見てはいけないもの
「〜♪」
居間に行くとテレビから音楽が聞こえる。
ウルツカとネイドが約束を破って、音楽番組を見ていた。
テレビにはデリスが映っている。
今、熱愛報道で世間を騒がせている有名歌手だ。
すぐさま、チャンネルが変えられた。
テスはニコニコとしているが、少し怒っているようだった。
「まったく……ほら飯ですよ。」
「ご飯!」
ウルツカがぴょんと跳ねる。
ネイドもぴょんぴょんと跳ねて、食卓テーブルに着いた。
父はジムで遅くなるのだろう。
筋肉を虐めることの何が楽しいのか理解できない。
「ねえ、今日はバラエティが見たい。」
ネイドが母におねだりをする。
けれどテスは首を振らない。
聞こえないふりをしていた。
「ぶー、ケチ。」
「母様はケチじゃありません、ドケチです。」
ウルツカがクスクスと口を抑えて笑う。
ニバリスも子どもの頃は不満だった。
だが、あまり言うとテスは不機嫌になるので強く言えないのだ。
「ほら、早く食べなさい。」
そこに電話がかかってきた。
テスは席を外して、その隙にウルツカが先ほどの音楽番組にチャンネルを変える。
「怒られるぞ。」
「ちょっとだけです。」
うるうると瞳を潤ませるウルツカは、リモコンを離そうとしない。
仕方ないのでテレビ本体からチャンネルを変えると、特集が組まれていた。
「あ、知ってる。リシアコール花婿誘拐事件。」
ウルツカが指を指す。
それは何十年も前の事件だった。
「今も王子様見つかってないんでしょ?」
「王子の影武者だな。」
ニバリスはポテトサラダをよそいながら答えた。
「僕ねぇ誘拐犯に似てるって言われた。」
ネイドがニコニコしながら話す。
それはニバリスも言われたことがあった。
「耳のせいだろ。」
そうやって話していると、テスがやってきてチャンネルを変えられる。
「見てたのに!」
ネイドが声をあげた。
「私はニュースが見たいんです。」
「今のもニュースだったじゃん。」
「明日の天気の方が重要ですので。」
「明日は晴れだよ。ねえ見たい!」
ニバリスは苦笑すると、皿を片付ける。
ウルツカがその様子を見て口を開いた。
「お兄様、お腹空いてないんですか?」
「あまり……な。大丈夫だよ、ウルツカ。」
ニバリスはそう言うと微笑んだ。
一瞬だけ、その舌に苦い味が乗る。
自分の目が細くなるのを感じた。
*
翌朝、会社に行くとヒソヒソと話し声が聞こえた。
それはいつものことだが、なんだか今日は不味い。
訝しんでいると昨日の週刊記者が、デスク前で待っていた。
「いやぁ、どうもどうも。昨日はすみません。
お兄さんのことでお尋ねしたいことがありまして。」
ニバリスの顔が一気に曇る。
警備員を呼ぼうと、踵を返した。
「ヴァリスさんのことでちょっと。」
小声になって記者がそう言う。
不意を突かれてニバリスは振り返ってしまった。
「意外、でしたか?
お兄さんと言ったらあちらの方が何かと話題になりますものね。」
チラリと外の電光掲示板を記者は見る。
ニバリスは、無視をした。
やはり警備員を呼びに行こうとしたとき、後ろで声がする。
「いいんですか?無視して、あることない事書きますよ。」
記者はカメラを構えるとトントンと叩く。
ニバリスは睨みを効かせた。
「おお、怖。」
パシャと写真が撮られる。
不快だった。
「やめてください、迷惑です。」
「ヴァリスさんが幼い頃、虐待に遭っていたというのは本当ですか?」
「そんな事ないです。」
記者はボイスレコーダーを近づけて、質問を続ける。
「兄弟仲は宜しくないようですね。」
「そんな事ないです。」
そんな事ないの一点張りにムッとした様子で記者は、質問を口にする。
「覚醒剤疑惑についてはどう思われてますか?」
「そんなものありません。」
答えたところで、上司が呼んだ警備員に記者は連れてかれた。
同僚たちの目が突き刺さる。
面倒なことになったとニバリスは思った。




