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第25話 願いと怒り

七月三日


六月の終わりのずぶ濡れになった日が嘘のように、よく晴れている。


本当に暑い。


大山咋命様にご挨拶をしたあとで、仁と寿と共に楠中学校へ向かった。


二年三組のクラスをそっと覗くと、翔君は早速いじめっ子三人組の机に割り箸で作った赤い鳥居を置いていた。


器用なのか細かく作ってある。三ツ鳥居だ。ネットで調べたのかもしれない。


鳥居を倒れないようにするためか、プラスチックの丸い台石まで割り箸にくっつけてある。


ありがたく思った。私の言ったことを信じて一晩かけて一生懸命作ってくれたのだ。


幸あらんことを。翔君に向かってそう呟く。


八時十分が過ぎて、大地と政夫、裕紀がやって来ると「なんだこれ」と言って自分たちの机の上に置かれた鳥居を見ている。三人とも改めて見ると人相が悪い。


「おい、松島。これ、おまえがやったのか」


大地が訊ねている。教室には夏の強烈な光が差し込んでいた。


「そうだよ」


千福。俺はあんたを信じてみる。幸福の神様というのならお願いだ。こんなことはもうなくして欲しい――はっきりと、そのような心の声が聞こえた。


「なーに鳥居なんか作っているんだよ。祟られたことにビビってんのか? それとも俺たちに対する嫌がらせか」


「大事な鳥居だ。不法投棄されている場所に鳥居を置いたらゴミがなくなったという話も聞くからな。これでおまえたちの暴力もなくなる」


「こんなので俺たちが変わるわけがないだろ。宗教に目覚めちまったのか。気持ち悪りぃ」


言って三人は、鳥居をバキリと真っ二つに折り、踏みつけると、翔君をグーで思い切り殴った。翔君は凄い音を立てて椅子から転落する。


私は即座に一階の窓から入って三人の前に姿を現す。


すると三人はぎょっとした顔をする。


「誰だおまえ。子供がなに勝手に中学の教室に入っているんだよ」


言い始めはいつも大地だ。


他の生徒も私の登場にびっくりしたのか、一気に注目が集まる。


あの子、昨日見た子だ! 祟り神だ! 昨日目が合った女子生徒がそう騒ぐ。


すると、全員が恐れをなしたかのようにさっと教室の隅まで離れて、私たちの様子を見守っている。


「え。お前が祟り神?」


大地が顔を強張らせる。


「許さない・・・・・・翔君を殴るなんて。毎日毎日殴ったり蹴ったりするなんて。この鳥居は翔君が私のために作ってくれたもの。それを壊すとは神に対する冒涜。この罰当たり!」


言うと本当に怒りがこみ上げてきた。翔君が私を信じて精魂を込めて作った鳥居。


その鳥居を大事だと言ってくれたのに馬鹿にして壊し、殴るなど許されることではない。


それに、昨日の公園で泣きそうになっていた翔君の気持ちを思うとこの三人に猛烈に腹が立った。どれだけの間、翔君は我慢してきたのだろう。心に負った傷が癒えるのには、どのくらいの時間がかかるのだろう。


鳥居を作ってと言ったのは、神に対する冒涜をこの三人が働くだろうと考えて私自信がこのような心境になることを見込んだためだ。


最初は私自身、軽く怒るだろう程度に思っていた。だが、本当に冒涜された気持ちになってはらわたが煮えくり返っている。

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