主人公ちゃん、決意する
ハッと目を覚ますと、白い天井がみえた。
えぇと、私、確か階段から落ちたんだっけ?
あれは、落ちたというより突き落とされたって感じだったけど……。
「 あら、目が覚めたのね」
「えっ、なんで……」
ベッドの横には夢でみた金髪の少女がいた。
夢の中の私がもっていたスマホの中の少女が。
「えっ?ちょっとまって、え???」
「 ……どうされたの?」
金髪の少女は怪訝そうな顔で私をみつめる。
その表情の中には少しだけほっとした感じがみれる。
本当はお優しいお方ですもんね、誤解されがちだけど。
そう、私は知っている。ずっとみていたから。今も前世でも──。
「エマ・シエスタさん?」
エマ・シエスタ。それが私の今の名前。
乙女ゲーム、『 あなたといる世界』のヒロインだ。
それで、さっきから私のことを気遣っているこの方こそが……
「ソフィア様!」
「 …えぇ、ソフィア・ラトルですが」
私の推しのソフィア様!!
やっぱり、あの夢は私の前世だったのね!
事故で死んだ私は、『あなたといる世界』とういう乙女ゲームに転生したのね!
でも、ソフィア様だけでここが乙女ゲームの世界と決めつけるのは良くないと思うわ。
たまたま同じ名前かもしれないし………
「エマ!階段から落ちたって!!」
「……ウィリアム様、お静かに願います」
バンッと大きな音をたてて、保健室に飛び込んできたのは第二王子のウィリアム様だった。
その後にはウィリアム様の側近のルーク様もいる。
はい、決定です。ここは乙女ゲームの世界です。
だって、攻略対象者のウィリアム様もルーク様もいたんだった!!
あ、なんか思い出してきた。
前世の記憶も戻ったからか、エマの記憶がちょっと薄れていけど……
昨日までウィリアム様と普通に話していた気がする。
それをソフィア様のご友人に注意されたんだった。
「エマ、大丈夫なのかい?」
「 あ、はい。ウィリアム様、ありがとうございます」
「………無事で良かった」
「ルーク様も。ご心配かけてすみません……」
2人とも、私のことを心配してくれたんだなぁ。
昨日まで婚約者いる身で私に構ってくるから、ちょっと幻滅してたんだけど…
これは、お友達ってことでいいのかしら?いやでも、王子にむかってお友達はないよね……。
「ソフィア。お前は出ていけ」
「え?ウィリアム様?」
「エマ、こんな女、かばう必要ないよ」
ふわっと優しい笑顔をみせてくれる。
イケメンは笑ってもイケメンなんだな。
え、まって?庇うってなんのことだ??
「はい、私はこれで失礼いたします」
「えっ、ソフィア様!」
私、さっきから驚いてしかないな。
でも私のこと助けてくれたのに追い出す形なんて酷いもの!
「 助けてくださり、ありがとうございました」
「……………えぇ」
ウィリアム様は相変わらずソフィア様を睨んでいるし、ルーク様はソフィア様を見ようともしない。
そのままソフィア様は静かに保健室を出ていった。
「あいつ…、エマを突き落としといてあんな態度なんて信じられん」
「人の心を持っていない、人形みたいだな」
………はい?ソフィア様が私を突き落とした?
何を言ってるのかしら。
「ソフィア様はそんな事していません!私を助けてくれたんです!」
「エマ、君は本当に優しい。でも、庇う必要はないんだよ。大丈夫、俺が守るから」
いやいやいやいや。どういうこと?!!
さっきの庇う云々はこの事だったのね!
「ルーク、今後ソフィアをエマに近づけさないようにしてくれ」
「あぁ、それがウィリアムの頼みなら」
なんか話しが進んでるんですけど?!
私の言うことまるっと無視なんですけど?!
ん?そういえば、ヒロインが階段から突き落とされるイベントがあった気がする……。
そう、そして、悪役令嬢がパーティで断罪される前振りのイベントだ……。
ウィリアム様が私を守るって言っているからこれはきっと、ウィリアムルートなのかもしれない。
ウィリアムルートだと、確か悪役令嬢は………処刑、だった気がする。
処刑?!ちょっとまってよ!
私はヒロインなんてポジションどうでもいいの!
ただ推しが平和に暮らしてくれればそれでいいのに!!!!!
「エマ、大丈夫だからね」
こんな、こんな、ソフィア様をみてないような、簡単に切り捨てる男にソフィア様は渡せない!
もっとソフィア様を大事にしてくれる方を見つけなければ!!!
推しの平和は私が守る!!!
そういえば、パーティーっていつだっけ?