第42話 神様と‥‥
「これでもう二度と出ては来られまい。地に術をかけ穴の中で木っ端微塵にした」
「すごいです」
風だけでは太刀打ちができなかった。少し悔しい。
不意に背後が騒がしくなった。
振り返ると、三人の女の子達が抱き合いながら泣いている。
「ヤエさん、怖い思いをさせてごめんなさい。耳、大丈夫ですか」
ヤエさんに深く頭を下げて謝る。そしてすぐにヤエさんの耳に傷がないかを確認する。
「いいのです。皆様のお役に一時でも立てたなら・・・・・・耳も今は痛くありません」
ヤエさんの耳に傷はついていなかった。悪くなったところもない。
「私、なにもできませんでした。守ると言っておきながら力が及ばず、本当にすみません」
神と名乗っておきながら、自分の無力さを痛感して情けなくなる。
「そんなことはありません。風を起こし天狗を撹乱して下さいました」
「そうだよ。あなたがいなければ私たちどうなっていたか」
美穂さんが言う。
「それでも、私ではなく晴明様のお力で助かることができました」
本当に安倍晴明なの? すごいね。
咲さんと美穂さんは目を赤くしたままそんなことを話し合っている。
「あの。どうしてこちらに・・・・・・」
なぜ本当に晴明様がいらして下さったのかわからなかったのでお訊ね申し上げる。
すると晴明様は変わらずゆっくりとした口調でお話になる。
「七月の初めに、人間の女が我が神社へ祈りに来られた。穢れを溜め込んでいたが、熱心に祈っていた。『神様を誕生させ共に暮らしています。もしこのあたりに千福という名の神の気配を悟ったら、どうぞお守り下さい』と」
静子様が出張へ行かれていたとき、京都の晴明神社にお参りをされていたのだ。
そのおかげで助かったのだろうか。
「その祈りが届いて、私の気配を感じいらして下さったのですか。それとも緊急事態だったから助けて下さったのでしょうか」
「人が呼び寄せた神というものに興味を持った。が、本当のところは大山咋様の命により参上仕った。そなたの使いが大山咋様のところへ赴き、知らせたようだ。そうして直々に獅子の使いを私に寄越し、命が下った」
天様がいらして下さったのだ。空を飛べるのだ。
見回してもどこにもいないようだから、なにか別の仕事をしているかもう帰ってしまったのだろうか。
大山咋命様も、私たちを助けて下さった。山の神だから、あらゆる山のことを把握しておられるのだろう。
「お助け頂きありがとうございました」
私は深々と頭を下げる。すると他の三人も落ち着いたのか、隣へやって来て頭を下げた。
「みな無事でよかった。しかし、那智山の天狗の生き残りがいたとはな。悪さしかしない天狗だ。まだ残党がいないか探してみるとしよう」
すぐに行ってしまわれそうになったので、私は慌てて引き止めた。
「あなたが初めて私に姿をお見せ下さった神様でございます。どこの神社へ行っても誰も姿を見せては頂けず・・・・・・一柱気まぐれに姿をお見せ下さったかたがいらっしゃいましたが、親切にして頂いたのは晴明様が初めてでございます。どうもありがとうございました」
感謝の気持ちを込めて、私は言った。
「私は元々人間だった。神として祀られるようになっても、人間だという自覚はまだある。だから人間の頼み事というのもきかずにはおられない。人間だったからこそ、
人間に近しい神となった。千福殿、そなたも似たようなものではないか」
「人間から神に昇格された晴明様と、人から生まれた私とは真逆に思えます」
「いいや。人間から生まれた神だからこそ、人間に近しい存在となれる。人間の悩みや苦労を知り、力になれる。人から生まれた可愛い神よ、これからも人と共にあれ」
晴明様は微笑んだ。私も釣られて笑って言葉を返そうとして――ふと、晴明様が私を神だと認めて下さったことに気がついた。
「あの。ひとつお尋ねしたいのですが晴明様は私を神だと認めて下さるのですか」
「至極当然。人間の役に立とうとしているもの、超越的な力を純粋な真心で使いこなしているものを神と認めずなんという」
こんな状況であるのにもかかわらず、涙が溢れそうになる。
「ありがとうございます」
晴明様は一瞬首を傾げ、そして神となる条件を思い出したのか納得したように頷いた。
「そなたはまごうことなき神である。これからも人々に福をもたらすとよい。ところで帰れるか」
「はい。私がこのかた達を無事に家まで送り届ける所存ですが・・・・・・」
この深い山の中。周囲には木々しかない。しかももう深夜をすぎている頃合いだろう。電車も動いていないはずだ。




