっては来られないようだ。
晴明様はまたまた笏を持ち上げる。大きな岩が遠くのほうからやって来て、穴を完璧なサイズで塞ぐ。
天狗の絶叫が痛々しい。
五芒星が岩に刻まれた。封印したのだ。更に地面にも五芒星。




